ときレス | ナノ


エビチリとねこ(透/裏)

「おじゃましまーす」
「ど、どうぞ…」
緊張しつつ玄関のドアを開ける。

無機質なドアを開けた先には透さん。
白い袋…おそらくスーパーの袋片手ににこりと笑いかけてくる。

いや、にこり、というより、にやり、という方が正しいかもしれない。

「初めてあげてくれたね」
「あげざるを得ない理由を透さんが作るから…」
「俺のせい?」
「だって、”いつも店で出してるエビチリの作り方が知りたい”っていうから…」
「へへっ。いいだろ?」
切れ長だけどくるりとしたアーモンド形の瞳を輝かせて、首をかしげるものだから、私もうなずくしかない。
今日は1日休みだし、部屋も昨晩大急ぎで片づけた。見られてまずいものは…ない、たぶん。

緊張している私をよそに、彼はあっという間に部屋にあがり、ぐるりを辺りを見渡している。

「へぇ、綺麗にしてんじゃん」
「ま、まぁね」
「なに?俺がくるからって急いで掃除したとか?」
「い、いつも綺麗だよ!」
まるで私の思考を読み取ったかのような答えに、私は内心焦っていることがばれないように余裕の表情を作る。
すると彼は「ハイ、ハイ」と心底楽しそうに笑って、迷いなくベッドに腰掛ける。
持っていた袋を隣に置いて、私の方へと両手を伸ばした。

「おいで」
「……え」
「はーやーくぅー」
「う、うん…」

おずおずと彼の胸めがけて歩み寄ってみるものの、どうも気恥ずかしい。
彼の腰掛けるベッドの存在感が強すぎる。いつも使っているものなのに、彼が座っているというだけで、どうしようもなくドキドキしてしまう。
遅い私に痺れを切らしたのか、近くまで寄った途端、両肩を掴まれ引き寄せられ、彼の胸へと抱きとめられる。
ちょうど彼の両足の間に、膝立ちになったような体勢だ。

「わあっ、ちょっ」
「はぁーいいにおーい」
「もぉ…」

透さんは私の背中に片手を回し、もう片方の手で頭をよしよしと撫でる。
頭のてっぺんに乗せられた手が、髪を滑り降りてはまた上に…を繰り返されて、なんだか気持ちいい。
そんなに優しくなでられたら気持ちよくて眠くなっちゃう。

「だめ、透さん。エビチリ作るんでしょ?」
「それは後で」
「ん?」
「だって、こんな気持ちよさそうな名に無理させたくないし?」
言葉は優しいけど、なんだか企み顔。これは嫌な予感…。
「………透さん?今日の目的は?」
「名を可愛がること」
「ちーがーうー!エビチリのレシピマスターするんでしょ!?」
彼の胸をぱたぱたと叩いてみようとするもそもそも腕が動かせない。
「それはいつだってできるじゃん」
悪びれずそう言う彼は、優しい表情で相変わらず私の髪を撫で続けている。
やめて…ほんと、気持ちよくなって眠くなってきちゃう……
「って、わっ、寝るなよ!」
「だってきもちい…」
「お前はホントねこみたいだな」
へへっ、と彼は笑うけれど呆れてるわけではないようだ。

その言葉で、いつぞやの店での会話が思い出される。

"ペット欲しい"
"首輪買ってくる。可愛いやつ選んでやるから毎日しろよ?"

