雨降る夜に出会った高杉と奏は、数日後、一つ屋根の下で奇妙な共同生活を送っていた。初日こそ高杉を敵視していた寅次郎だったものの、奏が仕事で不在の時におやつを与えられた事で徐々に慣れ、今では彼の膝の上でくつろぐほど気を許している。風呂から上がった奏は、触れ合いながらもどこか殺伐とした雰囲気を漂わせる高杉と寅次郎に思わず噴き出した。

「仲良しだね」
「馬鹿言え、こっちは暑苦しくて迷惑してんだよ」

 口ではそんな事を言いながらも、寅次郎の顎を指先で撫でる高杉。顎を撫でられながら微睡んでいた寅次郎は、奏に気付くと反射的に高杉の膝から飛び降り、彼女の足元に擦り寄った。奏が入浴している間ずっと寅次郎を膝に乗せていた高杉は、凝り固まった全身を伸ばしながら立ち上がった。

「茶でも飲むかな」
「私、紅茶がいい」

 仰向けになった寅次郎の腹部を撫で回す奏がそう言うと、高杉は舌打ちをしながら台所へと向かっていった。夕飯や入浴を済ませてから就寝するまでの小一時間とりとめもない話をしながら過ごす事、そして、その際の飲み物を高杉が用意する事が二人の中で恒例となっている。この数日間で台所事情を把握し、緑茶と紅茶とそれらに合う茶菓子を用意した高杉が戻ってくると、寅次郎は一足先に奏の部屋へと姿を消した。こたつに入った奏は、目の前に置かれたティーカップに手を伸ばしながら微笑んだ。

「ありがとう」
「別に」
「怪我の具合は?」
「概ね良好だな」
「そっか、なら良かった」

 ぶっきらぼうに答える高杉に笑みを向けた奏は、ティーカップを両手で包み込むように持ちながら紅茶を飲んだ。四方山話をする二人の間には暖かな空気が流れ、高杉の表情は心無しか穏やかである。一時間後、二人は揃って台所で後片付けをし始めた。

「明日の朝飯、パンで良いだろ」

 朝食の用意もまた、高杉の役目となっていた。

「えー、ご飯がいい」
「朝から米炊くの面倒臭ェんだよ」
「そこを何とかお願いしますよ」
「あんまり好き勝手言ってると、ぶっ殺すぞ」
「こんなんでぶっ殺されてたら、命がいくらあっても足りなくなる」

 高杉の暴言を慣れた様子で笑い飛ばした奏は、洗浄された食器を鼻唄混じりに拭いていった。おやすみ── 後片付けを終えた二人は、どちらからともなく各々の寝室へ戻っていく。翌朝、朝日が射し込む台所には白米を炊く高杉の姿があった。


続く






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