ときレス | ナノ


crazy for you(不破 / 裏)

「はあー!”DSP!!〜ボディガードは超ドS〜”サイコー!何回見ても面白い!」
「くくっ……よく飽きないな」
「だって面白いし、かっこいいし!ホント、ドSだよね、この剣人さん」
リモコンを手に取った彼女が、その白い指で停止ボタンを押すと、途端に画面が暗くなる。

白い指の先端。
普段はしていない、爪を彩る鮮やかな色。
珍しいな、と待ち合わせのときに指摘してみると、
夏らしい色にしてみたんだと彼女は照れたように微笑んだ。

「……それに今日は剣人さんに会えるから、剣人さんの色なんだよ」
そう、ぽつんと零す言葉。
その台詞に俺の顔もだらしなく緩んでたにちがいねぇ。


約24時間のオフ。昼過ぎに仕事終わらせてきたからあとは自由。
明日の昼前までは彼女と一緒に過ごせる予定。

そんな今日。
途中で待ち合わせ、俺の部屋に遊びに来た名が「DSP!!〜ボディガードは超ドS〜」のDVDを鑑賞していた。
いつもは家で録画したものを観ているらしいが、
DVD発売前に完パケ貰ったって話したら特典映像を一足先に見たいのだと拝み倒された。

そりゃあ、自分が主演しているドラマをこんだけ観てもらえるのは悪くない。
だけど、画面の中で大暴れするドSな「君尾護」を見つめる名を観ていると、
なぜかよくわからない感情が芽生えるのを感じていた。

「別に、俺がドSなわけじゃなくて、役がそんなだから仕方ねぇだろ」
「んーそうなんだけどさ。剣人さんはいつも優しいから、こういう一面を見るとなんというか……ドキドキしちゃうなぁ」

床に正座している名がソファに座る俺を振り返る。
さっきまでその姿勢のまま、ずっと画面を凝視していた。
きっと俺が珈琲を淹れていたことも知らないのだろう。

「俺が?優しいのはお前だろ」
「えっ…あ…うん、ありがとう…。でも剣人さんは一見ちょっとクールで近づきがたそうなんだけど、話してみると実はあったかくて……そんなとこが好きだし……」
「……おう」
「う、うん」

俯く名。髪が垂れて、ちらりと見えた白いうなじが少しだけ色づいている。
口から出すことも憚られる照れくさい台詞を自分から言う癖に、その後すぐに照れるからそんなとこも可愛くて。
だらしなく緩む口元を慌てて抑える。
ああ、こんな顔してるとこ、京也や透には絶対見せらんねぇな。

「珈琲、飲むか?」
「え?」
「お前がドラマに夢中になってる間に淹れた」
「わ!ごめん、ありがとう……!」

パッ、と顔を上げて今度は頬まで赤く染めながら視線をさ迷わせる。
俺はその仕草に笑いながら立ち上がった。

キッチンへ行き、コーヒーメーカーのスイッチを切って、
この前2人で選んで買ったペアのマグカップに黒い液体を注ぐ。

前まではペアのカップなんてダサイと思ってたのに、
「お揃いのカップっていいよね。あっ、剣人さんのおうちで使うカップ、お揃いにしたいな?」
なんていう名の笑顔に負けて、自分に不似合いなものを家に置いている。
いつだってこいつには敵わないねぇ。

そのときの光景を思い出しながら深呼吸すると、
香りが肺に満ちてさっきまでのもやもやも薄らいでいくような気がした。
2つとも持って、リビングへ。
なみなみと注いだから、こぼさず持っていくことに神経をとがらせた。
こういうとこ自分は不器用だなと思う。
あいつなら上手くやれるんだろうな。

慎重に、テレビと彼女の間に置いてあるローテーブルに置く。

「ありがとう!」
「お前が淹れてくれるのより旨くはねぇと思うが……」
「ううん、剣人さんが淹れてくれる珈琲好きだよ?」
「そっか」
「うん!」
マグカップを大事そうに両手で挟み、漂う湯気に目を細めながら彼女は微笑んだ。


名がここにいる。
彼女と一緒にいるという事実が、前までは味気がなかったオフにどれだけの彩りを添えていることか。
本人はわからないだろう。
俺はソファに腰掛け、一口珈琲を啜った。

