夢/うたプリ | ナノ


  いつも傍にいてほしいのに(聖川/裏)


ピンポーン…

夜の8時。
チャイムの音が訪問者を知らせる。
その機械的な音が消えると、テレビの音だけが響く。

画面に映っていたのは、
聖川真斗と黒崎蘭丸。
ふたりが一緒にテレビ出演することは珍しく、
音楽番組のミニコーナーで短い時間インタビューを受けていたようだった。

「誰だろう」

呟いて、読みかけの雑誌を閉じると立ちあがり、ドアスコープを覗きこむ。

「真斗!」

少し曇ったスコープ越しに見えたのは、先程までテレビに映っていた真斗。
特に変装をするでもなくそこに立っている彼を見て、私は急いでドアを開ける。

「せめて帽子くらいかぶってこないと…!」
「そうだな…」

闇にたたずむ彼は儚げな笑みを浮かべると頷いた。
とりあえず入ってもらい、ドアを閉める。

こういうことは日常だった。
アイドルとしてデビューした彼とは同じ学園で過ごした仲だ。
その仲は、男女の仲というよりも、むしろ「同志」のような存在だった。
悩みを打ち明け、支え合い、夢に向かって歩みを進める。
年頃の男女が、互いを異性として意識せずに対面できる。
それができる真斗を頼もしいと思っていたし、ライバルだとも感じていた。

忙しくなった今でも時々今日のように、ふらりとやってくる。
時間が作れるかわからない毎日だから、事前に連絡してくることは稀だった。
奇跡的にうまれた空き時間に、和菓子を持って現れるのだ。

彼は、ロケ先で見つけた美味しいお菓子だったり、スタジオ近くの馴染みの店のお菓子を持ってきてくれて、
私が淹れたお茶を二人で飲みながら互いに近況報告するのが楽しみの1つだった。

しかし、今日の彼は何も持っていない。
珍しいことだった。

「今日はどうしたの?」

部屋の中に招きいれようとするが、彼は玄関で立ち止まったままで動かない。
いつもと違う様子に違和感を感じて振り返ると、縋るような瞳とぶつかる。
心臓が跳ねた。

「お前……俺に言うことがあるのではないか?」
「……ん?なに?」

ひと呼吸置いて、決意したように真斗が口を開く。

「………黒崎さんと付き合うことになったのは本当か?」
「あ……」

驚いた。
もしかして、先ほどテレビで放送された現場で聞いたのだろうか?
誰にも言っていなかったから、真斗が知っているとは思わなかった。

「……本当か?」

同じ言葉が繰り返されて、私は彼にしっかりと向き合ってから、こくりと頷く。

「……そうか…」

堅く握ったこぶしが見えた。
肌の色が変わるくらい、強く、強く。

「なぜ……」
「あの…真斗が、黒崎さんのことを、自分を担当してくれている先輩だって紹介してくれた日あったでしょ?あのときに連絡先を交換して…」
「違う!!!そんなことを訊いているのではない!」

彼に似合わぬ怒号に体が震えた。
燃えるような視線が私を射抜く。

「学園時代から、ずっと…ずっとお前だけを見てきた…それなのに…それなのになぜ今になって」
「え…?」
「なぜ先輩と……俺の方がお前の良いところをたくさん…数え切れないほどたくさん知っているというのに!」
「そ、そんな…え?どういうこと…?」

頭がまわらない。
私と彼は、男女という仲を越えて、「同志」という絆で結ばれていたのではなかったのだろうか?

玄関から動かなかった彼が、靴のままあがりこみ、そこに佇んでいた私を抱きしめた。
あまりの勢いに、バランスを崩し、床に倒れ込む。
背中を強く打ちつけて、うめき声が漏れたが、彼は表情を変えずに私を見下ろしてくる。

「痛っ……まさ、と、どいて…」
「どんなに…どんなに焦がれたと思ってるんだ……あんなに近くに居たのに触れられず、どれだけ我慢したと…くっ」

私を押し倒したまま、背に回した手に力を込める。
いつも傍にいたのに、全然知らなかった彼の体温。華奢に見える体躯が堅く、男性のものであることを嫌でも意識させられる。

