ときレス | ナノ


Raise Me?(伊達)

「ん……気持ちイイ」

私の部屋。
カーペットの上にぺたりと座った私の膝の上に乗った色素の薄い髪に指を埋めて優しく動かす。
大きい身体の彼が、まるで子供のようにうっとりと目を細める。
そして私の腰に腕を絡め、ぐっと身を寄せてきた。

「たまんねぇ…どこでシてもらっても気持ちいいけど、ここは尚更。柔らかくてあったかくていい匂い」

お腹にすりすりと顔を埋める京也さん。
くすぐったくて私は身をよじった。

「う、ん…くすぐったい」
「なぁ…名」
「ん?」
「もっとシて?」

少し眉根を顰めて見上げてくる切ない表情。
そんな顔されたら胸がきゅんと締まって…
再びさらさらと綺麗にそよぐ髪を撫で始める。

手の中の彼はまた気持ちよさそうな吐息を漏らす。

「ふふっ。京也さんは猫ちゃんっていうよりわんちゃんっぽいかな?」
「ん?」
「透さんが猫、不破さんが肉食獣、京也さんはわんちゃん…かな?」
「おいおい…ケントだけかっこよくないかー?それに比べて俺はわんちゃんって…」

うっとりと閉じた瞳。
相変わらずされるがままになっているが、漏らす声は不満の色を帯びている。

「だって…京也さんも勿論かっこいいけど…こうして甘えてくるときは可愛いんだもん」
「こんな姿、お前以外に見せないさ」
「それに…」
「なに?」

少し言い淀んでから、彼の首に掛かるアクセサリーに触れる。
手の中でしゃらりと音を立てるそれは…

「このアクセサリーね、遠くから見るとちょっとわんちゃんのリードっぽくって」
気を悪くするかも…と思ったが、思い切って告げてみた。
思いの外、彼は大声で笑う。

「ははははっ。そっか!それは思いつかなかったな…それでわんちゃんっぽいって?」
「うん」
そう答えると、彼は突然、胸元にアクセサリーに触れている私の手を取る。
「?!」
「じゃあさ…」

そしてそのアクセサリーをしっかりと私の手に握らせ、大きな手のひらで更に包み込む。
それから自身の体勢を仰向けに直し、私を見上げてくる。

見つめ合い、流れる沈黙。
その瞳は切なそうで苦しそうで、胸がちくりと痛む。

「しっかりリード持ってさ。俺のこと離すなよ…いっそのことお前に飼われたいくらいよ?」
「京也…さ…」
「お前は…誰からも好かれて…色んな奴に誘われて…目を離すとすぐ誰かに奪られちまうんじゃないかって…怖い」
「そんなこと…!」
「俺だけを見てくれ…頼むから……好きなんだ、どうしようもないくらい」
「っ…」
私の手に触れる手とは別のそれが私の首へと伸ばされ、ぐいと引っ張られる。
彼は思い切り背をしならせ、強引に引き寄せた私へとキスをする。

「っ…」
「んっ……」

柔らかなそれは熱くて、でも一瞬で離れていく。
少し離れた距離で見つめ合う瞳が少し潤んでいて、どうして彼がそんなに切ない顔をしているのかわからず困惑する。

言葉を失っていると、彼は身体を起こし、改めて私と向き合う。
今度は高い位置に居る彼の顔。さっきとは逆の関係。
今度は私が彼を見上げる。

「お前が俺を飼ってくれないなら……俺がお前を…」
「……?」
彼の言わんとしていることがわからず、不安になる。
彼の目がどこか虚ろで、私の表情はだんだん曇っていく。

「わりぃ、ジョーダン……何言ってんだ俺は…」

ぎゅっと大きな身体が私を包み込む。
あったかい。
大好きなぬくもり。大好きな香り。

大きな背中に、いつもみたいに両手をまわして、その体温を感じる。

「だけどさ、俺の傍にいてくれればそれでいいや、なーんて純粋な感情はもうとっくの昔になくしちまってな」
「え?」
「ベッドの中のお前の可愛い声とか、滑らかな肌とか、甘い匂いとか…知ったらもう戻れないってこと」
「…もぉ!」
「だからさ」
「きゃっ」

急に身体が傾いで、床へと押し倒される。

「シようぜ?"お互いが"気持ちイイこと」

床に散らばった髪をひと束掬いあげ、キスをする彼の瞳には野性的な光が宿っているのを見つけ、
小さく震える。
逃がさんとばかりに絡まった足、首元を擽る吐息、胸元へと徐々に這い上がる熱い手のひら全て、
この後の甘い時間を予感させてくれる。

「俺を満足させて?飼い主サマ?」

反論の言葉は熱くて柔らかいそれに阻まれ、食まれる。
情熱的なキスに思考回路は遮断され、ただ彼の熱に侵されていくのだった。


2013.10.20



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