ペルソナ4&3 | ナノ


  朱色の中で/後篇



俺は名を追いかけた。
夕日で燃える彼女の背中が、ひどく頼りなく見えた。

俺の言葉は間違っていたのだろうか。

なんて切り出そうか、いつも迷っていた。
彼女は絶対に怒ると思っていたから。

案の定、最初の一言でうろたえているのがわかった。

でも、それは俺の予想の範疇を超えていた。
泣きながら走り去る彼女の背中を呆然と見送った俺は、頬をひと撫でした風に弾かれ、駆けだしていた。

狭い街だ。
ジュネスじゃなければ、ひとりになりたい場所。
家に帰るに違いないと思った。

好きな人のことくらいわかる。

見覚えある風景。
瓦屋根が見えたときだった。

名の家の前に誰かがいた。
うちの高校制服を着た男女…。想像するに容易い。

鳴上と名だろう。

俺はなぜか動けなかった。

名はひどく儚げで、鳴上に縋りついているようにも見えた。
彼女を打ちのめしたのは俺の言葉だとしても……
俺は彼女をひどく恨んだ。

そうしていたときだった。

「!!!」

彼女が鳴上の腕に飛び込んだように見えた。
あいつは冷静に名を抱き返すと、そのまま家の中へ連れて行った。

耐えられなかった。
俺は来た道を戻っていた。

夕日が眩しかった、なんて青春ドラマの締めで使う言葉みたいだな、なんて思いながら、
その皮肉さを呪った。

ハッピーエンドじゃねぇ。
仲間と彼女に裏切られるなんてな。

*

「それで?」
一気にまくしたてると、目の前の男は変わらぬ態度で先を促した。

「はぁ!?……それで?じゃねぇよ!その後はよろしくヤッたんだろうが」

「お前じゃあるまいし、そんなことしない」
鳴上は足を組み直す。
1つ1つの仕草が落ち着きはらっていて、こんなに取り乱している俺がみじめに感じる。

「う、嘘つけ!!」
「だいたい、お前が言ったように『よろしくヤッた』んなら、俺はここにいない」
「は?」
「俺はしつこいタイプなんだ」
「!!!!!」

こいつ真顔でなんてこと言いやがる…
だいたいお前のせいで俺がこんなに悲惨な思いをしているのに反省の色が全く見えないどころか、逆に開き直ってんじゃねぇか!?

「お前の言い分はそれで終わりか」
鳴上は立ち上がった。

「逃げんのかよ!!」
思い余ってテーブルを叩く。
周りの客が振り返った気配がしたが、気にできなかった。

「名はこう訊いてきた。「私は足手まといなのか」って」
「は?俺、そんなこと全然…」
「『伝達力』が足りないんじゃないか?演劇部入部を進めるよ。お前のそのオーバーリアクションは喜劇にぴったりだ」
鳴上は捨て台詞を残して踵を返す。

「まだ話は終わってない!!」
落ち着き払った背中を追いかけようと足を踏み出す。

「俺は終わった。安心しろ、家にはあと3時間帰らないでやる。菜々子ちゃんと合流してここで遊んでるから」
「…え?」
頭に上っていた血が引いていく感覚に、足元がふらつく。
視界が反転した…!

ガタン……!!!
顎と掌へと鈍い衝撃が走る。
…どうやら転んだらしい。

「ってぇ…」
「ま、お前が誤解を解く努力をしないんなら」
地面しか見えない視界に、鳴上の靴が入ってくる。
そして、耳元にあいつが近づく気配がした。

「俺の余りある伝達力で、今度こそ彼女を奪ってもいいかな?」
「なっ……!!」
あいつの靴が視界から消えていく。
痛む顎を抑えながら立ち上がった瞬間、周りの好奇の目を引いていることに初めて気がついた。

「ど、どうも…」
我ながら情けないが、営業スマイルを浮かべつつ、ポケットから携帯を取り出す。

出てくれないとわかっていても、名の番号を探した−−−。

***

「やっぱ出てくれないかぁ…」
あいつの言葉を信じて、堂島宅へと戻ってきた。
言葉通りならば、いま彼女は1人のはずだ。家にいてくれればいいのだが…。

意を決して、インターホンを鳴らす。

「…………」

明るいベルの音だけが響く。
何も気配がなかった。

試しに玄関の戸に手を掛けると、意外なことに開いていた。

「お、お邪魔しまーす…」
恐る恐る玄関を開けると、なるほど。誰もいない。

「入りますよー…花村でーす…」
一応、挨拶してみる。
ここで菜々子ちゃんがいてくれると、とても精神的に救われるんだけど、どうやら誰もいないらしい。

前に案内された、名の部屋(悔しいことに鳴上の部屋の隣だ)の前に立ち、耳を澄ませてみる。

「何も聞こえない…名ー…入りますよー」
小さく断りを入れてから、ドアを開ける。
彼女の匂いが全身を満たしていく。

(た、たまんねぇ…)

