かぶき町の片隅にひっそりと佇む、小ぢんまりとした居酒屋のカウンター。常連である朝比奈奏は、隣で飲んだくれている坂田銀時を横目で見ながら炙り〆鯖を頬張った。

「うまっ」
「……お前、暇そうだな」
「たった今、めんどくさい酔っ払いに絡まれて忙しくなったところ」
「めんどくさい酔っ払いって誰の事だ?あ?俺の事か?上等だコラ、犯すぞクソアマ」
「やってみろよ。金玉引き千切んぞ陰毛頭」

 ドスの効いた声でそう言い放った奏は、唇を噛み締めながら顔を伏せる坂田にひどく動揺した。

「どうせ俺なんか、来る日も来る日も何億という精子を無駄死にさせてる腐れ毛じらみ陰毛頭のどうしようもないオッサンだよ……」
「何でそんな情緒不安定なの?金玉引き千切るとか言ってごめんね、お願いだから元気出してよ」
「陰毛頭ってのは取り消さねーのな」
「嘘ついたら死んだお婆ちゃんに祟り殺されちゃうからね」
「このクソアマが……奏テメー今日が何の日かわかんねーのかよ」
「今日?そもそも今日って何月何日?」
「10月10日だよ」
「10月10日ってアレじゃん、あなたの誕生日」
「奏、お前……」
「なんてね。TOTOの日でしょ。トイレの日」
「いや「あなたの誕生日」で合ってっから」
「いや私の誕生日じゃないから今日」
「いや俺から見た「あなた」じゃなくて「あなた」から見た「あなた」、つまり俺の誕生日なわけだ」
「TOTOの日の方がしっくりくる」

「流すぞ」
「潰すぞ」
「ごめんなさい」
「店長、獺祭ふたつお願いします」

 ハッピーバースデー──ふたつのグラスを受け取った奏は、片方を坂田の前に置きながら屈託のない笑みを浮かべた。幸福感を醸し出しながら獺祭を嗜む奏の横顔を一瞥した坂田は、頬を緩ませつつグラスを手に取った。










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