ずるい食べ物(音羽)
少し汗ばむ季節。
日差しの照りつける公園で、ふたり、ベンチに座ってアイスを食べている。
ぐるぐると盛られたソフトクリーム。
僕のはバニラ。彼女のはストロベリー。
今日は暑いから、僕がアイス食べたいって言いだしたんだけど、
いま、彼女の口元から目が離せないでいる。
本当においしそうに食べている姿は微笑ましいんだけど、
僕の心には別の感情が渦巻いている。
桃色のふわふわに一瞬舌を突っ込んで、上手に掬いあげ、口へ戻す。
その姿はあまりに官能的で。
目が離せない。
「あっ」
つややかなリップで彩られた彼女の口からちらちら覗く舌を夢中で見つめていたら、
あろうことか自分のソフトクリームが溶けてきたらしい。
コーンを伝って、自身の手に滴りおちる。
「食べないの?」
彼女は口の中でアイスを溶かしながら僕を見る。
ほんのりと微笑んだ表情から、そのフレーバーがお気に召したことを読み取ることができた。
「ああ……零しちゃった」
僕は落胆の表情を作る。
彼女は何事かと首をかしげてから、僕の視線の先を見て納得した。
「溶けてきちゃったんだね」
「なめて?」
「えっ!?」
「勿体ないから、はやく、とけちゃう」
「もぉ……」
彼女は一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐに笑って、僕の手元に唇を寄せる。
伏せた瞳が大人びていて、うるさい鼓動が更に動きを速める。
「ん…」
ぺろり、というよりも、軽いキスをするように、
手の甲に零れたアイスを舐めとった彼女の唇が離れていく。
「やっぱりそれ僕のだから、返して」
「え?」
僕の切羽詰まった声に驚いた彼女がこちらを見ると同時に、その唇に自分のそれを押し当てる。
手に持ったソフトクリームがまだ溶けて、手の甲に落ちているのを感じたが、僕はいまもっと甘いものに夢中。
油断してたから、その口内に舌を滑り込ませると、驚いた彼女の手からアイスが落ちた。
地面に落ちて、ぐちゃぐちゃになったそれになぜか異様に興奮して、彼女の口内をくちゅくちゅと探る。
僕の舌と彼女の舌が絡み合って、ぐちゃぐちゃになればいい。
あのアイスみたいにどろどろに溶けあいたい。
もっと、はやく。
「んっ…ふ…」
「っ……ん……ふふっ…」
満足した僕が唇を離すと、真っ赤になった彼女がいた。
「もぉ!いきなり何するの!!」
「ごちそうさま」
「私のアイス……」
「ごめんね、僕のあげるから」
「…………」
恨めしそうに僕を見つめていたが、アイスクリームを差し出すと、それを受け取り、再び舐め始める。
僕は口をつけていないから、表面が大胆に溶け始めていることを覗けば、新品と変わりない。
彼女の赤い唇と、白いバニラのソフトクリームのコントラストにくらくらする。
また思わずキスしたくなるから、僕は視線を逸らした。
「慎之介さんは食べないの?」
「僕はいまお腹いっぱいだから……きみのキスで」
「っ!!!」
ストロベリーみたいに顔を真っ赤にした彼女はそっぽを向いて再びアイスを食べ始める。
そして僕はまたそんなきみに欲情するんだ。
アイスクリームという食べ物はずるい。
甘くてエッチで。
まるできみみたいだね。
130512
prev / next