とある晴れた休日、奏は庭先で洗濯物を干していた。縁側に並んで座る高杉と寅次郎は、思い思いにくつろぎながら奏の後ろ姿を眺めている。二人と一匹分の洗濯物を干し終え、寅次郎を挟んで高杉の隣に腰を下ろす奏。高杉が淹れた茶を飲んだ奏は、深く息をつきながら足を伸ばした。

「高杉ってさ、お茶淹れるの上手いよね」
「そいつァどうも」
「お婆ちゃんとかに教わったの?」
「いや……昔、世話んなった人がいてな。全てにおいて基本が何よりも大事だ、なんて何でもかんでも叩き込むような人だった。俺にとっての師だ」
「へぇ、素敵な人だね。私も、そういう人になりたいな」

 雲ひとつない青空を見上げながら仰向けになった奏は、同じように寝転がった高杉の横顔を見やった。奏の方から見えるのは、包帯に覆われた左側のみ。

「……ねえ」
「何だよ」
「包帯の下って、どうなってるの?」
「……」
「ごめん、訊いちゃまずかった?」
「いや、別に」
「もしかして、中二病的なやつ?」
「んな訳ねェだろ、バーカ」

 馬鹿呼ばわりされ落ち込む奏を一瞥した高杉は、おもむろに包帯を解きながら言葉を紡いだ。

「攘夷戦争が終わる頃、奈落に捕まっちまってな……目ん玉突っつかれて、このザマだ」

 複雑な表情を浮かべながら上体を起こした奏は、露わになった高杉の左目に恐る恐る手を伸ばした。ふと我に返り、手を止める奏。遠慮がちに宙を彷徨う奏の手を掴んだ高杉は、半ば強引に左目まで引き寄せる。意を決したように顔を上げた奏は、高杉の左瞼を指先でそっと撫でた。

「痛い?」
「痛む訳ねェだろ。何年も前の古傷だ」
「……この目に、最後に映ったものは?」
「さっきから質問ばっかだな……最後に見えたのは、餓鬼の頃からの悪友が師の首を斬り落とした瞬間だったよ。そいつにとっても、師だった」

 自嘲気味に薄笑いを浮かべる高杉の左目に、奏は無言で唇を寄せた。慈しむような口付けが、空を見上げる高杉の瞳の奥に暖かな光を宿らせる。顔を上げた奏の目から溢れ出した涙が、高杉の頬に音も無く零れ落ちた。

「ご、ごめん……やだな、何でだろ。止まんな……」

 慌てて起き上がろうとする奏の後頭部に手を回した高杉は、なおも涙が溢れ出す目元に唇を這わせた。いつの間にか庭先に降り立っていた寅次郎は、我関せずといったように蝶と戯れていた。


続く






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