アンケート2013 | ナノ

 「just be MINE」

カツカツカツカツ……

俺はイラついていた。

今日の衣装に合わせた黒い革のブーツが廊下を蹴る音がやけに大きく聞こえた。

楽屋がずらりと並ぶ廊下には、
出演者やらそのマネージャーやらスタッフやら、
知ってる顔も知らねー顔もいっぱいいて誰も彼もが忙しく動き回っていた。

まさに目がまわりそうな現場。

年に数回しかない音楽の長時間生放送番組だ。
長時間ってだけで大変なのに、
生放送とあっては失敗が許されない分緊張が高まる。

緊張を長時間持続させることは誰にとっても骨が折れることだった。


だが、そんなことはもうどうでもいい。
俺はイラついていた。

額に滲んだ汗を拭うことなくまっすぐ前だけを見つめて歩いている。

俺のただならぬ形相を見てか、誰も話しかけてくる者はいなかった。
話しかけられても邪険に扱うだけだろう。

俺の頭ン中は名のことでいっぱいだった。

「…………」

さっきまで俺は最高の空間にいたはずだった。

QUARTET★NIGHTのパフォーマンスは最高の形で終えることが出来た。
でっかい会場に溢れる光りの花たち。
全ての視線が俺たちに注がれて、歌が響いて、客に届く。

最高に気持ちイイ瞬間。

そう、そこまではよかった。

舞台から下がるその瞬間まで客に拳を振り上げて煽り、袖へと下がる。
自分たちの出番を終えて、この後はアーティストごとの軽いインタビューを受けるまでは楽屋で待機のはずだ。

腹も減ったし、弁当でも食っとこうと思いながら楽屋への道を歩いていたその時だった。

「…………名」

見慣れた姿。
無意識に目で追う姿。

知らない男と対峙していた。
いや、知らない男が壁を背にしたあいつに言い寄っているように見えた。

たくさんの人が行き交う様子は全て背景になって、
名とその男だけしか見えなかった。

「ねぇ、きみ、今年デビューした新人さんでしょ?」
「は、はい…!宜しくお願い致します」

知らない男……いや、テレビでは何度か見掛けた顔だった。
若い男を中心に組織されたアイドル養成所からデビューした人気アイドルグループの一員だ。

「もうこの業界には慣れた?」
「いえ、まだまだです。宜しければ、色々教えて下さい」
「ふふっ。ねぇ、きみの事務所って恋愛禁止って聞いてるけどホント?」
「は、はい!なので……」
「連絡先訊いちゃダメ、とかそういうのはナシね」
「えっ……」

見たくもねぇ光景を俺はただ見ているしかなかった。
何度も思い描いていた不安が現実となった恐ろしさで足さえ動かなかった。

俺と名が恋人同士だということは事務所のメンツ以外、誰も知らない。
今年、シャイニング事務所からデビューしたばかりのあいつにとってスキャンダルは大問題だ。

あいつと俺との関係は、あいつがまだデビューする前から続いているから、
事務所の連中は大目に見てくれているけど、
マスコミが知ったら面白おかしく記事にされるだろう。

「きみから連絡先聞いちゃダメっていうなら、俺の連絡先受け取ってよ」
「……あ、あのっ」
「連絡する、しない、はきみの自由だよ?」

男は一歩あいつに近づく。
彼女は逃げ場のない身体はそのままに、顔だけそむける。

そして、俺と目が合った。
男は俺に気付かぬまま、尻ポケットから取り出した小さな何かを彼女の手に無理矢理握らせる。

「ったく……なにやってんだ……」
頭をかきむしってかぶりを振る。
止まっていた足が動き出した。

「おい」
大股で近づき、あいつを男から遮るように立つ。
背の後ろで、名が身を固くした気配を感じた。

「ああ、カルナイの黒崎さん。お疲れ様です!今日もかっこよかったっすよ」
「ありがとうございます。あの、こいつ、俺の事務所の後輩なんで」
「……ふーん、そうだったんだ」

