ときレス | ナノ


keep A "Rule"(霧島 / 微裏)

コン、コン…

恐る恐るドアをノックすると、一言「どうぞ」という言葉だけが返ってきた。
その声色からは何も読みとることが出来ない。

緊張で張り裂けそうな胸を、1回、2回、深呼吸で鎮めて、ドアを開ける。
「失礼します」

いつも放課後訪れている部屋なのに、全然知らない場所のようだ。
活動が休みの今日。なぜか私は呼び出された。

ドアを開けるとそこには誰もが恐れる「最強の生徒会長」
「あの……霧島先輩」
「ああ、きみか。待ってた。そこに掛けて」

いつもながら完璧な佇まいの霧島先輩は私を一瞥すると、向かいの席に座るよう促す。
指示されるままに、その椅子に腰かけ、姿勢を正す。
膝を揃え、その上に両手を置き、まっすぐ会長を見た。

ここからは見えないけど、会長はきっと足を組んでいる。
彼のいつもの姿勢。

会議の時間以外は、議長…つまりは生徒会長だけが座ることを許されるその席で、
少し気だるそうに頬づえをついている。
すっ、と細められた瞳は、全てを支配下に置かんとする鋭い光を秘めていて、私はその瞳に酷く惹かれていた。
霧島司以外、すべてがくだらないと言わんばかりの、崇高な目つき。
それはときに、忌避したいほどに神々しく、周囲を惑わせた。
それを目の端で捉えるたびに、思いがけず目にしてしまうたびに、言いようのない感情を抱いていた。

怖い、のとは少し違う。

いつもの表情で私を見つめる彼の視線をなるべく避け、問う。
「あの…用件は…」
「…はぁ…」
うんざりしたような溜息。冷や汗が吹き出す。
私は彼にそんな溜息をつかせる様な行為をしてしまっただろうか。
迷惑をかけてしまっただろうか。
「あ、あの…」
「生徒会執行部とあろう者が、校則を守れないのか?」
「え…?」

再び小さく溜息を尽いた彼は、立ち上がる。
規則的な足音を響かせ、こちらに近づいてくる。
ゆっくりと議長の机を越え、私の傍らに立った。

「立って」
「は、はい…」

言われるままに立ち上がる。
すると、私とは裏腹に、会長はしゃがみこむ。
片膝を立てて、どんな姿勢でも行儀よく在る彼はさすがとしか思えなかった。
固唾を呑んで、次の言葉を待つ。

「やはり……スカートの丈。少し短くないか?」
「えっ……!?」
どこからか取り出したメジャーを引っ張り、私の膝にあてがう。
ひんやりとした無機物の温度に、肌が粟立った。

慌てて彼を見つめると、
メジャーの目盛りを見つめ、眼鏡を直す仕草。

「1cm短い」
すかさず見あげてくる、冷たい視線。
「そんな…自分で特に短くしたりは……」
萎縮し、声が小さくなってしまう。
身体がかぁっと熱くなり、背中に冷や汗をかいているのを感じた。

「では着方のせいだろう。それとも…」
膝に今度は違うものが当たる。

大きい手のひら。しなやかなそれは少し冷たくて、触れられた場所が震える。
会長の、骨ばった手。

「…俺を、誘ってる?」

大きな手は膝から太ももへと、ゆっくり這い上がってくる。
私の肌の感触を確かめるように、肌を擦りながら、ときに指を食いこませながら、ゆっくりと…。

どうして…?
どうして、こんな……

拒絶したいのに…動けない。

手はスカートの裾をめくり上げ、中へと侵入していく。

「拒絶しないなら、そう受け取っても?」
「だっ、ダメです!!だ、だいたい、学校内での不純異性交遊は…禁止です…!!」
意を決して叫ぶ。
足元の霧島先輩を見ようとするも、彼は俯いていてうまく表情が見えない。

「……禁止?」
声だけが聞こえる。
少し嘲笑うような、冷たい声。

「俺が校則だ」
「なっ……ひぁっ…」
刹那、
濡れた何かが太ももを這う。
思いもしなかったそれは、
会長の赤い舌。

眼鏡の奥の鋭い瞳がこちらを見上げ、見開かれた瞳とぶつかった瞬間、
一層妖しく光る。
そして彼は、見せつけるように赤い舌を出して、私の太ももに這わせた。
両手でしっかりと足を掴み、一心不乱に舐める。彼のしなやかな指が食い込んで小さな痛みを感じる。

「ぁ…む……」
「んっ…っ!」

腰からぞくぞくと広がる甘い痺れ。
そうだ、これは恐怖じゃなくて、甘やかな悦び。
1度だけじゃなく、まるでアイスキャンディを食べるかのように、
太ももを吸われ、舐め上げられる。
舌の動きに合わせて変な声を出してしまいそうで、慌てて口を押さえる。

「はぁ…む…っ…ん……俺の言うことは絶対だ。俺以外のすべては俺に従う。それがこの学校のルール」
「やっ…き、…霧島…先、輩……あっ…ん…」
また、ぺろりと。
彼が舐めたそこに、更に艶めかしい吐息が触れて、膝が崩れ落ちそうになる。

「今日は見逃してやろう…1回めだから」
唾液で濡れた私の足を解放し、霧島先輩は立ち上がる。

頭ひとつ分大きい先輩はそれだけで威圧感があるのに、今はそれ以上の何かを感じる。
支配者の纏う、圧倒的空気。

何も言えずに、ただ彼の次の行動を待っている。


「明日以降、1mmでも長さが校則と違えば……懲罰を与えねばならないな」
「そんな…っ、1mmでもだなんて、そんなの無理……!!!」
「無理だろう?」
耳に唇を寄せ、先輩は楽しそうに笑う。
「だから、きみは、明日からも校則を破らざるを得ない」
「なっ……!?」

「そして、俺の元にくるんだ。毎日、毎日。生徒会の仕事の後、誰もいないこの部屋で俺の与える罰を受ける為に」
「…………」
「俺は校則。校則は絶対。じゃあ、俺の言葉は?………わかるだろう?」

そう、怖いんじゃない。
これは、悦び。
きっと私は、ずっとこうされたいと思っていた。
彼の瞳に見つめられるたびに、身体が疼くのを感じていたんだ。

「さぁ、きみの言葉で聴かせて?俺の言葉は?」
「……絶対です…」
「ふっ……よくできました」


新しい日々が、始まる。


2014.4.21

prev / next

[ back to top ]