ときレス | ナノ


帰り道にご注意を(辻/裏)


とんとん

控え目にドアがノックされた。

「はい、どうぞ」
聴きなれたノックの音に、
慎之介さんはその相手がわかっているのか、張りつめた空気をやわらげるよう優しい声を出す。
その甘い声色に沈黙が漂っていた部屋の空気が確かにほぐれたのを感じる。

時間は23時。
3Majestyの楽屋。
スタジオでのPV撮影が延びに延びてまだ終わらない。
俺たちは一旦休憩するために楽屋に戻ってきた。

デリバリーを頼んだのは俺だ。
レストランの閉店時間を過ぎたにも関わらず頼んだのは、彼女に会いたい一心からだった。
撮影中、小休憩が入ったとき電話してみたら、まだレストランに残って新メニューの研究をしていると彼女は話した。
だから、思い切って言ってみたのだ。
すると彼女はふたつ返事で引き受けてくれた。

彼女の料理は男たちの腹も心も満たす。
疲れた俺たちにとっても現場のスタッフにとっても、何よりも効く薬だ。

「お待たせしました。夜遅くまでお疲れ様です!」
彼女はテキパキと持ってきたものを並べ始める。

「スタッフの皆様へはスタジオに配達したので、これは皆さんの分ですよ」
「こんな遅くに申し訳ない」
霧島さんが頭を下げる。
「わぁ、美味しそう!お腹ぺこぺこだったんだよねー!ありがとう」
さっきまで眉をハの字にしていた慎之介さんもすっかり上機嫌だ。

彼女の料理は男たちを癒す。
料理だけじゃない、心も癒してくれる。

「ホント、悪かった。でもどうしてもお前に……っ」
並べられた料理を見て、改めて空腹を覚えながら放った自分の言葉に自分で驚く。

「彼女に…?なぁに?」
慎之介さんは手を止めて不思議そうにこっちを見つめてくる。
「あー…その…彼女の料理が食べたかったな、って!」
「ありがとう。そう言ってもらえると、作ってきた甲斐があるよ」
ふふふ、と心から嬉しそうに笑う姿が愛しい。

「ハイ、これで全部ですね。じゃあ、続き、頑張って下さい!」
「待って。帰り道危ないだろう。送っていく」
霧島さんがて立ち上がろうとするのを彼女は制した。

「いええ、大丈夫です。来られたんですから、帰れますよ」
「しかし…」
「だめだよー。霧島くんは僕と2ショット場面の撮影がまだ残ってるでしょ?行って帰ってくる時間ないよ〜」
「そうですよ!お仕事の方が大切ですから!皆さん心配し過ぎですって。私のことなんて襲う人いませんし!」
そう、にこにこと無邪気に言う姿に全員の動きが止まる。

(((何言ってるんだ許されるものならいますぐ襲いたい)))

全員そう思ってるように感じる。
俺たちは互いの気持ちを把握しているからこそ少しも動けず、無言で並べられた食事を見つめた。
張りつめた空気が漂う。
皆の脳裏に過ぎるのはルールその4.

「皆さん、どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもない」
「うんうん、さ、ご飯食べよう。冷めちゃうよ」
「そうだな…」
「では、私はこれで。ありがとうございました!おやすみなさい」

柔和な声と共にドアが優しく閉められた。
彼女の纏う甘い香りと温和な雰囲気が消えた部屋は、ひどく無機質に感じる。

「…………」
「…………」
「お、俺、やっぱ途中まで送ってくるから!」
俺はまだ料理のたっぷり入った容器にふたをして、立ち上がる。
二人に制止されると踏んだ俺は、ほとんどわき目も振らずにドアに飛びつく。
背中に二人の視線が突き刺ささる感覚。

「あー。ずーるーいー」
「だめだ、シン。俺たちにはまだ撮り残しがある。魁斗はもう全て終わっているはずだ。次のインタビューまで時間がある」
「えー」
「ここは彼に任せよう」

