ときレス | ナノ


壁ドンレストラン?(伊達・微裏)

「んー……ん?これはどういうことかな?」

俺はいまあまり経験のない事態に陥っている。
……経験ないというか、初めてか?

俺の背中はレストランの壁にぴたりとくっついていて、
俺の両サイドには白い腕。
名がまっすぐ伸ばした腕を壁に押し付けている。

つまり、俺は壁と名に挟まれている。

「……新しい遊び?」
「いいえ、壁ドンです」
「ああ、なるほど」

壁ドンというのは説明するまでもないが壁と自分の間に意中の相手…、
もしくは、落としたい相手を閉じ込めて、
逃がさないぜ☆とか言っちゃういま流行中のモテ行為だ。

「で、なんで名が壁ドン?俺を襲いたいの?」
「ち、違う!壁ドンカフェってあるでしょ?だから、壁ドンレストランとかどうかなって…」
「壁ドン、レストラン……」

彼女の突っ張った腕に閉じ込められたまま、
俺はくすくすと笑ってしまった。
その表情があまりに真剣だったから。

「わ、笑った!」
「悪い悪い!だって……くくっ」
「思いつきで言ってみたら、マスターが面白いんじゃないかってノッてきたからつい…」

俺を見上げる可愛いお前の唇が、不満気に尖る。
そこに触れたいけれど、俺の腕はいま彼女によって動けない。
動かしたらイケナイとこ触っちゃいそうだから。

「壁ドンって…お前がお客さんに対してやるの?」
「うん、どうかな?みんな楽しんでくれるかな?」

おいおい待て。
お前がいつも色んな企画を考えて、客たちを楽しませたり、なごませたりしてくれてるのは知ってる。
俺も毎回楽しみにしてる。
でも、その一環として壁ドンフェアやるのか?

お前が希望の客に壁ドンしてやるのか?

「……大繁盛しちゃうだろ、それ」
「ホント?」

不満げだった表情がぱあっと明るくなる。
考えてみろよ。
こんな近くでお前を感じられるんだぞ?
名の纏う香りも息遣いも体温までも感じられそうな距離。
おまけにおっちょこちょいなお前のことだ。
ちょっとバランスでも崩してみろ。
ふわふわのマシュマロボディが客の身体に触れたりとかいう間違いが、
万が一あったらどうするんだ!!

「……ダーメ」
「え?」
「そんなへなちょこ壁ドンじゃやっても無駄だぜ?」

今度は俺が両手を伸ばして、彼女の背に回す。

「わっ!」
「よっ……」

半ば抱くように身体を引き寄せると今度は壁に彼女を押し付ける。
形勢逆転。

ドン!

とわざと音を立てて両腕を壁に突き立て、
今度は俺がお前を2本の腕で閉じ込める。

名は腕を突っ張ってたけど、俺は遠慮しないぜ?

ひじを曲げて、キスできそうな距離まで追い詰める。
前髪同士が触れて揺れる。彼女は首を竦めた。

「きょ、京也さん…?」
「なぁに?」
「あ、あの……」
「これが本物の壁ドンってやつだぜ?追い詰められた気分はどう?」
赤くなっている耳に唇を寄せ、ふうっと息を掛けると小さな身体はわななく。

「……ち、近いです……」
「もっと近づいてもいい?」
「っ……!!」

首筋にキスをしながら一瞬壁から手を離し、
彼女の両手首を手探りで探し当てて掴んでからまた壁に押し付けた。

「きょ、やさんっ……くすぐったい…」
「くすぐったいだけ?」
「っあ……んっ…」
「っ……ふ……気持ち良くない?……っ」
「ふっ……んっ……」

壁に手を固定されたお前は俺のキスに合わせて身を捩ることしかできない。
囚われの身。

「俺は王子?それとも姫を攫う悪者、かな?」

さっきとは違い、ぴたりとくっついた身体はだんだん熱くなってきて、
ふわふわのマシュマロも窮屈そうに押しつぶされている。
そこを暴いて刺激して、反応してくれたそこ嬲って羞恥心煽ってから、
舌でじっくり味わいたいなんて不埒なこと考えながら。
俺のキスから必死で逃げようとしてるお前が可愛すぎておかしくなりそう。

「きょ、やさん、だめっ……まだ、お店閉めてないっ…」
「っ……ぁ……いますぐ抱きたいって思ってるのに、お預け?…悪い子ちゃん」

あーあ。このままここでするのもいいかもって思ってたのにな。

キスをやめて、見つめ合う。
名の潤んだ瞳がまた俺の劣情を煽る。

「壁ドンレストランは却下な」
「もぉ!」
「どうしてもやりたいなら、俺が壁ドンの極意を教えてあげちゃう。カラダで」
「だめ!」
「とにかく、お前には100年早いよ」
「そっ………っ…」

何か言いたそうな唇を、言葉を紡ぐ前に塞ぐ。
お前が誰かの傍にそんなに寄るなんて考えさせないでくれ。

お前の傍にいていいのは俺だけなんだから。


*END*

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