男は俺を見据える。
にこやかな笑みを湛えているけど、ナンパを邪魔されて少しイラついているような表情だ。

「じゃあ、名ちゃん。またね。お疲れ様」

男は俺の後ろに隠れている名に小さく手を振ると、軽く会釈をして去っていく。
その姿が少し離れてから、俺は振り返った。
顔を紅潮させた名が大きな瞳で見つめてくる。
口元を軽く抑え、緊張が解けたからか微かに震えているようにも見えた。

抱きしめてやりてぇが、ここじゃ人目に付きすぎる。
俺は伸ばしかけた手を所在なげに自分の後頭部に置いた。

「名」
「はっ、はい……!」
「こういうことがあるんじゃねーかっていうのが一番心配だった」
「すみません…」
「困ったらすぐ言えっつったろ」
「はい…」
「マネージャーは?」
「先に楽屋に戻っていると言っていました」

そうだった。いつも彼女に付いてくれてるマネージャーはとても熱心だったが、
今週はインフルエンザにかかったと別の男が臨時マネージャーとしてついてきてたんだった。
俺はそいつがあまり好きじゃなかった。

「くそ、仕事しろよ…お前は新人なんだから傍にいてやらなきゃだめだろ…!」
「す、すみません…!」
「おまえのせいじゃねーよ」
イライラが声にノッて刺々しい言葉へと変わる。
こいつが悪いわけじゃねーのに、何回も謝らせて何やってんだ俺は。
落ちつけ。

「……わりぃ。お前が悪いわけじゃない」
小さく息を吐き、もう1度そう言った。
「……はい」
「ステージは…悪くなかった」
「ありがとうございます…!」

瞳に光が戻る。ハの字に下がっていた眉毛も元に戻った。
その言葉にウソはなかった。彼女のステージは俺たちのひとつ前で、
袖からその姿を見守っていた。

おっちょこちょいで、よく何もねぇとこでつまづいたりする名だけに、
今日も心配だったが、その姿は日に日に成長しているように見えた。

「楽屋行ってろ。なんなら送るぞ」
「あっ、いえ……その……あまりふたりきりというのは…」
名は周りを伺うように視線をさ迷わせる。
何人かのスタッフがその視線から顔を背けた。
確かに、変に勘ぐられたりしないようにするのが賢明だ。

「わかった。気を付けて行けよ。お前もインタビュー待機か?」
「いえ、私は先にインタビューを終えてしまいました。なので楽屋に帰り仕度をしたら先に事務所に」
「そっか。じゃあまた……」

軽くかがんでその耳元に唇を寄せる。
「……夜に」
名の身体が緊張するのがわかる。こういうビビりなところも可愛いなんて思っちまう。
スリルを楽しめるような大人になるにはまだ遠い可憐な女。

名は何も言えず、ただこくこくと頷いただけだった。
逃げるようにこの場を後にする。何も走ってくことはねーだろ。
膨らんだスカートが駆けるたびにふわふわと揺れていた。



「ハァ?」
「だーかーらー、ただの噂だけどね?あの悪名高いプロデューサーが名ちゃんのことを周りにしきりに訊きまわってたってハナシ!」
嶺二が眉を顰める。
楽屋に戻るとそこにいたのは嶺二だけだった。藍とカミュの姿はない。

俺の姿を見るなり「ちょっとちょっと〜ランラン〜だいじょうぶなわけー?」と話を切り出してきやがった。
うぜーと思いながらも名の名前が出たから聞いてやれば、そんな話だったわけだ。

「あの男のお気に入りになれば爆発的に人気は出るだろうけど、悪い噂も多いからねぇ……まぁ、うちの社長に限って彼女を危険に晒したりはしないだろうけど」
「なんだ、悪い噂って」
「何も力がない女の子がタダで目をかけてもらえると思ってるの?」
「…………なんだよ、言えよ」
嶺二は勿体ぶってから俺の耳元で囁く。
「ま・く・ら、でしょ」
「なっ……!」

枕営業。
カラダと引き換えに力を貸してもらう営業のことだ。
この業界じゃよくある話だと思ってたが、あいつにその危険が…?

