ときレス | ナノ


What you want? (辻・裏/Birthday)

「ねぇ、お誕生日、何か欲しいものある?」

1週間前のことだった。
俺がひとりで店に来た日。
注文したメニューを運んできた名がそっと耳打ちしてきた。

ランチタイムはもう終わったが、まだ客がそこそこいる店内。
俺は慌てた。

「ど、どうしたんだ急に」
「だって、もうすぐでしょ?魁斗さんのお誕生日。付き合ってはじめて一緒に迎えるお誕生日だし、プレゼントするなら魁斗さんの欲しいものがいいなぁって思って」
トレーを両腕で抱いて、小首を傾げ微笑む。
無邪気な笑顔に、昼間の仕事の疲れが吹っ飛ぶ気がした。

「気ぃ遣わなくていいのに」
「えーっ、楽しみにしてるんだから!どうやってお祝いしようかなって」
「あ、……うん、サンキュ」
かぁっと顔が熱くなるのと、遠くて彼女の名を呼ぶ声がしたのはほぼ同時だった。

「あっ、はーい!少々お待ち下さい!……いま思いつかないなら、考えておいてね!また後で訊くから」

もう1度耳元に唇を寄せてそう囁くと、彼女は小さく手を振って声の方へと駆けていった。

「プレゼント、ねぇ」

名が俺の為にプレゼントをくれるなら、なんだっていい。
特別な日に特別なモノを貰わなくたって、俺はあいつが傍にいて笑ってくれるだけで十分だった。
だから、これといって何も思いつかず…

頬づえをついて、遠くにいる名を見つめる。
頷くたびに揺れる髪、愛らしい笑顔を見てたら、ふとこっちを振り返った彼女と目があった。

「あ」

ヤバ、恥ずかしい……!

慌てて視線を逸らし、ストローをくわえて飲み物を飲むポーズ。
ちょこっとだけ啜ってから視線をあげると、彼女は厨房に戻ったらしくその姿はなかった。

その日から毎日メールが届いた。
内容は決まって、「プレゼント、決まった?」から始まる。
俺は「まだ」と返していた。
3日前、2日前……
日にちはどんどん過ぎて、ついに誕生日当日。

0時を過ぎたあたりからメールやら電話やら、ケータイが鳴りやまない。
誕生日ってちょっと緊張する。
お祝いしてもらうのもくすぐったいし、かといって忘れられてるのも寂しいだろ。
だから、ヘンに緊張した複雑な気持ち。

でも絶対に連絡をくれる人がいる今年は違う。
ケータイ片手に妙にそわそわして、部屋の中を行ったり来たりしていた。

そして表示されるその相手。
すぐに応答する。
「名」
『わ!魁斗さん!すぐ出たから吃驚しちゃった!』
「べ、別に待ってたとかそういうわけじゃないけど」
電話がきて1コールもせずに応答してしまった己の行動をすぐに反省する。
と同時に、不意に出た抗議の言葉があからさますぎて、言った後すぐに恥ずかしくなる。

その俺の言葉に、電話の相手はくすくすと笑っていた。
全部お見通しってその笑い声。きっと他の奴だったら嫌なんだろうけど、お前なら全然嫌じゃなくて。
むしろ俺の気持ちをわかってくれて嬉しいような気さえする。

『うんうん、わかってるよ』
「うん……で、なに?」
嬉しくて跳びはねたい気持ちを抑えながらぶっきらぼうに尋ねる。
待ってる言葉なんて決まってるのに。全然期待してないような振りして。

『うん。お誕生日おめでとう』
焦がれていた声と言葉に身体を心地よい電流が流れるような感覚。
どうしていまここにいないんだろうって不思議に想ってしまうほど、彼女を欲していた。

「……ありがとう。今日、会えんだろ?」
『勿論!お休みもらったよ。あっ、魁斗さんが教えてくれないからプレゼント準備できなかったよ?一緒に買いに行く?』
「いや、お前んち行く。家で待ってて。それに、プレゼント決まったから」
『あっ、ホント?良かった!』
「じゃ、今日楽しみにしてるから」
『うんっ、お料理作って待ってるね!』
「じゃあな」
『おやすみなさい』

短い会話なのに、こんなにも満ち足りた気持ちにさせてくれる。
この気持ちを抱いたまま休むなんて勿体ないって感じさせるくらい、エネルギーに満ちてて、
でもこの気持ちに包まれたまま休みたいなんて贅沢もいいかなって思う。