「よいしょ、っと」
彼女は一度カップをテーブルに置いて立ち上がり、俺の隣に腰掛ける。
そしてカップを再び手にとった。
ピンク色の唇が、白いカップに触れる。

自分の空間で、
彼女の仕草を独り占めできる幸福感。

こりゃ、完全に惚れてるな。
なんて自分でもバカだと思うくらいに、心底彼女に夢中だ。

「…………」
「…………」

何も喋らない。
けど、この静寂が心地いい相手。

珈琲をすすっては、飲み下す音だけが微かに響いている。

何をするでもないこんな時間が、一人のときのそれとは比べ物にならない充実感で。
夕陽がだんだんと部屋に差しこんでくることを惜しく思った。

「あのドラマってさ」

なんだまたドラマの話か。
静寂を破った可愛らしい声が紡ぐのはさっきの話題。
さっき抱いていた苦い気持ちがまた芽生える。

彼女が俺の役を好いてくれるのは嬉しいはずなのに、なんでだ。

「……おう」
「ファンの皆の投票で決まったんだよね?」

さっきまでは床とソファにそれぞれ腰かけていた俺たち。
今は隣同士、手を伸ばせば触れられる距離。

「そうだ」
俺は中身のもうないカップをテーブルへと置きながら返事をする。

「じゃあ、みんな剣人さんのドSぶりが見たかったのかな?」
「さあな。単に見てくれが1番ボディーガードっぽかっただけじゃないか?」
「うーん……それもあると思うんだけど、ドSっていうとやっぱり剣人さんよりは透さんかなって思うし……」
「口悪いしな、あいつ」
「う、うん……」
「お前はどう思う?」
「うん?」
俺の言葉に、彼女はマグから唇を離す。
その隙にマグに手を伸ばし、彼女の手とそれをやんわりと引き剥がす。

「?」
「…………」
彼女を見つめたままテーブルへとそれを置くと、
手持無沙汰になった彼女の両手を包み込むよう、外側から握りしめた。

まるで愛を誓うようなポーズ。
するべき場所ですればそれはとてもロマンチックな光景になるかもしれない。

でも、いまは違う。

俺の行動に不思議な顔をする名。
もうすぐ消えるであろう橙色の光が彼女の髪に掛かる。
生まれた光の輪がきらきらと輝いている。

きょとんとした無垢な表情に、ひとりで納得する。

―――そうか、この感覚か。

「俺がドSっていうのは」
「えっ……」
「嫌か?」
「え……あの……」
「それとも、意外とイケる?」
「えっ、いや……」
「わからないなら……」
「きゃっ……!」

そのまま体重を掛け、ソファの上で細い身体を組み敷く。

「……試してみるか?」
「け、剣人……さん?」
細い両手首を頭上でまとめ上げ片手で押さえつける。
冷たい革と俺の大きな手に囚われた、白い手首。
もっと強く力を込めれば折れてしまいそうなほど華奢で、勢いのままそうしてしまわないようにと気を配る。

「ドSな俺は意外?ドキドキするって言ってたな?」
「ねぇ、どうしたの?け、剣人さん……?」

らしくねぇ、
画面の中の自分に嫉妬するなんて。
いつもの俺には抱いてくれない感情を、俺が作りあげた画面の中の存在に抱いている名。

なぜか悔しくて、なんとなく情けなくて、もうぐちゃぐちゃだ。

「なら、存分にすればいい」
「けん、っ……!」

大きな身体で小さなお前を無理矢理押さえ付け、
怯えた瞳に煽られるが侭、唇を奪う。
まるで腹ん中からせり上がってくるような支配欲が黒い影になって彼女を覆い尽くす。

柔らかいとこ同士くっつけて、
ぬるぬるの舌絡ませて、何のためにそうするのか理由なんてない。
ただ相手の中に深く深く入り込みたい。
上顎から歯へ。
小さな歯、ひとつひとつに触れる。
ひとつひとつに俺の跡を残すように。

うんうん、と唸って逃れようともがく名。
それを無視して、今度は彼女の舌を掬いあげ、刺激する。

苦しいのだろう、
足をばたつかせるが、それを足で制して、
無駄な抵抗だということを無言でわからせる。

今までは、大切にしたい。
その一心で、傷つけないように、護ってやれるように、
必要以上に踏み込んでこなかったかもしれない。

でも……

ちゅ、と音を立てて唇を離す。
濡れた桜色が艶めかしく光っている。

「こういうのも、いいかもな?」
「ふぁ…けん、とさ……んっ……ぅんっ!」
脱力した身体、乱れた吐息に、潤んだ瞳。
拘束した手をなんとか動かそうともがく身体を力で捩じ伏せる。

いまだけ、お前を支配させてくれ。
いまだけ、お前を俺だけのものに。

「ぁ…ふ…………ん……ぅ……っ……」
「っ……ぁ…んっ…………っ」

俺をお前だけのものに。

もう1度存分に唇を味わったあと、今度は俺の下で揺れている膨らみに手を伸ばす。
手ですっぽりと包みこんで優しく潰してみると、乱れた吐息が甘い音色を含んでくる。

「あっ……ん……はぁ……あ、ん……」
「気持ちイイか?」
揺らすように優しく手を動かしながら、顔をまじまじと見つめる。
彼女は俺の視線に気づいて顔を逸らす。
真っ赤。
それでもその表情を、その変化を見逃すまいと、凝視し続けた。