「ずっと想い続けた俺を置いて、お前は先輩と…?そんな…そんな…!!!」
「真斗、落ち着いて…?ねぇ…」
「お前はわかってない…お前が笑いかけるだけで心が熱くなり、そのやわらかな身体に触れたいと願い続けてきた俺の心が…想いを告げれば拒まれ、その関係が壊れるとずっと怯えてきた俺の心が…」

どうしてわかってくれなかったんだ

今にも泣きそうな表情に胸がざわつく。
独り暮らしの部屋。
押し倒されて危険な状況であるはずなのに悲しみに暮れるその美しい顔を見ていると抵抗ができなかった。

「壊れそうだから…大切にしたかったから、ずっと気持ちを抑えてきたのに…」
「ま…さと…」

綺麗な顔が近付いてきて…そっと唇同士が触れ合った。
私は無意識に目を閉じて、それを受け入れる。まるで罪を購うように。

見て見ぬふりをしていた。
「同志」なんて崇高な存在に私たちはなれなかったのだ。
真斗が私を見つめる瞳は誰よりも優しくて温かくて。
誰よりも私を支えてくれて、どんなときも傍にいてくれた。

私も彼と恋人関係になることによって、
この絆が失われるのが怖かった。
だから、見て見ぬふりをした。

優しい口づけが終わる。唇が離れ、鼻先が触れ合うほどの距離で見つめ合う。
彼の絹のような髪が頬に触れる。
もう、言わずにはいられなかった。

「ごめんね…」

それを聞いた真斗の瞳が大きくなり、まるで炎を宿したかのように燃え上がる。
そして再び私の唇を奪うと、今度は口の中を掻きまわすように、舌を絡めてきた。

「んっ…うぅ……っ…」

両腕は彼の腕に囲われ、動かせない。
足をばたつかせてみても、彼は何事もないかのように、キスに夢中になっていた。
なおも、真斗の舌は私の口の中を蹂躙し、まるで食べつくしてしまうかのように動き回る。
苦しくて涙が溢れた。

彼はキスを続けたまま、今度は片手で私のスカートを捲りあげた。

「んぅっ…!?」

唇が塞がれたままで声が出せない。逃れようと顔を背けても執拗に追ってくる。
下着の中に指を入れられると、腰が震えた。

すっかり湿っていたそこはすんなりと彼の指を受け入れる。

真斗は小さく笑ったように見えた。しかし、相変わらず獣のような口づけを与えてくる。
すっかり膨らんだ小さな粒に指を添えると、それをゆっくりと動かしだす。

酸素も十分に与えられない中、電流が走るような快感が背中を奔る。
びくりと震わせた身体に真斗は気を良くしたのか、その動きを速める。
ようやく唇が解放されると、開きっぱなしの私の口からはねだるような声しか出なかった。

「あっ、んっ…んんっ、ひぅ…ああっ…あ、や、だ…ああっ」
「お前のその声…何度想像したことか…」
「ま、と…まさ…と、や、やめ…きゃぁっ…」
「っ…いやらしい目つきをしているな…気持ちいいのだろう?」
「や…やら…んっ……あっあっ、ああ」
「可愛い声をもっと聞かせろ」
「やだ、だめっ、やっ、あっ、んっ、あ、あ、」

いやいやするように首を振ると、真斗は笑ったようだった。
指に強く力をこめて、更に刺激を与えてくる。

「イきそうなのか?」
「やっ、だめ!だめぇえええっ…んっ、あ、あ、」

漏れる自分のはしたない声に羞恥心が煽られる。抑えることができない。
なんて恥ずかしい声を出しているのだろう。

「イけ…!ほら…恥ずかしいところ見ててやるから」
「みないでぇ、やだっ…あんっ、あ、あ、あ、ひぁああ」

目の前がちかちかして、身体がしなり、どろりと体液が溢れるのを感じた。
乱れた息を整えている間ずっと、真斗が愛おしそうな表情で私を見ていた。

「やはりお前は俺の傍にいるべきだ」
「っ…はぁ、はぁ…ま、さ…と…?はぁ、はぁ…」

ぬくもり宿した大きな手に優しく髪をなでられ、私は意識を手放した。


130316

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