新サービス?(透/微裏)
「ハァ?!」
思わず声が出た。
スタジオの入ってるビルの中。
俺だけ先に収録を終えて楽屋へ帰る途中で見掛けた、
見慣れてるはずの後姿。
赤いフード…っていうか頭巾?を被った俺の彼女。
巷で噂のレストランの看板娘……
なのはいいとして…あの格好なんだよ。
デリバリーの帰りなのか何も持たず、
スカートの裾を翻して軽やかに歩いていく。
「おーい、そこの人ー」
「?」
赤いずきんがくるりと振り返る。
ああ、やっぱり…。
見間違えじゃなかった。
どこかの収録に参加したアイドルなのかと思ったら、
やっぱり名で。
「あ、透さん」
「“あ、透さん”じゃない。なんだそれ」
「なにが?」
「そのカッコ」
見れば見るほどテレビの中の存在だ。
頭を覆う大きなフードに、首元で結んだ大きなリボン。
額のあたりには白い花がついている。
深いグリーンのベストに、チェックのスカート、おまけに白タイツ。
「……学芸会かなんか?」
「ちっ、違うもん!」
おまけに白いほっぺを紅くして、
名は俺を見上げる。
「なんだ、じゃー、なに。あの店、性的なサービスでも始めたの?」
「せっ、せいてき…!?」
「そんな格好でメシ届けてくれるなんて、どー考えたってイロモノだろ」
「酷いっ!」
俺を見上げる瞳が少し潤む。
あ、泣かれる。
「おい、こっち」
「えっ…」
『X.I.P様』と書かれた紙が貼られたドアの中へと、彼女を引きずり込む。
素早く辺りを確認したが、運よく誰もいなかった。
急いでドアを閉め、電気をつける。
ドアを閉めた風圧で、彼女の被ってる頭巾がふわりと揺れた。
「こ、これは、お店に来る食通の人がくれたの。いちごずきんちゃん、なんだって」
「へぇー」
言われてみればそんな色合いだな。
興味なさげに頷けば、名の表情が曇る。
「やっぱり…」
「……?」
「やっぱり似合わないよね……こんな可愛い格好……私には…」
あいつは俯き、自分の姿を見ては項垂れた。
柔らかそうな唇を尖らせて、少しむくれているように見えた。
「誰が似合わないっつった」
「へ?」
「似合わないどころか、」
彼女と向き合い、上気したいちご色の頬に手を添える。
潤んだ瞳は俺の手に一度視線を移すも、すぐに視線をこっちに戻す。
大きな目が期待と不安で揺れている。
「そそられる」
「なっ……っ……」
何か言い返される前に、
さっきまで目の前で尖らせてたいちご色のそこに噛みつく。
ふわふわで、甘くて、守りたいけど、傷つけたくなる、
俺をいつも変な気分にさせる唇。
何度かやわく噛むと、観念したのか同じように唇を求めてくる。
薄く眼を開けてみると、名の閉じたまつ毛は小さく震えていた。
「ふ……」
「…っ…」
いつまでもキスに慣れないたどたどしい仕草に、
心を掴まれる。
もう一方の手も頬に添えて、顔を挟み込んでぐっと持ちあげ、更に深く口づける。
「んっ…っ…!?」
「……ぁ……ふ……」
俺の胸で小さな手が服をぎゅうっと掴むのを感じる。
そのとき、
「通りまーす!」
ガラガラガラガラ……
楽屋の前を、台車が通りぬける音がする。
ドア越しに聞こえるくぐもった音。
名は一瞬身体を震わせて何か声を発したが、
俺はその唇を離さなかった。
まだ全然だめ。
もっと味あわせてよ。
薄く口を開け、色づいた唇に歯を立てて、更に舌で舐め上げるのは、
もっと深く繋がりたい合図。
名はとろんとした瞼を震わせておずおずと口を開く。
と同時に、遠慮なく舌を突っ込んで、彼女の熱いそれを探しに行く。
ちろちろと刺激してやるけど、絡ませてくるどころか、どっか行く。
それを追いかけて、掬い取ると、また逃げる。