「それにね、僕ちん見ちゃったんだ。あの男、名ちゃんに挨拶してたとこ!」
「ハァ!?」
「僕ちんが見たのは舞台袖でね、2人が会釈をして別れるとこだけだったから詳しくはわからないんだけど…って、ちょっとランラ」

嶺二の言葉を最後まで聴かずに楽屋から飛び出していた。



俺はイラついている。

靴が床を蹴る音が大きく響いている。

その枕営業を強いるような男に目を付けられた?

嶺二は俺よりも先に楽屋に戻っていた。
俺が名と会ったのはついさっき。すぐにあいつは楽屋へ戻っていった。
嶺ニは舞台袖で見たと言ってたことを踏まえ時間的に考えれば、その男と名が接触したのはそれより前だ。

「じゃあ、なんであん時言わなかったんだよ……!」

困ったことがあったら頼るようにいつも言っていた。
新人アイドルが大変なことはわかってる。
俺だって通ってきた道だ。
それに加えてあいつは不器用だ。強いけれど優しすぎる。
競争社会であるこの業界には向いてない。

だからこそ俺が守ってやらねぇと…
24時間そばにいられるわけじゃない。
でも気を付けてないと、連絡先を渡されるだけじゃ済まなくなる。

扉の横に貼ってある紙に書かれた名前を確認し、楽屋の扉をノックもなしに開けた。

「おい、名、いるか」
楽屋の扉を開けると着替えを済ませた名と彼女のマネージャーがいた。
もうすぐここを出る、といった状況のようだ。

「くっ、黒崎さん!?」
「ちょっと、黒崎くん勝手に入ってこられちゃ……」
いけすかねぇマネージャーは俺を外へと押し出そうとする。
「うるせー、てめーの職務怠慢の事実、おっさんに言うぞ。知らねぇと思ったか?」
「なっ……」
「わかったら出てけ。俺は名に話がある。終わるまで扉の外にいろ」

俺の根拠のないでっちあげの言葉に意外にも心当たりがあるのか、
男は青ざめた顔をして外に出ていった。扉の上部にはめられている磨りガラスの小さな窓から男の影が見える。
言いつけどおり扉の前に立っているようだ。

「……ま、意外でもねぇか」
扉から再び中へと視線を戻す。
名が困惑した顔で俺を見ていた。

「帰るのか?」
「はい。あの……どうしたんですか?」
「…………」
困惑したままの表情で佇む彼女に近づく。
その白い頬に手を添える。

少し前まで、こいつは俺だけのものだった。
彼女の色んな表情を知っているのは俺だけのはずだった。
でもいまじゃ俺に見せない顔を、不特定多数の男の前に晒す。

「……ん…」
唇を親指で軽く押すと、赤く色づくそこは瑞々しい触感をもたらす。

「お前がデビューすることに反対したのを覚えてるか?」
「……はい」
「なんでかわかるか?」
この問いに、俺を見つめていた瞳は伏せられる。

「……私が不器用でこの世界に向いていないと…」
「…………」
「それに歌も踊りもまだまだで人前に立てるレベルじゃな」
「本当に、それが理由だと思ってんのか?」
自信なさげに、以前俺が述べた言葉を紡ぐ彼女を遮る。
再び開いた瞳にはイラついた俺が映っていた。
「私も、その通りだと思ったので…」
「それは以前のお前だ。今はアイドルとして十分頑張ってるだろ。そりゃあ、まだまだなとこだってある。けど、それが…本当の理由じゃない」
「じゃあどうして……」

彼女の顔から手を退け、その身体を抱きしめた。
華奢な名の骨が軋むくらい。
外の寒さに備えて少し着ぶくれてるやわらけぇ身体に俺の腕が食い込む。

「黒崎、さん?」
「お前を危険な目に遭わせたくなかったからだ」
「えっ……」
「危険な目に遭わせたくなかったし、怖い想いをさせたくなかったし、誰にも傷つけさせたくなかった」
「黒、崎さん……」
「先輩、後輩とはいえ……同じ業界にいるとはいえ、四六時中守ってやるなんてできねぇ。俺の手の届かないところに……お前が行っちまうのが、正直怖かった」
「…………」
「ったく……こんなこと言わせんな。……かっこわりぃだろ…」
「……す、すみません…」
「……この業界は綺麗な面だけじゃねぇ。お前だって今日感じたんだろ?」
「っ……」
腕の中で名がびくりと身体を震わせる。

