始まり/P4夢設定です。初めにお読みください。
「名前は?」
深く響く低音。
彼は刑事さんらしい。
「名」
私はそう答える。
「おうちは?」
高く細い声。
小さい女の子が私を見つめる。
不安げなその表情に、私は困ったように笑って首を傾げた。
「わからないの」
話している相手は、刑事さんと女の子。
そして、クールな表情をした高校生の男の子。
刑事さんがいるけれど、ここは警察署ではない。
私はふらりふらりと街をさまよっていたらしい。
そして、そこにいる男の子とすれ違った瞬間に倒れたのだという。
「おい。ったく、悠。どうするんだ…彼女を看病したお前を責めるわけじゃない。むしろ良いことだが…いくら警察といえど、彼女の居場所を探すのは難しいな…」
私が覚えているのは、自分の名前と年齢だけ。
この街のことは覚えていない。
きっとこの街の生まれではないんじゃないかと思う。
捜索願いも出されていないそうだ。
まず始めに出向いた警察署で「堂島さん」と呼ばれていたこの男性は、そう言った。
行く場所もなく、困っていた私に、
「うちに来ればいい」と事もなげにそんなことを言ったのが、鳴上悠。
彼も堂島さんの家にお世話になっているらしい。
幸い歳も同じだし、身近な助けに、少しだけ安堵した私がいた。
「うちに…って…今はお前もいることだしなぁ」
堂島さんは困ったように呟いた。
「いいじゃん!菜々子、お姉ちゃんがきてくれたら嬉しい!毎日楽しくなるよ絶対!」
菜々子ちゃんという名前の女の子は私の手をぎゅっと握る。
しっかりしているけれど、とても素直で人懐こい女の子だ。
不安な気持ちが温まっていく。
「記憶が戻るように、俺、手伝いますから」
悠は力強く言うと、私の方に向き直る。
「心配しなくていい。俺も菜々子ちゃんも……堂島さんも、君を歓迎するよ」
「え?」
「仕方ねぇか…」
堂島さんは困ったように首に手をあてたが、表情は柔らかい。
「わーい!」
「宜しく」
こうして私の日々が始まる。
記憶が無い不安も、見えない未来も、此処から出発することで、
すべて希望に変えられると、そのとき強く思った。
怖くない。
さぁ、歩き出そう。