小さな部屋で(乱藤四郎)
「いっ、痛っ……」
また血が滲むそこを主は優しく撫でてくれてるのに、僕は大げさにそう言う。
「ご、ごめん、痛かった?」
案の定、主は慌てて手を離す。
優しい彼女は申し訳なさそうに眉根を寄せていた。
ごめんね、いつもいじわるしたくなっちゃって。
僕のこと心配してるって実感させて欲しいんだ。
「もぉ、もっと優しくしてよね」
僕は怒ったふりをしながら、彼女の頬にそっと触れる。
いつも白い頬が少し赤くなってる。
まだ出会って間もない僕に触れられるのは怖い?
「主だって、痛いの嫌でしょ?」
「……うん」
「僕は主の為に痛いの我慢して戦に出てるんだから、さ」
「うん……ごめんね、もうちょっと優しくするように気を付ける」
「ふふ、そうしてくれると嬉しいな」
僕はにっこり微笑んで彼女から少し距離をとる。
彼女の体から力が抜けるのがわかった。
ふーん、緊張してたんだ。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
一通り治療を施し終えた彼女は、正座したまま僕を見つめる。
小さな部屋に一人、対、一人。いや、一刀か。
1日に少しだけ訪れる、僕の安らぎの時間。
「次の戦はもっと頑張るからさ……」
「うん…?」
彼女が小首を傾げた瞬間、彼女への距離を一気に縮め、身体に飛びつく。
「わっ、ちょっ……!」
「だからさ、少しこうしててもいい?」
「と……藤四郎……くん!!」
目を白黒させながら彼女が僕の名を呟く。
柔らかい体は緊張でがちがちに固まってる。
「それとも……もっと乱されたい?」
「えっ……!?」
もう顔から火が出るんじゃないかってくらい真っ赤になってるから、ちょっと可哀相になって腕の力を少しだけ弱める。
「ね、他の皆には内緒だよ?」
「う、うん」
「これ、他の皆にはしないでよ?」
「う、うん……」
「約束」
ちゅ、と頬に小さくキスをして、深呼吸すると彼女の香りでいっぱいになる。
ああ、満ち足りた時間。
この部屋にいるときだけ、主は僕のもの。
だから、戦場で傷つくことなんて平気なんだ。
ねぇ、もっと僕を見て。
僕は主の為に命を惜しまないから。
20150118
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