「ロリコン変態野郎のことは気にすんな。俺がおっさんに言っといてやるから」
「……はい……」
「変なことされなかっただろうな!?」
「されてません!大丈夫です!ただ、ふたりきりで会いたい……その、ホテル……で、と…」
「ホテルだ!?」

腕を緩め、身体を離す。
彼女の顔をまじまじと見つめる。

名は心外だとばかりに表情を強張らせた。
顔を少し赤くして反論を試みる。
「いっ、いかがわしいホテルではありません!夜景が綺麗だと有名な格式あるホテルで……食事でも……と」
「んなこと関係ねーだろ!ロリコン野郎にとってお前と二人きりになれればどこだっていーんだよ!食事だけで済むわけねーだろ!」

睡眠薬みてーな変な薬盛られて部屋連れ込まれて好き勝手やられんのが目に見えてる。
そんな噂を聞いたことがあった。

「ったく…」

なんだってこう危なっかしいんだお前は。
イライラする。

「……お前は誰にも汚させねぇ」
「……っ!」

身体ごと押して壁へと押し付ける。
乾いた音がした。もしかしたら隣に響いたかもしれない。

「お前の身体は俺だけが知ってればいいんだ」
「黒崎さん……?」
「敏感なとことか」
「ひゃっ…」

髪に隠れた耳を唇で探り当てて甘く噛むと、小さく声を上げる名。
やわく噛んでから、舌を尖らせて耳の中へと突っ込む。

「んっ……やっ……くすぐったいです…!」

反論する声を無視して中を弄ったあと、左手を動かして彼女の身体をなぞる。
いつもはあまり露出の少ない衣装を着ているがゆえにあまり目立たないが、
実は着やせするタイプの胸。
着ていた服の内側へと器用に手を滑らせ、潜り込ませそこを強く掴む。

「あっ!!」
「右胸のが感じやすいんだよな?」
「やっ……」

引っ掻いてやるとすぐに勃ちあがった部分を摘まんで捻ると仰け反り、白い首をあらわにする。
今度はそこに口づけを落とし強く吸う。

「ぁっ、んっ……ああっ……」

ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い、赤い痕をつけながら胸は刺激し続ける。
小さい呻き声が断続的に上がる。
名の手は俺の服を強く掴んでいる。そうすることで刺激を逃がしているように見えた。

手のひらに収まりきらない胸は力を加えるごとに形を変えて、何度触っても飽きることはない。
それどころか触り心地最高。離したくねぇ。
感触を毎度確かめるように確実に揉みしだく。

手はそのままに、唇を離して彼女の顔を見つめてみると潤んだ瞳で見あげてくる。

「だっ、だめです!黒崎さんっ……こんなところで……」
「なんでだよ。仕事終わったんだろ?」
「で、ですがっ……!誰かが」
「誰も入ってきやしねぇ。あいつを見張りに立たせてる」
「でもっ…!」
「お前が大声出さなきゃばれねーな」
「くろ、っ……っ!」

それ以上の追及はごめんだと唇を塞ぐ。
無防備すぎる彼女に抱いたイライラを爆発させるように、荒々しいキスをしてやる。

「っ……むっ……んっ……ぁっ」
「はっ……ぁ……んっ……」

今度は俺の右手がもう片方の乳房を探り当て、両手で両胸を鷲掴む。
どちらの手も同じように動かしてみたり、シンメトリーな動きをして、
寄せたり、こねたり。

キスで酸素を奪って、胸を刺激し続けて、
名の息がいよいよ上がってくる。
苦しそうな表情、鼻から漏れる声がだんだん色めき立つ。
俺の耳を溶かしそうなほど甘くて、俺の心もソコも容易く刺激される。

