目を覚ました奏の視線の先には、白い天井が広がっていた。起き上がろうとした刹那、高杉に刺された脇腹に激痛が走り、力無くベッドに身を沈ませる奏。ナースコールを押した奏の元へ駆け付けた医師は、刺された箇所の症状を一から説明し始めた。臓器と臓器の間を刺されていたため致命傷に至らなかったという事実を知った奏は、腹部に巻かれた包帯をそっと撫でる。相槌を打ちながら説明を聞いていた奏は、医師が病室から去ると窓の外に目をやった。空には灰色の雲が広がり、大粒の雨を地面に打ち付けている。病室に近付いてくる足音に気付き、出入り口に視線を向ける奏。やがて奏の前に姿を現したのは、顔の至る所に生々しい傷を負っている土方だった。

「邪魔するぞ」
「……どうぞ」
「やっと喋ったな」

 軽く嫌味を言いながら丸椅子に腰を下ろす土方に、奏は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「正直、俺ァまだお前を疑ってる。だが、高杉に刺されるとこをこの目で見た。それに、お前の自宅から高杉がいた痕跡は何一つ見つかっていない。お前の容疑は、完全に晴れてる」

 立ち上がった土方は、奏に向かって「すまなかった」と頭を下げた。痛みをこらえながら起き上がった奏は、慌てて土方に頭を上げさせた。

「謝らないで下さい。疑わしい行動をしてた私にも、非はあったので」
「そうは言っても、冤罪は警察にとっちゃ重罪だからな」
「……あ、それじゃあ、ひとつお願いがあるんですけど」
「お願い?」
「私が退院するまでの間、家で飼ってる猫の寅次郎にご飯食べさせてもらいたいんです」
「……わーったよ」

 あからさまに嫌そうな表情を浮かべる土方だったものの、プライドをかなぐり捨てながら奏の頼み事を聞き入れた。深い溜め息をつき、頭を掻きむしりながら病室を後にする土方。土方の背中を見送り、再び窓の外を眺め始めた奏の瞳の奥では、複雑な心境を表すかのように朧気な光が揺れていた。


続く






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