……って、
彼は私のことをホントに猫みたいだと思ってるのだろうか。

「んー…それも複雑……」
「そうだ、名にお土産があるんだ」
「えっ、なになに?」
「目、瞑ってて?」
耳元でささやかれると吐息がくすぐったくて背中がぞくりとしてしまう。
「こ、こう?」
「そう、そのまま」
彼に身体を預けたまま目を瞑ると、がざがさとビニール袋の音がした後、何かが首に回される。
(ネックレス…?透さんったら…でも誕生日近いわけじゃないし…なんでだろう?)
嬉しくて思わず笑みをこぼすのと、首にひんやりとした金具があたるのが同じタイミングだった。
「えっ」
穏やかでないその感触に目を開けると嬉しそうな顔をした透さんと目が合う。
「なんだよ、そんな嬉しいの?」
「えっ、これなに!?」
自分じゃ首元を良くみることができないけど、この感覚は悪い予感しかしない。
彼は私の首にまわされたそれをみて満足そうに笑うと、また背中に腕をまわしてきて、髪を撫でる。
「首輪。お前に白い肌に似合うように、真っ赤な革のやつにしたからな」
「ちょ、ホントに買ってきたの!?」
「そうだよ?悪いかよ」
「だ、だって!!私は人間だよ!?……んっ」
語気を荒げて反論したが、唇を塞がれてしまう。
熱い透さんの唇が押し付けられ、言葉を断たれる。
「んっ…ふ……お前、そう言うの付けてないと、どっかいっちゃうだろ…」
舌で唇を撫でられても、意地でも口を開かない私に痺れを切らして、彼は唇を離す。
「でも…!」
「あとこれも」
「え?」
彼が再びビニール袋がらがさがさと取り出したのはいわゆる猫耳というやつだ。
真っ黒でカチューシャのようになっている。
それが猫耳だと認識するかしないかのタイミングで、頭に付けられる。
「はい、今日、お前は俺の猫」
「そんな勝手に……ふっ……ん……」
「ん……だぁめ。今日は全部にゃーって言って。じゃないと外さないし、離さない」
「そ、そんなぁ…」
「簡単だろ?感情を全部”にゃー”って言葉に込めればいいんだよ」
「恥ずかしいよ!」
「恥ずかしいなんて思う暇ないくらい気持ちよくしてやるから」
「あっ……ん…」
再び唇を塞がれる。髪を撫でていた手で強く後頭部を掴まれ、唇同志がもっとぎゅっとぶつかり合う。
私の両手は彼の胸と私の胸の間にぴったりをおさまってしまっていて、動かすことができない。

「んっ…」
「くち、開いて。いい子だから」
「あっ……ん…」
彼の声に導かれるみたいに、口を開いた瞬間、熱い舌が滑り込んでくる。

クールでドライな性格の人なのかと思ってたのに、内に秘めるのは正反対の熱い心。
ステージも、生き方も、恋も。熱くて火傷しそうなくらいで、私はいつも溶かされてしまう。
休むことなく動く彼の熱い舌は、呼吸も体力も奪っていく。ぎゅっと目を瞑って舌の動きに神経を集中させる。
掠める鼻から時折漏れるため息がくすぐったくて、色っぽくて、更に追い立てられる。

「んぅ……と、おるさ…んっ…」
「はぁ…ん……名っ…にゃー、だってば…」
「ぁ…にゃ…う」
「…………」

初めて鳴き声らしきものを発した瞬間、唇を離され、まじまじと見つめられる。
「な、なに?恥ずかしいよぉ…」
「お前……才能ある……」
「!?」

顔から火が出そうなくらい恥ずかしくてそっぽを向いた瞬間、身体を持ち上げられ、ベッドに押し倒される。
華奢で綺麗な男の子だと思っていたのに、力も体つきも男性で、そのギャップに戸惑ってしまう。