包み込んだ手で全体を揺らしながら、指で敏感なところを引っ掻いてやると、
再び艶めかしい声が漏れる。
「あ、んっ……」
「どうした?エロい声だして」
「え、そんな、声……ああっ!」

抗議の声なんてお構いなしに、手のひらにグッと力を込め膨らみを握りしめると、
名の顔が苦痛にゆがむ。
眉根を寄せ、ハの字を作る。
その額にはうっすら汗が滲んでいて、舐めたらしょっぱいのかなんて考えた。

「さっきから出してんだろ?エロい声」
「あ、うっ…ん…………」
「認めろ」
耳元でささやいてから、耳たぶを甘噛みすると背がしなる。
ソファが軋む。

「…………はぁ……ん…………うん……」
こくこくと頷く。

「もっとして欲しいか?」
「えっ……?」
「お前が望むならもっと気持ちイイことしてやる」
「……んっ、あっ……」
存在を主張してる胸の突起をきゅっと摘むと、再び顔が苦痛にゆがむ。
辛くはないけれど、いつもしているよりは少し強めに。
俺はいまドSってやつだから。

「まぁ……お前が望まなくても俺がシたいからするけどな」
「えっ、きゃ……あ!」

太ももに手を這わせて、スカートの裾から中に手を突っ込む。
片手しか使えないからどうにもじれったい。
けれど、この不自由さが心を追いたてて、焚きつかせ、欲望を掻き立ててくる。

「熱いな」
まだしっかりと閉じられた太ももの付け根。
無理矢理こじ開けて指を滑り込ませるとそこはとても熱い。

「や……手……」
「なんだ?」
「っ…………」

下着に指を引っ掛けて、ずり下ろす。
足を閉じたままだから返って脱がせやすい。力任せに下へと引っ張り、膝のあたりまで下げておく。
それはそのままに、今度は露わになった下肢を弄る。
ぴったりとかたく閉じられた太ももの付け根に手をねじ込み、既に潤んでいるそこに指を突き立てる。

「あっ……やっ……だめ……っ」
「ダメじゃねーだろ?もうこんなに濡らして。あーあ。もう手がぐちゃぐちゃだ」
「うっ…ちがっ…あっ……んっ……」
「奥はどうなってんだ?」
「や、やだ…………っ……」
グッと勢いを付けて2本の指をとろとろに溶けたそこに侵入させると、
名の身体が震える。

「イきそうか?」
「…………っ……ぁ……あ……」
中が大きくうねる。指をぎゅうぎゅう締めつけて、もう少しで届きそうなんだろう。
だが、俺はそこで動きを止める。
「まだ、だ」
指を突っこんだまま、辛そうな表情を浮かべる彼女を凝視する。
観察するように。
絶頂への階段を上がりたがっているのはわかってる。
細い腰が遠慮がちにゆるゆる揺れているから。

「腰、揺れてる」
「っ……だ、って……っ」
「だって?」
「ゆ、ゆびっ……も、」
「なんだ?」
「もっ…と……ぁっ」

言いかけた唇を塞いで言葉を奪う。
同時に、少し上で熱く膨れてる突起を親指ではじめて刺激してやる。
強く、潰す。
瞬間、俺の身体の下で小さな身体がびくんと跳ねた。
どっと熱い液体が彼女の下肢とそこで蠢く俺の手を濡らす。
唇を離すと、泣きそうな表情の彼女がいた。

「イッた?」
「…ぁ……っ、きゅ、急に、そこ…触るから…」
「そこって、どこ?」
「えっ」
「ここか?」
「んっ……やぁっ……!」

イッたばかりのびちゃびちゃのその突起を再び捏ねと、彼女はぎゅうっと目を瞑って唇を噛みしめる。

「ん?合ってる?ここ?」
「っ……んんんっ……っ……!」
「辛そうだな」
「やっ……ぁ……だめっ……あっ…そんな、っ」
「でも、イイんだろ?」
「け、んとさ……ぁっ……あっ……」
「見ててやるからイけよ」
「っっ!!!」
思い切り捏ねまわすと両腕を拘束されたまま、名は大きく身体をしならせ絶頂を迎えた。

「はぁっ……ぁ……はぁ……」
「気持ちよかった?」
「剣人さん、……なんか、へんっ……ぁっ…」
「そうか?ほら、休んでるヒマねぇぞ」
「えっ……っ!?」

素早くズボンの前を寛げ、自身を取り出した俺は、
今度は拘束していた彼女の両腕をその腹へと下ろしてやる。
脱力したままの彼女は両足を大きく広げられたことで、初めて次に起こることに気付いた。