誰にも聞かせたくねえ声。
これをひとり占めできる優越感。
支配欲が満たされていく。

「っ……んっ……ん……っ!」
めちゃくちゃにしたくて、
両方の乳首をぎゅっと捻りあげると彼女はかぶり振ってたまらずキスから逃げた。

「…はぁ……っ……逃げんなよ」
自分の声がだらしねぇ。
彼女に懇願するような、でも命令するような、そんな声。
「だ、って…っ!!」

もう1度唇を塞ぐ。
両胸はめちゃくちゃに揺さぶりながら、彼女の両足を割って身体を割りこませる。

「!?」
「っ……んっ……」

乳首を爪でリズムよく引っ掻きながら、口内を犯す。
舌を掬いあげて吸って、角度を変えて別の場所探って……口の端からは唾液が零れる。

ちゅ、と音を立てて唇を離す頃には、二人の唇は唾液でてらてらと光っていた。
俺の唇には赤い色が付いてるかもしれねぇ、なんて思うと笑えて来た。

いっそこのままインタビュー受けてやろうか。

「はぁっ……ぁっ……黒崎さ……んっ……だめ、だめですっ……!これ以上は…!」
「これ以上しねぇと俺が死ぬ」

彼女の手を掴んで張りつめて熱いそこへと導く。

「っ……助けて、くれるだろ?」
「…………っ……」
「……服汚さないようにしねーとな」

誰に言うでもなく呟くともう1度、今度は軽くキスをした。

彼女は生足にニーソ、そしてミモレ丈のスカートだった。
スカートの裾を持ち上げて、彼女の唇へと持っていく。

「咥えろ」
「えっ……!?」
「汚したくねーだろ?それに、声おさえねーとな?」

俺はちらりと扉の方を見る。
そこからは外にいるマネージャーの影がぼんやりと見え、言いつけ通りそこにいることがわかった。

「鍵は掛けてねぇ。お前の声が聞こえたらあいつは入ってくるかもな」
「そ、そんなっ……!」
「ほら、口開けろ」
「…………っ」

観念したのか、名はおずおずと口を開けスカートの裾を噛む。
彼女の意思を、言葉を奪う。
無理矢理押し込むのではなく、自らの意思でそうさせたことで支配欲が一層満たされる。

「いい子だ。じゃ……がんばれよ?」

言いながら片手でベルトを外し、自身を取り出す。
名の痴態と楽屋という場所がいつも以上に俺を刺激していた。
痛いくらいに勃ちあがったそこ。

挿れる前に名の両足の間に手を滑り込ませる。
下着をずらして指を入れるとそこは愛液で溢れていた。ぬるぬる滑ってどこ触ってんのかわからないくらいだ。

「へぇ……すげーな」
挑発的に囁いてみると彼女は絶望的な表情を浮かべる。
いつもみてーにベッドの上じゃない、家じゃない、他人がすぐそばにいる場所で、
しかも半ば無理矢理されているにも関わらずいつも以上に反応していることを確信していたようだ。

「無理矢理されるのは嫌じゃねーのか?むしろ、好きみてぇだな」
「ふっ、んんっ……!」
「じゃあなんでこんな濡らしてんだよ。床濡らすぞこれ」
「っ……!」
「いま蓋、して……やる、から……っ」
「…………!!!!!!」

窮屈な体勢で彼女の身体を少し抱え上げ、壁に押し付けながらぐちゃぐちゃになってるそこへ自身を突き立てる。
そして持ち上げていた彼女の身体を重力に任せると奥の奥まで挿いっていく感覚。

壁に名の背を押しつけると安定する。
彼女を抱えていた腕を解いて、腰だけで彼女を壁に押し付けている状態にした。
これで両手が自由になる。
その手を彼女の両頬へと這わせ、優しく撫でる。
優しい手つきとは裏腹に俺の視線はきっと獣じみているんだろう。
彼女をどこまでも追い詰めたい欲望が腹ん中で首をもたげるのを感じていた。