好きすぎて、舌先が触れ合うたびに、その存在を確かめられる気がして夢中で追い求める。
濡れて熱いそこが擦れたり、絡まったりするたびに、下腹部が熱くなるのを感じた。
「っ……くるし…っ…と、…るさ…」
「っ…ふ…名っ、ヘンな声だす…な…っ…」
「ふぁ……ぁっ…」
「んっ…」
たっぷりと味わってから、
ちゅ、と最後に音を立て、唇を離すと、
更に顔を赤く染めて縋るような瞳で見つめてくるものだからたまらない。
少し身体の向きを変え、彼女に体重を掛けながら、ドア横の壁へと押し付ける。
トン…
彼女の背が壁にぶつかる渇いた音が響く。
「はぁ……はぁ…、っ…はぁ…」
「いちごずきん、だっけ?」
「はぁ……っ……」
息を整えながら、お前は俺の次の言葉を待つ。
壁にもたれた身体にほぼ力が入っていないようで、
俺が力を抜けば、膝を折って倒れ込んでしまいそうな。
そんな彼女の頭巾を外す。
髪に隠れた耳を指で、つ…、となぞってから、唇を寄せた。
小さくて可愛い耳も、面白いくらいに真っ赤。
服をひん剥いても、全身いちご色なんじゃないかと思うくらい。
「もう食べ頃っぽいな」
「っ……」
意地悪く息を吹きかけてやると、
お前は身体をふるりと震わせる。
無垢な少女の格好してても、
もうすっかり俺に暴かれたオトナの身体。
熱くされた身体を持て余して、
潤む瞳はすっかり欲情しきってて、
その従順な反応に興奮した。
「名…エロい顔…」
「そんな…透さ……」
と、そのときだった。
「ハーイ!お疲れちゃーん!!」
楽屋のドアが乱暴に開いて、お呼びでない男が2人。
「ひゃあっ!?」
「あーあ…」
入ってきて早々ドア横にいる俺たちを見て、キョウヤさんとケントは目を丸くする。
「あれっ、名。どうしたの?俺達デリバリー頼んでないけど…」
「あっ、あの、ちが、えっと、そこで、透さんに会って、そのっ」
「ハァ……つーか、キョウヤさんもケントも空気読めって…」
溜息をつきながら、
彼女の身体を解放してやると、急いで衣服の乱れを直している。
「ドアの外からどうやって中の空気読めってんだ?」
「なになに?もしかしていかがわしいことしようとしてたとか!?オニイサン許しませんよ!」
キョウヤさんは俺と名を交互に見ながら顔をしかめる。
「ルール」
ケントは腕組みをして俺を牽制する。
元からだけど、いつもより顔がコワイ。
「へーへー、わかりましたよ」
ま。そんなルール、とっくに破ってるけど。
「で、ではっ、わたくし、失礼いたします!」
「うん、気をつけてね」
あいつは慌ただしく楽屋を去っていく。
あー、もうちょっとシたかったのに。
「で、あの格好はなんなんだ?」
ケントは彼女の出て行ったドアを見つめて呟く。
「いちごずきん、だってさ」
「わぉ。なにそれ、美味しそう。もしかして、エッチなサービスしてくれちゃうの?」
キョウヤさんは楽しそうに笑う。
えー…
どうやら俺の思考はキョウヤさんレベルらしい。
ショック。
「さーね。頼んでみたら?」
「おっ、じゃー俺、牛丼」
「おいおいケント…また食うのかよ」
最初はそんな趣味興味ねーって思ってたけど…
なにかに目覚めそうなそんな予感。
(猫……とかいいな…)
「ちょっとトオルくん?鼻の下伸びてますよ?」
「っ…!?」
「エッチなサービスしてもらったのか?」
これからだったのに、
あんたらが帰って来たんだろ!
って言いたいのは我慢して、
心は新しい可能性に躍る。
……やっぱ、猫だな。
2014.4.3
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