夢/うたプリ | ナノ


  純白のきみ/後篇



会場を出て、そのまま帰るのかと思いきや、名を裏口へといざなう。
「カミュ…?」
不安げに名を呼ぶも彼の表情は変わらない。

カードキーを取り出して裏口の扉を開け、すぐ隣に設置されているエレベーターへと乗り込む。

「今日はここへ泊まる」
「えっ、そんなの聞いてないよ」
「気が変わったからだ。仕事のスケジュールに支障はきたさないよう手配した。お前も明日は休みだと言っていたな」
「急に、どうして…?」
「どこかの誰かがぼやぼやしてチャラチャラした男に声なんかかけられるからじゃないか?」
「なっ、それ、どういうこと……!?」

名は腰にまわされたカミュの腕を払おうとしたが、まるで自分のものであると譲らないかのような強い力で彼の方へと抱き寄せられている為、身動きがとれない。

彼女はあきらめて怒りをしずめることに専念した。

エレベーターを降りてある部屋の前で立ち止まると、再びカードキーを取り出して鍵を開ける。

ドアを開けた瞬間、カミュは名をすぐさま中へと押し込む。
彼女はよろめき倒れかかってしまう。
しかしドアの閉まる音がした刹那、彼女の体は後ろから抱きすくめられ、床へ身体をぶつけることはなかった。

「やっ……!離して!」
後ろから抱きしめられた身体を捩って名が半ば自棄になって叫ぶ。
しかしカミュの腕はゆるまなかった。

「怒っているのか?」
意外だな、とでも言いたげな声色が彼女の耳をくすぐった。

「当たり前でしょ?!勝手なことして!帰りたい。私は帰るから、カミュはひとりで泊まったらいいじゃない!」
「なぜ怒っている」
「浮かれてた自分に怒ってるの。こんな綺麗なドレス着て、公の場でカミュの隣にいられるって考えたら舞い上がって……でもそんなのあなたにとってどうでもいいことなのね」

無性に悲しくなった。
涙が瞳を覆うと視界が歪んできて、抵抗していた力もなくなってきた。

「舞い上がってたのは俺も同じだ」
「……え?」
「綺麗に着飾った自分の恋人を周囲に見せびらかしたい気持ちでいっぱいだった」
名を抱きしめる腕により力がこもり、彼の体温が上がった気がした。

「でも、やっぱり連れてくるんじゃなかった」
「…………」
「会場中の男たちがお前を見ていた。純白のドレスから伸びる腕、光沢の入ったストッキングに包まれた足、結いあげられた髪からのぞくうなじ…お前の体を、顔を、いやらしい目つきで、舐めるように見ている奴らばかりだった」
「っ……う、うそ……」
「鈍感なお前は気付いてないだろうとは思っていたがな」
“うなじ”と言った瞬間、名のうなじにカミュは唇を押しつけた。
名の身体が小さく震える。

「しまいにはあんなチャラチャラした男に声を掛けられて……無防備すぎるんだお前は」
「それはカミュが…!」
「いっそのこと首輪をつけて鎖で繋いで、お前は俺のものだと周囲にわからせてやりたかった」
「私は犬じゃない!」
「ふんっ……それはどうかな」
カミュはそう言うと彼女を抱きしめていた腕に力を込め、その身体を持ち上げる。

「ええ!?」
突然、足が床を離れたものだから、名は驚いて足をばたつかせた。

しかしカミュはそれをものともせずに、彼女を抱えあげたまま部屋の奥にあるベッドへと移動する。

ベッドへと放り投げられ、うつぶせに倒れ込んだ名が振り返った瞬間、カミュがその身体を押し倒す。
「やっ」
「純白のドレスを選んだのは、お前の身体がこんなにもいやらしく男を誘うものだということを隠すためだ」
卑猥な言葉を口にしながら、ドレスの上から名の胸に手をのばす。
「ぁ…」
触られていない方の胸の飾りが、ドレスの生地を持ち上げ、その存在を主張始めるのを見て、カミュはくつくつと笑った。
「触ってほしくてたまらないみたいだな」
「ちがっ…」
「嘘をつけ」
「ひゃぁ…んっ」
カミュはドレスの生地から透けたその形を確かめるように、舌でつついてから、甘く噛んでやる。
名の身体が大きく跳ねる。それを見て彼は再び笑った。