トロトロのそこが、侵入してきた俺に絡みついてイかせようとする。

「っ……力、抜け……」
「んっ……んんっ!!!」

そっか、喋れねーんだったな。

「ほら」

ぐっ、と腰を押しつけるとぎゅうっと目を瞑る。
呻き声だけが小さく響いた。

「そういやこの後インタビューあるんだっけ。俺が戻ってこねーと嶺二辺りが迎えにくるかもな?」
「!?」
「そしたらあのマネージャー、扉開けんじゃねぇか?」

ナカが締まる。油断するとイきそうになるくらい、気持ち良すぎておかしくなりそうだ。

「扉開けたら俺たちがヤッてんの見てどう思うだろうな。スカート咥えてるお前見て、お前から誘ったんだと思うだろうな」
「っ!?」
「っ……っ、締めんな…って…ぁ……気持ちい……っ」

辱める言葉を囁くたびにただでさえキツいナカが一層キツくなる。
嗜虐心を煽る女だと思ってはいたが、本人に被虐願望があるからかもしれない。

「すぐ……っ……はぁ……何も考え…られなく、してやるっ……」
「っ!…………っ!」

ぐっ、ぐっ、と規則的に突き上げる。濡れた音が響く。

それに加え、両手を服の中に突っ込んで揺れる胸を掴んで潰す。
服の下に隠れたそこで密かにずっと勃ちあがってる乳首を刺激するたびに、またナカがきつくなった。

俺のリズムに併せて髪が足が胸が揺れて、布を噛んだ口の隙間からは甘い声が漏れる。
さっき何千人っつー観客を魅了していた歌を紡いだ唇は、
どろどろの水飴みてーにすげー甘くて耳に絡みつく濡れた声を発している。

俺しか知らない名。
さっきまで幾千もの瞳で犯されてたお前を、
俺だけが、心、カラダの奥まで犯してる。

そう考えるだけでイッちまいそう。

「っ……!んっ……!っ!」
「っ……くっ……ぁ……」
「っ……!ふっ……んっ!」
「ほら、声でっかくなってんぞ……あいつこっち見てるかもな」
「っ!……っ!!」
「はっ……ぁ……いいっ……すげー……たまんねぇ…」
「っ……っ……!!」
「俺以外にっ……んっ……触らせねぇ……!俺だけのものだ……っ」
「っ……んっ……!」

腰を打ちつけながら表情を伺うと、名は辛そうな表情で快感を押し殺していた。
歪んだ眉に濡れた瞳。赤く染まった頬、噛みしめてる布は唾液でべたべたになっている。

布を引っ張りだして、溢れる声を解き放って、
誰だか知らねー隣の部屋の奴らにも、扉の前に立つぼんくらにも、
この建物のどこかにいるロリコン変態野郎にも聞かせてやりたい。

そんな欲望を律動に変えて、名を揺さぶる。

「っ、っ!……っ!」
「はっ……ぁ……っ……」

そのときだった。

『黒崎くーん……あの、まだですか?』

扉の向こうから間の抜けた声が聞こえた。
例のマネージャーだ。

「っ……!!」
名の目が開かれる。俺は口を歪ませ笑う。
「そろそろ俺たちがナニしてるか気がついてるみてぇだな?」
「っ……っ!」

彼女を揺さぶり続けたまま、俺は扉の向こうへと声を投げる。

「もう少し待っていて、下さいっ…ぁ…………っ……いま取り込み中、なんで」
『は、はい……!あとどれくらい…かな……?』
このとき再び嗜虐心が疼く。
彼女の口からスカートの裾を突然引っ張り出す。

「……えっ……?」
「お前からあいつに言えよ、もう少し待つように」
ぐっ、と腰を揺らすと、また声が漏れる。
しかし、布を噛む、というクッションがない為、名の声はダイレクトに響いた。