霧島さんの許しを得られてほっとした俺は勢いに任せてドアを開き、廊下を走りだした。
振り向きはしなかった。二人の表情は想像するに容易かったから。



「待って!」
ビルの1階、玄関より少し手前で彼女の背中をようやく見つける。

エレベーターを待つよりも階段を下りる方が速いと予測し、階段を駆け下りたらちょうど目の前に彼女がいた。

「はぁ、はぁ…はぁ…」
息が上がって上手く喋れない。
「あれ?どうしたの?私、何か忘れてきた?もしかしてお料理美味しくなかった!?」
「ち、ちが…はぁ…はぁ…あ、ぶ…あぶないだろ…」
「え?」
「ひとりじゃ危ないだろ。今お前歩いて帰ろうとしてただろ……はぁ」
ひとつ大きなため息をつくと、彼女がびくりと肩を震わせる。
俺が怒っていると勘違いしたようだ。
「う、うん……そうだけど…街灯もあるし、大丈夫かな…って…」
「お前なぁ……」
「大丈夫…だよ?」
「大丈夫じゃないだろ…はぁ…ばか」
「ば、ばか…」
ようやく息を整え終えて彼女を見つめると、彼女は少し心外そうな表情で俺を見上げている。

身長差ゆえに彼女に見上げられるのは普通の事だし、慣れているつもりだけど、上目づかいはやっぱずるい。
無意識なんだってわかってるけど、ちょっと拗ねた顔で上目遣いとかぐっとくるものがあって。

ちらりと玄関を見やると、守衛さんはこちらを全く気にしていないようだ。
「こっち来い」
「わっ」
俺はそれを確認すると、彼女を近くの部屋に連れ込んだ。

ガタン…
鉄製のドアを閉めると、そこは真っ暗だった。
ここは資材置き場。
資材と言っても、もう使う予定のない、ごみに近い木材や段ボールが置いてある部屋で、
普段からカギがかかっていないことを知っていた。
たまにここでサボってる慎之介さんを連れ戻しにくるから。

「夜道でいきなりこうされるかもしれないんだぞ?」
勢いで抱きすくめた彼女の身体は少し強張っている。
真っ暗で俺すら何も見えない状態の中、彼女がどっちを向いているかもわからない…と思ったが、少し手を動かすと柔らかな膨らみにぶつかった。
「っ…」
彼女を後ろから抱きしめている状態だと察し、少し屈んで首筋を探り当てる。
「んっ……か、魁斗さん!?」
季節柄、少し薄着になった彼女の首は露わで、いつも眩しいほどに白い。
そこに鼻をそっと触れさせ、香りを楽しむ。
「いいにおい……ん…」
「あっ…」
そこに唇を押し当てて、少し開き、舌をちろちろと動かすと、それまで大人しく抱きしめられていた彼女がもがきだす。
しかし、どう動いても俺の腕に胸があたるものだから、それに気付いた彼女は動くのをやめる。
「魁斗さんっ…!ご飯冷めちゃうよ!」
「大丈夫。もう食べたから」
「嘘っ!」
「ねぇ、だめ……お前が足りないよ。お前を食べさせて…」
「ひぁ……っ」
舌を這わせていた場所をきつく吸い上げると、彼女がのけぞる。
すかさず片手で無防備な首に触れ、顎を探り当て、強引にこちらを向かせる。

真っ暗で何も見えないから、キスしようと思って最初に唇が触れた場所は、彼女の頬だったようだ。
ぷにぷにしててあたたかくて、照れるとほんのり赤く色づく。
ときにはまるで林檎のような頬に噛みつくように口づける。柔らかく、甘噛みするように。

徐々に、彼女の唇に近づいて行って、頬よりもっと柔らかいそこに辿り着くとすかさず吸いついた。

「ふ…ん……」

鼻から抜ける息に声が滲む。彼女の身体はどんどん熱くなっているようだ。
腕に触れていた胸に、改めてしっかりと触れる。触れる、ていうか、掴む、に近い。
俺の手に余る大きなそれは、ふわふわでマシュマロみたいだって、いつも思ってる。

「か、いとくん…や……」
「やめてほしい?ホントに?…ん……」
「だ、め…帰れなくなっちゃうよぉ…」
「ははっ、なんだよそれ……この先期待してるとしか思えない台詞だな」

さぞかしとても困った表情をしているのだろう。
俺が少しでもからかうと、彼女はいつも頬を赤くし、眉根を顰め、唇を噛む。
それが相手を煽るとも知らずに。
もっと困らせたい、もっといじめたい。
そう思う男は俺だけじゃないだろう。

「どうして欲しい?」
首筋から耳へ唇を移動させ、耳たぶを柔らかく噛みながら訊いてみる。
彼女の肩をすくめようとするも、俺の腕がそれを許さない。
小さく震える身体。誰にも触らせたくない。

