お風呂上がり、ソファに座りながらアイスを食べていると、銀時が太腿にまたがってきた。ぬくもりと、下半身にかけられた体重が心地好い。

「なあ。目、閉じろよ」

 さすが、自他共に認める加虐性愛者。命令するタイミング、内容、口調、何から何まで加虐性愛者のそれである。
 なんで?と問えば、「いいから閉じろって」と言わんばかりに、大きな手のひらで目元を覆われるだろう。
 無視してアイスを食べ続ければ、「シカトすんな」と、やはり大きな手のひらで目元を覆われるだろう。そして、アイスは奪われてしまうだろう。
 銀時と一緒にいる中で培われてきた被虐性愛者嗜好が、脳幹を麻痺させながら自然と目を閉じさせる。刹那、身を乗り出したらしい銀時の両手が、まるで逃げ道を塞ぐかのように背もたれにかけられた。
 しかし、待てど暮せど次のアクションが起こらない。アイスのカップに滲んだ水滴が、指先から手のひらにかけて、くすぐるように伝い落ちていく。どうしたものかと思いながら目を開けた瞬間、楽しげな笑顔を浮かべる銀時と視線が絡み合った。

「……何がしたいの?」
「別に。奏が目ェ閉じてるの眺めてただけ」
「それ、楽しい?」
「当ったり前だろうが」
「私はアイスが溶けちゃって全然楽しくない」

 食べかけのアイスは、カップの底でとろとろの液体と化していた。人差し指ですくったアイスを、おもむろに私の口元へ運ぶ銀時。滴り落ちそうなアイスを絡めとるように、舌を這わせながら銀時の人差し指を口に含む。引き抜いた指に舌を這わせる銀時の表情は、得も言われぬほどいやらしい。
 口の中に広がる甘みを舌先で転がしていると、不意に唇を塞がれてしまった。右手にスプーン。左手にアイス。もちろん、体を動かすことさえままならない。唇の隙間からねじ込まれた舌が咥内を犯すのを、ただひたすらにやり過ごす。
 長時間の口付けに、舌が痺れ始めた頃。不意に唇を離した銀時は、悪戯っぽく微笑みながら、妖艶な光を灯した瞳で見下ろしてきた。

「もっと」
「……は?」

 普段されるがままの私がおかわりを要求したことは、銀時にとって青天の霹靂だったらしい。それまで余裕綽々だった銀時の様子は一変し、まるで恋愛にウブな少年のようにあたふたし始めた。

「もっと、して」
「奏お前、何言って……」
「早く」

 たくましい首に回した腕に力を込めながら、瞬く間に赤く染まっていく顔を覗き込むと、銀時は意を決したように唇を重ねた。さっきとは一味違う、ぎこちなくも愛おしい口付け。合わせたままの目を互いに逸らさず、ただひたすら唇を喰む。
 指先で柔らかい毛先を撫でると、銀時の瞳の奥に木漏れ日のように柔らかな光が宿った気がした。










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