私は夏が苦手だ。理由は、暑いから。誰か教えてはくれないだろうか。どうして夏はこんなに暑いんだ。誰か答えてはくれないだろうか。私が一体、何をしたと言うのか──。

「お前は何もしてねーだろ」

 ピーカン照りの太陽の下。わずかな日陰に身を寄せながら悶々と考え込んでいると、目の前にいる土方さんがおもむろに振り向いた。知らず知らずの内に、考えていた事を声に出してしまっていたらしい。顔中に汗を滲ませている土方さんは、いささか不機嫌そうだ。
 土方さんの機嫌が悪い理由は、いくつか心当たりがある。張り込みの対象である攘夷浪士がなかなか尻尾を出さないこと、連日のようにうだる暑さが続いていること。そして、私が仕事をサボっていること。パッと思い付いただけで、こんなにも土方さんを苛立たせる要素がある。
 しかし、土方さんの機嫌が悪いところで私には何の影響もない。たとえ土方さんの機嫌が良かったとしてもこの暑さは変わらないし、よしんば土方さんが鼻唄を奏でていたとしても私が真面目に仕事をすることはないだろう。

「そうなんです。何もしてないのに暑いんです。どういう事ですか、これ」
「何もしてねーから暑いんだろ。真面目に働きゃ暑さ紛れんじゃねーの」
「ひどい……」
「っ……悪かったよ、言い過ぎた」
「そんな……そんな嫌味で私を焚き付けられるとでも!?」
「うるせーよ。だいたい二束三文の嫌味ごときで焚き付けられるタマじゃねーだろ、お前は」
「土方さんって、ほんと私のことよく見てますよね。好きなんですか?私のこと」
「あ?殺すぞ」
「あ、間違った。大好きなんですよね、私のこと」
「ぶっ殺すぞ」
「殺したいほど愛してるなんて、土方さんって意外と情熱的なんですね」
「しょうもないこと言ってねーで働け」

 ったく……──吐き捨てるようにそう呟いた土方さんは、紫煙を燻らせながら張り込みを再開した。
 汗をかく土方さんが意外とかっこよく見えたせいか、ほんの少し夏が好きになれた気がする。










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