ときレス | ナノ


Be your cat(透)


ひんやりと冷たい布団は少し刺激的。
でもシャワーを浴びたばかりの火照った身体には心地よくて、
お前を待っている間、その冷たい布の中で身体を丸くして、時折頬ずりしたりもしていた。

身体に籠った熱が徐々に冷たいシーツに移っていく。

そういえば、
掛け布団をめくると俺が丸くなっていたから驚いたって笑われたこともあったっけ。
猫みたいって。
でも、いーの。
こんな姿、名にしか見せないし。
そんなこと考えていたら急に外気が流れ込んでくる。

「……あ、また丸くなってる」
「んー……」

布団をめくった張本人が俺の姿を見て呟く。
ね、早く、入ってきてよ。
さみーって。

俺はもぞもぞと身体を動かして、お前の場所を空ける。

「入るよ」
「……はーやーくー」
「あ、起きてた」
「ん」

なかなか潜ってくれない名に痺れを切らして、手探りで細い手首を捕まえる。
そして強引に引っ張っると、まだあたたかい身体が半ば倒れ込むようにベッドへと入ってくる。

横たわったのを確認してまた掛け布団で蓋をする。
ふたりだけの秘密の空間。

ふたりで一緒に眠る日、お前は下着にキャミ、下はスウェットっていうラフな格好でベッドにもぐりこむ。
俺もTシャツにスウェット。
寒い日だって二人でくっつけばあったかいし、すぐに熱くなるってわかってるから。

良い香りを纏ってるお前は、シャワー浴びたばかりだから身体があたたかい。
俺はその柔らかい抱き枕にぎゅうとしがみついた。

「ん?」
「んー……あったけー」
「ふふ」

向かい合ってやわらかな胸に顔を埋める。
ほんの少し顔を上げると視線がぶつかった。

俺が急かしたからか、乾かしきれずにほんのり湿っている髪。
手を差し入れて、指に絡ませる。
ほんのり上気した頬には水滴が付いていた。

「どうしたの?」
「んー」

差し入れた手に少しだけ力を込める。
されるがままのお前は、どうしたの、と表情で訴えてくる。

「ね、キス……してよ」
「……うん」

信じられないくらい甘い声だなって我ながら思う。
名が頷いたことに満足げに笑った後、静かに目を閉じた。
彼女が照れないように。

「…………」

熱が近づく。
静寂に満ちた部屋で衣擦れの音と俺の心臓の音だけが大きく聞こえている。

角度が難しかったのか、彼女は斜めに唇を重ねた。
触れるだけの優しいキス。

白く淡い雪が瞬く間に地面に溶けていくような、儚いキス。
おまじないみたいなそれじゃ全然満足できなかったけど、
俺はそっと目を開けた。

さっきよりも近いお前の顔。
心臓の音が更に大きく聞こえる気がした。
俺だけそうなってるの不公平じゃん。
だからお前の心臓もちゃんとこんなに高鳴ってるのか確かめたくて、再び胸に顔を埋める。
頬を擦るような仕草に彼女が小さく笑った。
そして頭に優しく手を乗せ、髪を撫でてくれる。

「透さん、今日は甘えんぼさん?」
「俺、猫になりたい」
「急にどうしたの?」
「猫になって、お前の行くとこどこでもついていったり、何かしてるときもちょっかいだしたり、一日中こうしていたい」
「…………疲れてる?」
「せーかい」
「お疲れ様」
「うん。……はー、いいにおい」

何も訊かず、リズム良く髪を撫でるあたたかい手。
秘密の部屋に満ちるいいにおい。

だって今日は俺、名と同じシャンプー使ってるから。

「いいにおいも2倍」
「ん?」
「なんでもなーい」
「……透さんが眠るまでこうしてる。おやすみなさい」
「やだ。まだ寝たくない」

せっかく一緒にいられるのに、寝るの勿体ないじゃん。
それなのにさ。

「だめ。疲れてるもの。ゆっくり休んで欲しいな」
そう言って眉根を寄せて心配そうな表情をする。
そんな表情されたら反論できないじゃん。

「……起きたらかまってくれる?」
「早起きできたらね」
「する」
間髪いれずにそう答えた。
髪を撫でてくれる手は、俺の全てをわかってくれてるみたいに優しくて、俺は少し泣きそうになる。
あー、かっこわる。

でも素直な自分は嫌いじゃない。
名がこんな自分を見つけてくれたから。

「ふふ、わかった」
そう言うとそろりと更に身体を寄せて、俺を全身で包み込んでくれた。
めちゃくちゃあたたかい。

「おやすみ」
「うん」

ごろごろと喉を鳴らす猫みたいに、ただただお前の愛を感じて、
ゆっくりとまどろみへと沈んで行く。

目が覚めたら、また元気な俺になってるから。
いまはお前の猫でいさせて。

おやすみ。


*END*

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