「黒崎さ……」
「早く」
「あっ…」
もう1度突き上げる。言うまで何度だってやってやる。

「あ、あの……もう少しだけっ……っ」
言い始めるその身体を容赦なく突き上げてやる。
リズムに合わせて声が震え、何を言ってるかわからないくらいに乱れる。

『どうしましたか?』
「あ、っ……の……あと……15分くらい…待ってっ……っ……下さいっ!!」
『は、はい……!!わかりました!』

言いきった彼女は両手で口を塞ぐ。
俺は相変わらずその身体を突き上げながら、表情を観察することを楽しんでいた。

乱れた言葉、甘い声に予想通り何かを感じたらしい扉の向こうのあいつはもう何も言ってこねぇ。

「ばれたな」
「そんなっ……!」
潤んだ瞳に不機嫌な色を滲ませてお前は俺を睨む。

「そろそろいかないとな……俺の首に腕をまわせ」

名は泣きそうな表情で腕をそろそろと俺の首にまわし、抱きつくような姿勢をとる。
そうしないと終わらないことがわかっているようだった。

「んっ……」

繋がってる部分の角度が少し変わるだけで吐精の衝動に襲われる。
それをこらえながら彼女の足を抱え直し、腰を掴んだ。

「声、我慢できねぇなら、肩噛んでろ」
「……黒崎さんの……バカ!」
「自分の魅力に気付かねぇ無防備なお前の方がバカだ。ほら、噛めよ。手加減しねーぞ」
「…………ぁむ」
左肩に鋭い痛みを感じる。
小さな口がそこを噛んだようだ。予想以上の痛みには抗議の意味が含まれてるんだろう。

「上等。いくぞっ……!」
「っ……!」
「はっ……ぁっ……ん……くっ……」
「っ、……っ、……っ!!!」

さっきよりも速く強く突き上げる。
追い詰めて追い詰めて、俺の想いをぶつける。

「はっ……あっ……あ、いっ……っ……」
「むっ……ぁっ……んっ……!!」

高揚感、焦燥感、吐精感。
全てが綯い交ぜになって世界は俺たちだけになる。

俺が名を追いつめてやる、って意気込むけど、
結局あいつが俺を追いつめて、果てさせる。

名だけが、俺に最高の世界を見せてくれる。

「っ……!!」
「くっ……ぅっ……!!!」

同時に見た世界が、どうか同じであることを願って。



「ランラン最悪」

俺はインタビューに遅れるわ、臨時マネージャーには変な目で見られるわ散々だった。
結局汚れたあいつの服。
その日着ていた衣装を買い取って、着替えて帰っていった。
怒ってる名に平謝りを繰り返したが、許してもらえてるかはわからねぇ。

「……仕方ねーだろ。つい……っつーか…」
「嫉妬に狂った男は恐ろしいねぇ〜!」
「そういう人間を”色情魔”っていうんでしょ」
「アイアイ、そういう単語を簡単に使っちゃいけません」
「黒崎もロリコン変態助平ジジイと変わらんではないか」
「ロリコン変態助平ジジイって…ミューちゃん、それ言い過ぎだよ…?」

インタビューが終わった後、遅刻の理由を訊かれた俺は疲れていたこともあって、全てを正直に話してしまった。
直後、既に後悔しているが。

「名ちゃんが怒るのは当たり前だよぉ〜!ちゃんとケアしてあげなよ!」
「るせー。そのつもりだっつーの……」
「なんなら詫びのつもりで死んでも構わんぞ、黒崎」
「てめーが死ね、100回死ね」
「不毛な争いは時間の無駄だよ。ボク、次の現場行くから」

藍が立ちあがった瞬間だった、ポケットに入ってるケータイが震える。

名からのメールだ。

『まだ怒ってます。許して欲しくばキャレットのポップコーンを献上して下さい。ちゃんと部屋まで届けること』

口元が緩む。
部屋まで持ってこい、ってことは、予定通り夜は部屋にきてほしいってことだ。

「……可愛いやつ」

俺のひとことで楽屋が凍りつく。

「やっぱり死ね黒崎。勇気がないなら俺が手伝ってやる」
「あーあ、結局惚気られたってことなのぉ?話聞いて損したぁ」
「もしかして名も色情魔なの?それともランマルの性癖移ったの?」


ポップコーンを買って…全種類買ったっていい。それでうんと御機嫌をとってやろう。
散々甘やかして上機嫌にさせてから、今度は急がずゆっくり、一晩中あいつの声を聞こう。

可憐な声が紡ぐ艶めくメロディを、一晩中。


*END*2014.12.21.


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