役目を果たしたケータイを置いて、ベッドに転がる。
天井を見つめながら考えるのはやっぱり名のことで。
「……好き」

抑えきれない気持ちが心を内側からガンガン叩いているような気がして少し苦しい。
やっぱり、欲しい。好き、以上のものが。

暴れる心を押さえこむように丸まって、そっと目を閉じた。



「いらっしゃい、魁斗さん。待ってたよ」
「お邪魔します」

インターホンを鳴らすと、すぐに彼女の声がしてドアが開いた。
エプロンを付けた姿に出迎えられると、なんか夫婦みたいだなんて思ったりしてまたひとりで恥ずかしくなる。
でもそうなるには俺の口から出るのは「ただいま」じゃなきゃいけないわけだけど。

「いまちょうど全部できたところなんだ」
「マジ?出来立てかぁ!楽しみ……あ、名」
「ん?」
「これ、テーブルにどうかなって」

俺は途中で買って来た花を渡す。
小さなバスケットに入ったミニブーケ。
お部屋に飾ったら華やぎますよ、と店員さんに勧められたものだ。
彼女の柔らかい笑顔をイメージして、淡い色の花を中心に作ってもらった。

「わあ、ありがとう!逆に気を遣わせちゃってごめんね」
「手ぶらでくるのもアレだったし……。ま、それ相応のもてなしを期待してるから」
「えっ」
「ははっ、冗談だよ」
「もぉ!」

目を丸くした彼女の髪を撫でると、くすぐったそうに笑う。
両手で抱えた花を愛しげに見つめた後、部屋の奥へと消えた。

テーブルに所狭しと並んだ絢爛なメニュー。
その中心に俺の持ってきた花が置かれて、どのレストランにも負けない……
って言ったら変か。
とにかく見た目も味も文句なしの品々。
会話をする余裕すらないくらい、夢中で平らげた。



食後のデザート、チーズケーキまで食べ終えた俺たちは、
キッチンテーブルからいつも寛いでいるローテーブルへと移動する。
2人掛けのソファに腰掛けると幸せすぎてどうしようもなかった。

名の香りが満ちる部屋で、
彼女の手料理を腹いっぱい食べて、
いま隣には手を伸ばせば触れられる距離に名。

手を伸ばせば……か。
ちょっと遠いな。

「なぁ、もっとこっち」
「え、わあっ」
彼女の肩を抱いて自分の胸に押し付ける。
自分でやっておきながら、心臓がバクバクうるさいのがわかった。
これ、聞こえてるかも。

「魁斗さんあったかい」
「お前こそ」
「……もう冬みたいに寒いもんね。秋も終わっちゃうね」
「……俺」
「うん?」
腕の中で名がそっと顔を上げる。顔が近すぎて目眩がしそうだ。

「俺、いますげー幸せで、来年もこういう誕生日迎えたいって思ってる」
「ふふっ、まだ今日誕生日迎えたばっかりなのに!」
「っ、いいんだよ……」
くすくすと笑う彼女の髪をひとなで。
“来年も”
の意味、ちゃんとわかってる?

「なぁ、目、閉じて」
「…………うん」
静寂に満ちる部屋。
彼女のまつ毛が震える。きっと、キスを待ってる。
でもまだお預け。
その隙に、腕の中の彼女の手を片っぽ器用に探り当て、その手首にくるりとこれを巻いてやる。

「魁斗さん?」
いつまでもキスがこないのを不思議に思ったのか、目を閉じたまま俺の名を呼ぶ。
「目、開けていいよ」
「う、うん。……いま右手に何か…」

少し腕を緩めると、名は自分の右手に巻かれたものを確認する。
「リボン?」
それは、花屋で買ったブーケに巻かれていたリボンのひとつ。
テーブルを立つときに、こっそり解いてポケットにしまっていた。

「そ。……俺へのプレゼントは、名がいい」
「……え!?」

驚く表情から顔をそむけるように、彼女を両腕できつく抱きしめその髪に顔を埋める。

「お前が、欲しい。お前の声も、顔も、心も、笑顔も全部好きで好きでどうしようもなくて…でも、もう好きだけじゃ足りないんだ」
「……か、魁斗さん……」
「名、お前の全てが欲しい」
「…………」
腕の中でびくりと震えたのを感じる。
俺の中では、お前の顔をまっすぐ見つめて言う台詞だったのに。
何度も何度も反芻したのに、できなかった。
こんなの、仕事だったら、ドラマの役だったらいくらでもできるんだ。
でも、本当に好きな人相手だと“演じる”なんてできやしない。
実際、俺はお前の答えが怖いし、それより前に、お前の表情を見るのさえ怖かった。

