ときレス | ナノ


桜色の魔力(京也)

公園の並木道を二人で歩いている。
4月に入ったばかりだというのにもう桜が満開で。
薄紅色の花びらが私たちの歩く道を彩っている。

今日は京也さんと桜を見に来たのだった。いつもの通り、彼は豊富な話題で私を楽しませてくれる。
まったりなごやかな休日。
アイドルである京也さんの休日を過ごす相手が私なんかじゃ申し訳ないと思うのだけれど、それを言うと彼は拗ねてしまうので言わないことにしている。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう日も落ちかけ、少し薄暗くなってきた。
ちょっぴり肌寒い。

「ねぇ」

隣にいる京也さんが不意に立ち止まって、言った。
その声に私は彼を仰ぎ見る。ピンク色が敷き詰められた空が彼の背中に肩越しに見える。

「もういっかいチャンスあげちゃう」
「え?」
「俺の行きたいところ、どこでしょう?」
「あ…」

その言葉で、昼間の記憶がよみがえる。

待ち合わせたばかりの時間、公園の入り口で、私は彼に得意げにこう言ったのだった。

「今日こそ京也さんの行きたいところあてるね」

京也さんは笑った。笑顔が眩しくて、鼓動が高鳴る。
何度会っても慣れない。このドキドキが彼に届いていなければいいなといつも思ってる。

「ほんとに?あたったらご褒美あげる」
「やった!じゃあねー、せーのっ、でね?」
「オーケー?」

ーーーー。

結局、その答えははずれだった。
だからこうして彼は”もう1回チャンスを”と言ったのだ。

「どうして今日は特別なの?」
「……きみともっと一緒にいたいから」
「!!」
その言葉とともに、右手が掬われて、彼の指に絡めとられる。
私の手を包み込んで、彼は満足げに笑った。

「じゃあ、いつもみたいに、せーのっ、でね?」
「うん」
繋いだ手が熱くて、また心臓が早鐘を打ち始めて、私は答えなど全く思い浮かばなかった。

「行くよ、せーのっ」
京也さんの合図とともに、二人がそれぞれ出した答えは、

「プラネタリウム!」
「…………」

私の声が大きく公園に響いた…ような気がした。
もう辺りに人気はなく、その分響いてしまったように感じたのだ。
桜が風に揺らされ、ゆらゆらとその花を踊らせているのみ。

「あ、あれ?京也さん…?」
「んーっ。はずれ」
「えーっ!ずるい!だって、せーの、で!って言ったのに!」
ほおを膨らませると、彼は笑った。とても楽しそうだ。

「ごめんごめん」
「もぉ…!」
「ざーんねん、今日は2回チャンスをあげたからね、2回目はずしたら俺の行きたいところに絶対連れてってくれるっていうルールがあるんだよ?」
「え!?聞いてないよ!」
「特別ルールだからね」
くすくすと笑いながら京也さんは私の手を軽く引き、軽やかに歩きだす。

「……でね、俺の行きたいところはね」
少し歩いたところで、再び彼が声をあげた。
静かな夕暮れ。
満開の桜で彩られた公園は幻想的な風景だった。

「きみの家」

「………え!?」
「行ってみたいな」
「そ、そんないきなり言われても…!」
「ルールだから、連れてってもらうよ」
「ええええ!?」
小さく困惑の悲鳴を上げると、彼は少し困ったような表情をしたが、すぐにそれは真剣なものへと変わる。
「じゃあ…」
ぐっと手を引き寄せられて、彼の胸に頭を埋めさせられる。背中に腕を回され囚われる。
「きょ、京也さん!?」
「じゃあ…ここでしてもいいの?」
「……な、なにを…?」
「手を繋いだ…キスもした。そのさーき。」
「……そ、の、先…?」
彼の心臓の音が聞こえてくる。少し速いような気がする。
「きみといる時間は、何をしてたって幸せだ。こうしてきみを独り占めしていることに意味がある」
「………」
「他のメンバーでも、3Majestyの誰かでもない…俺がきみを独占してる…この優越感がどれほどのものか、きみにはわからないだろうね」
「きょ、やさん…」
「悪い子ちゃん」
「わ、わたし…!」
「でもね、俺はこの幸せよりもっと…もっと幸せを感じたいって思っちゃってるんだ…」
がっちりと抱き締められて身動きひとつとれない。
「キスのその先。わかるよね?」
「………あ、の……」
私は京也さんの背に腕をまわすこともできず、ただされるがまま。彼の言葉を待つことしかできない。

「誰もいない公園で、愛を確かめ合うのもスリリングかな?」
「そ、それは…」
京也さんの声があまりにも真剣でうまく切り返すことができない。冗談やめてください、っていつもみたいに笑い飛ばせばいいのに。
「まだ寒いかもね…でもすぐ熱くなるかな?」
「!?」
くすくすと彼の笑う声がする。私は耳まで真っ赤になっているだろう。顔を上げることもかなわない。

「………なぁんて」
「……へ!?」
「吃驚した?」
おどけた口調とともに腕をするりと離されて、あれほど密着していた彼との距離が瞬時に生まれる。

「き、京也さん!?」
「ごめんごめん、怖かった?」
「…………ちょ、ちょっと…」
「そっか…ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ」
彼がいつもみたいに笑う。その笑顔に安心して私は大きく息を吐いた。相変わらず心臓はうるさいほどに音を立てて動いている。

「でもね、次は我慢できないかもしれない」
「………!?」
「悪い子ちゃん★」

風がそよぐ。

いつも聞きなれたその台詞が、やけになまめかしく感じたのは、彼の周りに舞う桜のせいだろうか。
舞い散る花びらに囲まれた彼の眼にはいつもと違う妖しげな色を見た。

130404


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