「待ってっ、だっ、だめ、もう、ちょっと……!」
「待たねぇ。もう限界だ……っ……」
「っ……ぁああっ……!!」

トロトロになってる名の中は挿れただけで意識がふっ飛びそうだった。
挿れた瞬間に名はまたイッたらしい。

快楽に次ぐ快楽。
俺の性急な行動についていくのがやっと、いや、されるがままのお前は半ば放心状態で、
訪れる快楽に耐える姿がやけに扇情的で、俺の質量は増すばかり。
汗で額に張り付いた髪をそっと梳いてやると、気持ち良さそうにまた目を細める。

「あっ……はぁ……お前のナカ、熱い……」
「っ……んっ……剣人さ、んも」
「……くくっ、イキッぱなしは辛いか?」
「ぁっ……ぁ……はぁ……」
「でも、っ……イけないのも辛いだろ?」
「っ……ん……ぅ……ぁ……」

深く繋がったまま見つめ合う。
すっぽりと俺を包み込む彼女のナカはぎゅうぎゅうと纏わりついてきて、さらなる刺激を求めている。
だが俺はかたくなに動かなかった。
辛そうな表情をする彼女を見つめていたかった。

「っ……言ってみろよ」
「…っ……え…?」
「どうして欲しい?このままでいいのか?」
汗ばんだ白い乳房をぎゅっと掴む。小さい悲鳴が上がる。
硬く立ち上がった突起を口に含んで歯を立てる。
「んっ、やっ、ああっ……」
俺が動いたことで繋がった部分にも動きが生まれ、更に彼女のナカがひくついているのがわかる。
もっともっと、強い強い刺激を。

「くくっ、お前の身体は正直だな?」
「ち、がっ……んっ……」
「ほら、言ってみろよ」
「んっ……ぁぁっ……んっ……」

泣きだしそうな名が愛しくて、すぐにでも腰を打ちつけて犯したくなるのをぐっとこらえる。
ストレートな言葉を口に出させ、羞恥心を煽ってからの方がずっとずっと悦ぶから。

「ほら」
乳房から口を離し少しだけ腰をゆすると、表情が大きく歪む。深い吐息が漏れる。
「け、んとさ……」
「ん?」
「……せ、て……」
「なんだ?」
「いっ、」
「…………」
「イかせて…下さいっ……!もっと強く、もうっ、好きにして……」
「……まーいいだろ」
「ひゃ、あっ……!」

腰を掴み一気に自身を引き抜いてから、最奥へと激しく打ち付ける。
名と俺とが擦れあう音が煩いくらいに部屋中に響いて、
それに重なって名の悲鳴にも似た嬌声と俺の吐息が重なり合う。
身体も声も気持ちも、全部重なる、全部混ざり合う瞬間がたまらない。

「けんっ、とさん……てっ、っ、ぁっ!」
「名っ、あっ……はぁ…んっ……名っ!う…くっ…」

必死に両手を伸ばしてきた彼女の指に自分の指をからませ、再びベッドに縫いとめる。
弾む身体、2つの唇を寄せ合って、この日一番の深いキスを交わす。

舌も、身体も、声も、気持ちも、全部重なる。
彼女の身体を押し上げるように何度も突きあげ、唇を重ね合ったまま俺たちは絶頂を迎えた。



「おはよう」
「ん……」
「名、珈琲はいってる。そろそろ起きられるか?」
「……!?いま、何時!?」
「9時過ぎたところ」
あの後すぐ名は気を失い、俺は彼女の寝顔を長いこと楽しむことができた。
その身体を綺麗にして、服を整えてから俺も眠りについた。

「まさか私あのまま気を失って……ご、ごめん!朝ごはん、外で食べようって言ってたのに」
「いい。朝メシ作ったから」
「えっ……」
「わりぃ…その…昨晩は無理させた」
「……あっ……」
彼女の顔がみるみる赤くなり、途端に視線をさ迷わせる。

「で、ドSはどうだった?」
「ど、どうって……!」
「ドキドキしたか?」
「ドキドキ、したけど……」
「けど?」
「私はいつも剣人さんにドキドキしてるから」
「…………」
またそうやって恥ずかしい台詞をさらり言って、俺の心を乱す。
俺の方がドキドキしっぱなしだ。

「だから……当分、いいかな」
「…へぇ、当分?じゃあ少し経ったらまたヤるか」
「えっ、いや、あの、それは……!」
「くくっ。次も楽しみにしてる」
「えっ、や、やだー!」

慌てふためく名には闇で見せる妖艶さはかけらもなく、本当に色んな表情で俺を翻弄する。
そんな風に俺の心を知らずに弄ぶ名こそ、Sなのかもしれない、なんてな。

でも俺は知ってしまった。
無垢な瞳を濡らすその快感を。

これは、やみつきになりそうだな。


*END*

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