少しずつ開いていくドアの隙間から中を覗くと、一見誰もいないように見えたが、
ベッドが盛り上がっている。誰かが寝ているようだ。

(ま、この場合は名に違いないだろうな……違ったら俺、涙目…てか鳴上だったらぶっ殺す)


「よーす…けのばか…」
「ご、ごめん!!!あれは本当にそんな気で言ったわけではなくて…!!」
突然名前を呼ばれて気が動転した。
急いで部屋に入り、ドアを閉める。

「…………すーっ……」
「っておい…寝言かー?」
綺麗に整頓された部屋を見渡しながらベッドに近づいた。

「……………」
「まじかよ……びびって損した…」
とりあえずベッドサイドに腰掛ける。少しだけ空いているベッド上のスペースに両腕を乗せ、その上に頭を乗せた。

「なんか…すげー疲れたわ…」
「…………」

「正直いうとさ…俺、お前と一緒に戦ってると辛いんだ…。シャドウをやっつけた後の充実感みたいなのを分け合えるのはこの上なく嬉しいんだけどさ…その…お前が傷つくのを見たくなくて…」

戦闘のたびに危険にさらされるのは当たり前だ。
その為に、シャドウに立ち向かう力を手に入れた。

はじめは、好きになった人と一緒に世界を救うことができるかも、って。
そんなチャンス与えられたの世界に俺しかいないだろうって。
誇らしかったんだ。
でも…戦いが続くにつれて、シャドウが強くなるにつれて…

「俺は大切な人をまた失ってしまうんじゃないかって…恐怖を感じた」

俺がしっかり守ればいいとも思った。
でも、俺のほんのちょっとした不注意で、お前を怪我させたり、万が一もう二度と会えない状態になったりしたら…
どうしたらいいんだろうって考えたらキリなくて。

お前を傷つけたくない、
お前に傷ついてほしくない。
お前を守りたい。

そう思って突き詰めたら、お前を戦闘に参加させたくなくなって…

「もう愛する人を失うのは嫌なんだ…足手まといだとか…そんなん思ったことねーよ…いつも助けられて…俺のが頼りねーのかも…」


「………頼りにしてるよ」

「ん、まじ?ありがとう………ってぇええええ!?」

驚き慄いてベッドから飛び退く。
見ると、彼女がほほ笑みながらこっちを見つめている。

「えええええ!?えええええ!?い、いつから!?いつから起きてたの!?」

「『た、たまんねぇ…』あたりから…?」

「はーーーー!?最初!?最初じゃないのそれ!?てかそれ、俺の心の声ね!!え、もしかして声に出してた!?嘘ォ!」

「…そうかも」
布団にもぐりながら、彼女は楽しそうに笑う。

「まじかよー…超恥ずかしいんですけど……」
その場にへたりと座り込む。

「そう?私は超嬉しい、かな……そう思ってくれてたんだ」
少し、布団を押しのけて、彼女は身を乗り出した。

「………なんか誤解させちまったみたいで…」
『誤解』という言葉で、自分が何をしに来たのか改めて思いだす。

「てか、さっき、鳴上に抱きついてなかったか!?」

「え?いつ?」
素っ頓狂な声をあげた彼女を見て、俺は自分が誤解していたのだとまざまざと思い知らされるのであった。

「もーいー」

「陽介の言葉で頭に血が上って…立ちくらみ起こしたときかな」

「俺のせいですか…わかりましたよー」
もうなんだかバカバカしくなってきた。
伝達力も寛容さも磨く必要があるかもしれない。

そして…

「目の前に寝てる無防備な彼女を放っておく根気も、かねぇ」

胸いっぱいに吸った彼女の空気。
この部屋に入ったときから、とうに俺の心は疼いているわけで。

仲直りもしたことだし…

『3時間は帰らないでやる』

あいつの言葉が脳裏をよぎる。

「この為か……借り、だな」
そうと決まれば。

力の抜けた足腰に精力を補充して、っと。
ガンガン行きますか。

立ち上がった俺は、俺の言葉を思い出しては照れている彼女が横たわるそこへ侵入する。

「ちょ、陽介!?」

「リーダーに許可はもらってんだ。3時間きっかりヤッてこいってさ」
布団を引きはがし、彼女がまだ制服姿だということを知る。

「はー!?何言ってるの!?菜々子ちゃん帰ってくるし、そんないきなり…」
喚く口を、自分ので塞ぐ。
息もできないくらい強く、名の唇を吸った。
名は俺の胸を押し返そうと努力している。
声になり損ねた音が俺を煽る。

もっと苦しんでよ、もっと熱くなってよ。
トロトロに蕩けたお前を味わうのは最高に楽しいんだ。

彼女の力が弱まった頃合いに、ゆっくりと唇を離すと、潤んだ瞳がこっちを恨めしそうに見ていた。

「ふぅ…菜々子ちゃんはリーダーとデートだよ」

「!!!」

「……仲直りの、しようぜ?」

軽くウィンクしてみせると、名は顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
そして小さくつぶやく「馬鹿」と。