「煽ったお前が悪い」
「えっ、あっ……」

両腕をベッドに縫いとめられたまま、彼は私の首筋に噛みつく。
腰から、例えようのない興奮が這いあがってくる。

「お前は俺の…ねこちゃん……」
「……んっ……」
「ほら、鳴けよ」
「……っ……」
羞恥が、理性を手放すことを許さない。
それが気に入らないらしい透さんは、首筋から胸に唇を移していく。
手首から彼の手が離れても、もう私はそれを動かす力が残っていなかった。
降参、とばかりに、彼を見つめている。
彼のしなやかな手が、服のボタンをはずしていく。凝視するのも恥ずかしくて目を瞑った。
やがて、ブラジャーもずりあげられ、冷たい空気がそこを掠める。
「相変わらず白いな、お前」
「うぅ……」
「ふわふわしてて美味そう。いっただきます、っと」
「んっ……いやあっ…ん」
言うや否や、胸の頂きを思いっきり吸い上げられて、切ない痛さと羞恥とで涙がにじむ。
「やわら…か…んっ……」
「ひぁあんっ…」
「鳴けよ、にゃー、だろ?」
ちゃんと言わないとやめてくれそうにないので意を決する。
すっかり硬くなったそこを執拗に舌で嬲られ、息が荒くなる。
「に、にゃあ…んっ…」
「気持ちいい?まだ足りない?」
「ん…あっ……にゃあん?」
「そう、足りないってね」
「ちが、にゃっ!…ん!」
「ばーか……お前、エロすぎ……我慢できなくなるだろ?」
少し困り顔になった透さんが片手を下肢へと伸ばすのを感じる。
お腹をなでられ、スカートを捲りあげられ、下着の中へと大きい手が滑りこむ。
「ははっ…準備万端って…感じだな?ぬるぬるしてる」
嘲笑うわけではなく、嬉しそうに透さんが言う。私は恥ずかしくて唇を噛みしめた。
「素直なねこちゃん、かーわーいーい」
「ぅ…んっ!!!!」
「ここ、好きだろ?」
膨れた粒をぐりぐりと弄られて、腰が浮いてしまう。もっともっととせがむような行為に恥ずかしくなる。
すぐさま潤っているそこに指を入れられ、ぐちゅぐちゅと掻きまわされるのを感じた。
「やっ…にゃ…ん……あああっ…やっ…と、るさ…んっっ」
「もっと恥ずかしがってる顔見せて…俺しか知らないお前の顔……涙でぐちゃぐちゃ」
「あんっ、にゃぁ…」
「こっちもぐちゃぐちゃにしてやるから」
意識が朦朧としてきた途中で指が抜かれる。刺激を失ったそこは物足りなそうに疼いた。
しかし、息吐く間もなく、もっと熱いものが埋め込まれる。
「んっ……にゃあああんっ…」
「はぁ…んっ……きつ……もしかして、いつもより…興奮してる?」
「ちが、にゃぁあ…はぁ…んっ」
「この変態」
ぐっと一気に腰を進められ、ぴったりと透さんが収まる。
どくどくと脈打つ熱いそれを自分の中心に感じて、どうしようなく熱くて苦しくて、でも幸せで、ベッドに投げ出していた両手を彼の首に巻きつける。
「とおる、さ…ん……」
「なに?」
「すき…すき……」
「っ……だーかーらー煽るなよっ…もたないだろ…!?」
合図もなしに動き出す透さん。衝撃が何度も何度も訪れ、そのたびにはしたない声をあげてしまう。
「にゃ、あんっ…あっ…んっ……ふぁ…にゃあ…」
「んっ…はぁ……っ……俺っ、だけの…名っ…!!!」
「や、や……ら…あんっ……ひっ…んっ……」
苦しくて、でも気持ちよくて、涙が止まらない。
それを丁寧に舐めとってくれる透さんの方が猫なのではないかと思ってしまう。
「ずっと……ずっと可愛がるから……傍に…いろよな…っ…」
「う、うん……にゃあ…あっ…やっ、やらっ…もぉ、あんっ…」
「鳴いて…恥ずかしい声を聴かせて……んっ…はぁっ…んっ…」

限界が近いと彼の首にぎゅっとしがみつくと、彼は更に腰を強く打ちつけた。
彼の刻むリズムで揺さぶられ、羞恥を煽る言葉を囁き続けられ、耳を食まれる。
暴力的に私を追い立てる透さんは言葉とは裏腹に、瞳はとっても優しくて、壊れモノを扱うように私を見つめるから、切なくてたまらなくなる。
そしてぐちゃぐちゃに絡み合い、濡れた末に、ふたりとも意識を手放した−−−−。

「いつもより興奮してたでしょ?」

起きた後に彼が笑って言うものだから、私は全力で否定する。
「猫っていう設定なら、思えばやっぱり後ろからしてみたかったな…」
「なっ…!!」
「ということでー。名!もーいっかい!」
「やーーーだーーーー!」

エビチリのレシピを教えてほしいというのは、私の部屋に入る口実だったようで。
散々夜まで猫プレイをさせられたから、夜中から朝までみっちりエビチリのスパルタレッスンをしたのであった。


2013.5.9

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