重たい沈黙。
無理にしたいとは思ってなかった。
ただ、純粋にいま一番欲しいのは彼女の全てだったから。

「名、あの無理なら……」
言いかけた瞬間、背中に2本の腕がまわる。
「だめ、」
「っ…………」
「……じゃない」
「えっ」
「だめじゃない。急だから吃驚しちゃって……その……」
「…………」
「でも、そんな予感、っていうか覚悟っていうか、そういうのも…その…」
「マジ!?」
「だって……」

俺は腕を解いて、彼女と改めて向き合う。
名はすっかり顔を赤くして視線をさ迷わせていた。
その頬を両手で包みこみ、性急に唇を重ねる。

お預け食らってた犬が嬉しそうにしっぽ振ってじゃれつくみたいに、
何度も何度もキスをしてお前を感じる。

「っ……」
「ぁ……ふ……んっ……く、るし……っ」
「……ご、ごめん、……すげー嬉しくて……ついっ……」
「はぁ……ん……もぉ、魁斗さんはいつも急なんだから!」
「だって、もう、すぐにでもお前が欲しい……、し」
言いながら顔に熱が集まるのを感じる。
「うん……ありがとう……」
「なぁ」
「う、うん?」
「優しく、するから……できるだけ」
良く聞くありきたりな台詞しかでてこなくて笑えてくる。
でもそれしかもう考えられないくらい緊張してて。

「宜しく、お願いします」
そんな俺の言葉に彼女は、はにかみながら微笑むから、もう理性が頑張ってくれるのを願うしかないと、
半ば祈るような気持ちでもう1度名を抱きしめた。



彼女の身を包んでいたふわふわもこもこのあれこれが、
するすると解けて、白い肌が闇の中でさえ眩しい。

名を押し倒した、ほぼ同じ格好した裸の俺。
寒いはずなのに、身体が火照って仕方ない。ずっと焦がれていた瞬間はもうすぐ。

「あんまり、見ちゃやだ…」
「うるさい、もっと見るし」
意地悪く口元をゆがませると、彼女は眉根を寄せて困った顔をして胸元を隠した。
白い肌の上で揺れる赤いリボン。

「もっと、見せて……その、触ってもいい?」
「う、ん……」
胸を覆い隠す2本の腕をやんわりと引き剥がして、ベッドへと押し付ける。
下着もつけていない2つの膨らみがふるりと揺れた。

彼女の頬に手を添え、キスを落とす。
さっきの性急なキスとは違った、余裕ぶった大人のキスを。
目の前にある極上の一皿を焦って食べるのは失礼だから、精一杯紳士的に振る舞う。
自分の気持ちも欲望も俺をせっつくけど、それを必死に抑えて舌を絡ませる。

「む……ぁ……ふ…はぁ」
「っ……ん……っ……ぁ」

ゆっくりと味わうように彼女の柔らかな唇と舌を蹂躙すると逆にじれったくて煽られた。
キスを続けながら、優しく胸を手のひらで包み込む。
寒さでそうなったのか、キスでそうなってくれたのか、先端は既に硬く尖っていて、
指で引っ掻くと甘い声が漏れる。

「っ……」
「どうした?」
「ぁっ……だ、だって、魁斗、さんが……」
「へぇ?」
「ぁっ、ん……だ、め…」
「気持ち良さそうな声だして、よく言うよ」
「ひぁあっ…」
名のこんなに甘い声を初めて聞いた俺はそれだけでもう下腹部が熱くなるのを感じた。
もっと聞きたい、もっといろんな表情が見たい。

引っ掻くだけじゃ足りなくて、きゅっとつまみあげるとひときわ大きな声を上げる。
「だっ、め……!」
もう一方も包み込んでその弾力を確かめる。
普段窮屈そうにコック服に収まってるそこは想像以上の大きさで、
手に吸いついてくるような感覚に艶やかな瑞々しささえ感じる。

立ちあがり色づいた先端を口に含むと上で抗議の声を上げてきたが無視した。
その声はすぐに小さな悲鳴に変わる。
舌で転がし、歯で挟み込んで刺激を与え、強く吸い上げる。
「っ……ぁっ……やっあ……は、ん……っ」
「エロ……っ……」
「だ、って……んっ……ぁ……」
散々甘えたあとで口を離すと、そこがまた揺れる。
彼女の顔を見つめると、涙でうるんだ瞳が半ば放心した状態で俺を見つめ返していた。

「名、可愛い」
「もぉ……っ」
「だから、もっとシてやる」
「さっ、き、優しくする……って!」
「気が変わった。お前のせいだから」
「えっ……!」

熱を持ち始めた足と足の間を割って、柔らかな太もものその奥へ。
彼女の身体を覆う最後の1枚。
恥ずかしそうに身をよじった名だったが俺の手は止まることはない。
汗ばんだ身体に少し張り付くそれをうまく少しだけおろし、手を滑り込ませる。
淡い茂みを抜けてその奥は驚くほど熱かった。
そして……
「っ……」
「……濡れてる」
「……んっ……ゆ、び」
「力、抜いて」
「ぁっ……」