綺麗で白い首筋が、痕をつけてと言わんばかりに晒されているから、俺は堪らず噛みついた。

「んっ…」
彼女に小さい痛みを与えながら、同時に俺の愛の証を刻んでいく。
こんなとこに付けたら、堂島さんに怒られるかな。

でも、そんなのかまってられない、俺のモンだって証拠をたくさんつけとかないと、
どっかの番長にとられちまうからな。

小さな手が俺の胸を押し返すから、その手を掴んでベッドに押し付けた。
抵抗できない無防備な姿は、まるで俺に食べられるのを望んでいるかのよう。
なーんて、都合のいい解釈して。

でも、まんざらじゃない彼女を精いっぱい愛すのが男ってもんでしょ。

押さえつけている両手を彼女の頭上でひとまとめにして、片手で押えられるようにする。
少しだけおびえた様子の彼女の眼を見つめながら、再び唇を塞いで、空いている手で、柔らかな膨らみを撫でる。

「んっ…」
彼女の声すらも俺のもの。
口内を伝って、俺の体内に流れ込んでくる。

撫でていた手を揺すったり、時には強くつかんだりするたびに、彼女の体が跳ねる。
口付けは続けたまま、相手の何もかもを奪い去る。

「可愛い…」
唇を解放してやると、胸を上下させて息を吐く。
その胸がまた俺を誘っているように見えて、今度はその先端にキスを降らす。
絡みつくように、濡らしながら愛すると、制服が透けていくのがわかった。

「あれ?もしかして立ってきた?」

「ばっ、ばか…!!」
名は動かない身体を捩ってみるも、俺の身体は動かない。

彼女の体が熱く熟れるまで、これでもかとばかりに胸を責める。
すっかり彼女の息が上がったころには、当の俺も限界で、ムスコが制服に抑圧されて窮屈そうにしているのを感じた。

淫らに立ち上がった胸から唇を離して、名の耳に寄せる。
空いている手を、スカートに滑らせる。

「美味しいよ…」

「っ……」

「俺もう…限界…」

拘束していた彼女の手を離しても、もう名が抵抗することはなかった。
制服を脱がせて、下着も取り去る。
足の間に手を滑り込ませると、火傷しそうなくらい熱くて、すっかり濡れたそこはちくりと指に刺激をくれる。

「名も限界みたいだな……」

「そ…んなことな…あぁっ」

減らず口を叩くも、体は正直で、指を突っ込むと、ますます身体が跳ねる。
簡単に奥まで進んでいくくらいぐちゃぐちゃだったもんだから、指を増やしてみた。

「あっ…や…そん…んっ…ぁっ」
注挿を繰り返すと名の腰が揺れる。
敏感な粒もぷっくりと膨らんでいて、苛めてみると、上も下も涙を流す。

「もうだめ…いただきますっ」
名の腰を高く上げさせ、両足を抱えると、一気に腰を進める。

「っあ………!!!!!!」
挿れた瞬間に、彼女が絶頂を迎えたのがわかったが、止められなかった。
汗ばむ身体も弾け呼ぶ蜜も、まだまだ足りない足りない。

「あっ……はっ…名っ…」

「やだっ…陽介、私…イッたばっか…り…ああっ…ひゃあっ…」

「何回でもイきたいんだろ?…はぁっ…こんなに濡らして…ぁっ……誘ってるとしか、思えねーよ」

「んっ、あっ、あっ」
可愛い声を洩らす唇が無性に食べたくて、彼女を少し抱き起して、濡れた赤い唇を貪る。
彼女は俺の背中に腕をまわして爪を立てた。
溢れる快感の行き場を探しているのだろう。

「もっと…はっ…もっと、啼けよ、ほらっ……」

「や…あっ…あんっ…」

体内を抉るように、腰をぶつける。
俺のすべてを感じてほしい。
俺のすべてを覚えてほしい。

背中を這い上がるような強烈な快感に襲われる…!

「俺、…もっ…だめっ……!!」

「わ、私、も…あっ、きゃあぁぁあっ…」


*****

あいつの言った通り、きっかり3時間後にドアが開いた。
鳴上の笑い声で目を覚ました。

俺は床で寝ていて、名はいなかった。

「お前にはやっぱり「根気」も足りないみたいだな」

今度も捨て台詞を残して、鳴上はドアを閉める。

(”しつこいタイプ”ってどれくらいしつこいんだ…あいつ…)

今度問いただしてみよう。
そう思った瞬間、あいつの言葉を思い出す。

『俺の余りある伝達力で、今度こそ彼女を奪ってもいいかな?』
って…まさか鳴上も名に気があるのか…!?

まさか、まさかっ、まさか!!!

隣の部屋で俺の女をおかずに…!!!

「おい、待て!!!!話の続きだーーーー!!!!!」

****


より一層戦いへの決意が固まった俺は、どんなシャドウにも負ける気がしねぇ。
大丈夫、お前がいつも俺を守ってくれるように、
俺もお前を全力で守るから。


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