「ねぇ、どうして欲しい?」
「あっ…ん……っ」

耳の中に舌を這わせるとぶるりと一層大きく震える。
どうして欲しいと問いながらも、彼女の好きにさせる気はさらさらない。

俺の手の中で形を変える胸の感触を楽しんでいると、指にボタンが触れた。
そういえば前をボタンで留めるタイプのワンピース着てたな。
先程楽屋で見かけた彼女の服装を想い浮かべる。

相変わらず耳を舌でなぞりながら、器用にボタンを3つ程はずすと、そこから手を滑り込ませる。

ブラジャーをずりあげ、こぼれ出たそこを直接触ってやると、既に乳首が固く尖っていた。
摘まんできゅっと捻ると、また甘い声が漏れる。
「あっ……ん…っ!!!」
「期待しちゃって。可愛いやつ」
「ちが……だって…かいと、くんが…っ」
「黙れよ、声、エロすぎだろ」
「らっ、て…ひぃあっ」
「人のせい?自分から煽っておいて?」
「んーっ…!」
今度は両手で彼女の胸元を開き、乳房をふたつともに鷲掴みしてやる。
指の間で乳首を挟み揺すると、いやいやするように、首を左右に激しく振った。

「気持ちいいんだ?」
「ち、が……ぅ…いた…い…」
「そりゃーこんな硬くしてればな」
指と指の隙間を狭めて、尖ったそこにもう少し力を加えてやると、のけぞりながらまた首を振る。
俺は性急にワンピースの裾を見つけて、捲りあげると、彼女の履いていたタイツを下着ごと下ろす。
彼女の足の間はとても熱くて、手のひらにその温度が伝わってくるようだ。

「もう準備万端だな。ドロドロしてる」
「んっ……」
案の定そこは存分に湿っていて、熱い液体が太ももを滴り落ちそうになっている。
指をぐっと突っ込んでみると、そこがぎゅっと締まる。

「軽くイッた?」
「はぁ…あ……」
「全然足りないだろ?」
「ふ…ぁ…」
「そこに手ついて、っ……腰、上げて…」
先程入ってきたドアと思しき場所に彼女を押し付け、既に痛いほどに硬くなった自身を自由にしてやる。
手探りで裾を捲りあげ、熱くなっている形の良い尻を手のひらで撫でる。
割れ目を自身で軽く擦ってから細い腰を両手で掴んで、一気に押し進める。

「は…あ…」
「あああっ……ん…」
「声、抑えろ……気付かれるぞ…っ…」
「ら、ぁ……だって、ふ…あっ、あっ…」

見えない互いの身体。頼れるのは聴覚と触覚だけ。
闇に囚われ、ふたりで、ふたりの中を泳ぐ。

「ぁうっ…ん…あっ……やっ…ん…」
突くたびに漏れる声にどうしようもなく煽られるが、気付かれるとまずいので腰にあてていた手を片方、彼女の口元と思しき場所に持っていく。
熱く漏れる吐息を頼りに、口へと辿り着き、そこをぐっと塞いだ。

「っ…!?」
「声…我慢、しろ……それとも、気付いて、欲しいのか?ぁ…はっ…」
「んっ…んんっ……」
俺の手の平に押し戻される声。彼女は首を横に振る。
気付けばその手が濡れる感覚。

「なんだ…お前、……っ…泣いてるのか?」
「んっ、ぁ……っ…」
動きを止めると、彼女は再び首を横に振った。
これは、拒絶?
彼女の中に入ったままの自身が少しへたりそうになるのを感じる。

「いや……だったか…?」
「んっ……ん……」
また彼女は首を振った。
じゃあ…?
「…泣くほど、気持ちいい…とか?」
自信なんてない。思い切って言ってみると、少しの沈黙ののち、彼女は首を今度は縦に振った。
単純な俺と俺自身は再び力を取り戻す。
ぐっ、と突きあげると、また彼女は鳴いた。

「犯されてんのに興奮するとか、お前変態かよ」
「んんんっ…んっ……」
「でもそういう…お前のエロいとこ、好き…だから」
「………」
「なぁ、その扉の向こう、慎之介さんと霧島さんがいたらどうする?」
「!?」
「お前の声とか、全部聞かれてんの。恥ずかしいよな」
「……っ……」
「は…ぁ……声抑えろよっ…」

その言葉を合図に再び彼女を攻め始める。
声を抑えようとするするも、漏れる声にどうしようもなく煽られて。
代わりに大きすぎるくらいに響き渡る二人の肌のぶつかる音に耳を攻められて、夢中で彼女を犯し続けた。



4つめのルール?
そんなのとっくに破ってるし。

こいつは誰にも渡さない。


130517

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