しとどに濡れたそこに指を進めると火傷しそうなほど熱くて、やわらかな襞が指に絡みついてくる。
1度指を抜き、下着を脱がせて足から抜いてやる。
すっかり力の抜けた両足を大きく開いて折る。
1度離れた距離がまだぐっと近くなる。

「行くぞ」
「……う、ん……」
「っ……」
「……あっ……ん」

そこは少しずつ俺を受け入れてくれる。
圧迫感と目眩のするような快楽に迎えられながら俺は彼女のナカを侵していく。

「大、丈夫か?」
「っ……う、ん……」
肌が重なった所は2倍も3倍も熱くて、
名のナカに入ったところから自分が溶けていくような感覚。

ゆっくり、でも確実に押し挿ってお前の中に自分を刻んで行く。
リボンの結ばれた手が伸ばされ、俺の指と絡み合い、再びシーツの海に沈む。
シルクの冷たさが心地いい。

「もう、少し……だからっ、息、大きくはいて」
「う、ん……ぁっ……ん、はぁ……」
「っ……」

彼女の身体から力が抜けた瞬間、一気に進む。
そして全てが彼女に包まれたとき、二人の身体はぴったりと重なりあった。

「全部、入った……」
「っ……うん……」
何度も味わった唇に再び噛みつき、互いを確かめ合ったあとに深く息を吐く。

「お前の可愛いとこ、もっと、見せて……」
「えっ……」
「動く、から……」
「っ……ぁっ……」
「そんな顔されたら、どうしたらいいか、わからないのにっ……」
「やっ、魁斗、さんっ、だめっ……あっ……」
「名っ……名……!!」

この溢れる気持ちをどう伝えたらいいんだろう。
名の全てが欲しいとずっと思ってて、いまそれを手に入れた。
それなのに、手に入れた瞬間から、もっともっとお前が欲しくてたまらなくて。
ともすれば狂いそうな快感と奇妙な焦燥感に苛まれながら、俺は自分の全てを名にぶつける。

小さな身体が俺を受け止めようとしてくれてる。
名が俺という存在を受け止めようとしてくれてる。

ただの男でいられるのは名の前だけで、
名の前でだけはただの男でいたかった。

「あっ……んっ……名っ……名っ……!すげー、好き、だ……っ」
「魁斗っ、さんっ……わたしも、んっ……私の方がっ……好き、だもんっ!」
「ははっ、言っ、たな?」
「きゃあっ……あ、んっ」
突き上げながら首筋に噛みつく。
きつく吸い上げていくつもの花を散らす。

ベッドは俺のリズムに揺れて、彼女が漏らす甘い声はそれに乗ったメロディのようだった。
部屋に満ちるこの香りに駆り立てられて、更に煽られ、思考が奪われる。
考えてるのは名のことだけ。俺の全てが彼女に包み込まれている感覚。

「っ……ぁ、も……も、う魁斗っ、さんっ」
「あ、ああ……っ……っん、ぁっ、……っ……!!!」

メーター振り切ってリズムが乱れて悦楽の頂まで2人で登りつめる。
その瞬間はきつく抱き合って、再び唇を重ねていた。
互いをもっと求めるように。

乱れた吐息が甘い香りの満ちた部屋にこだまする。
冷たい空気に、ひとつひとつ、熟れた吐息の塊が浮遊するのが視認できるかのように、、
俺たちの吐息は色づいていた。

「絶対、離さないから」
「っ……うん……」
「大切に、する…………プレゼント」
白い肌に映えるリボンを指でなぞる。
彼女は小さく身体を震わせた。

「……ふふっ!お誕生日、おめでとう、魁斗さん」
「……サンキュ」
笑う名をぎゅうっと抱きしめる。

お前をこんなに欲しがったのは、お前の全てが知りたかったから。
それと同時に、俺の全てを知って欲しかったから。
お前に全てを曝け出せれば、またひとつ大人になれる気がした。

我がままで、肝心なときヘマして、上手くいかなくて凹んで八つ当たりしたりして。
みんなに怒られてばっかりだけど、お前が傍で笑ってくれるならどんなことも乗り越えられる。
もっともっと輝いて行けるって思ってるから。

ずっと傍にいて。
来年も、再来年も、ずっと、ずっと。


2014.11.25. Happy Birthday Kaito!

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