彼女のドレスの左側についたファスナーを下ろすと胸元を広げ、下着をつけていないそこにしゃぶりついた。
「んっ、あ、ん……!」
ちゅぱちゅぱとわざと音を立てながら、カミュは彼女の柔らかな胸を味わう。

名は羞恥心に煽られ、彼の頭をそこからどかそうとするものの、指に絡む髪が余計カミュという存在を彼女に認識させ、まるで誘っているような構図になってしまっていた。

長い髪がさらさらと彼女の肌を撫でる。
「カミュ、ふぁ……、あ、んっ……!」
「なんだ?」
彼女の胸を舌と歯で執拗に攻めながら、今度は手探りでスカートを捲りあげる。

彼女の足を締めつけていたストッキングを下着と一緒にずりさげると、そこが濡れていることに気付いた。
「なんだもう濡れてるのか。はしたないな」
「それは、んっ…」
ストッキングと下着を彼女の足首部分までずり下げると、カミュはやっと胸を攻めるのをやめて、それらを名の足首から抜き去って放り投げた。

そして彼女の体をあっという間に反転させ、うつぶせにする。
「はぁ、はぁ…」
息を乱した名は朦朧とした意識の中で、ベッドのシーツを握りしめる。
背後で衣擦れの音がしたのは、カミュが服を脱いでいるのだなと思った。

あまりにも強い刺激に、彼から逃れようとシーツを掴んで身を起こそうとするものの、すぐに腰を掴まれ元の場所に引きずり戻される。

「やっ…」

足を開かされ、腰を掴まれ尻を高く上げさせられると、
秘所が空気にさらされてひんやりとした。

「逃げるなんて考えないことだ。これは仕置きだからな」
ひんやりと空気が撫でていたそこに、ぬるりとした感触を覚え、名は声を詰まらせた。
カミュが舌を入れ、そこを弄っている。
「んっ……あっ、あん…ひぃ……カミュ、いや…あ…」
「ふ…いやじゃないだろう?まるで……はぁ、ん……俺を誘っている…うん……ん、みたいに熱い」
じゅるじゅると水音が響き渡り、名は耳を覆いたくなるくらいだった。

しかし快楽を我慢する為、シーツをぎゅっと握りしめることしかできない。

しわひとつなかったシーツがいつの間にかぐちゃぐちゃになるくらい、彼女はそこを強く握りしめていた。

「あっ、だめ…んっ…いっちゃ…」
「まだだ」
意識を手放そうとした瞬間、舌が引き抜かれ、名は息を止めた。

イけなかった熱の行き場を探すかのように大きく息を吐くが、身体中を巡る熱は一向に収まらない。
シーツに顔を埋めて、息を整える。
それもつかの間、後ろから両腕を掴まれ引き寄せられる。上半身が少し浮いた状態になり、安定しない姿勢に不安を覚え、後ろのカミュを振り返ろうとした瞬間。

熟れきっていた秘所に舌とは違うものが一気に埋め込まれる。
「ああああああっ」
名は甲高い声を上げる。
目の前に火花が散ったかのようにちかちかと瞼の奥が点滅する。

「イったか?……入れただけでイくとは淫らな女だ」
罵る言葉も、彼女を傷つけたいわけではない。
彼女の自尊心を刺激し、全てを捨てて自分を求めるよう仕向ける、カミュなりの愛し方だった。

名の腕を引っ張ると、繋がった部分がぐっと深くなる。
「んぅっ」
「はぁ……、あっ……っ!」

名の背中に落ちる艶やかなため息。
カミュの感じている声が、たまらなく好きだった。

「動くぞ」
「……んっ……”」
一言告げると、カミュはゆっくりと、しかし徐々に激しく腰を動かす。
肌と肌のぶつかる音が、広い部屋にこだまする。

「はぁ、はぁ…くっ…はぁ…」
「あっ、あっ…ん…あっ」
短く刻まれる名の恍惚の声。
何にも考えられなくなるくらい、攻め合い求めあうふたつの欲望。

「はぁ、はぁ…犬みたいに、ただ俺を求めればいい、はぁ……あ…他の男なんて見るな…」
「はぁ、ん、あっ…私は、あっ…カミュしかいないの…にっ…」
「名っ……!」
彼女の言葉で火がついたカミュはより激しく、腫れた自身で彼女を汚すように、堕とすように動きを速める。
追い詰められる彼女の理性は徐々に限界を迎えつつあった。

「純白の、ドレスを纏ったお前は、きれいで…はぁ…俺がこうして…ぐちゃぐちゃに汚さないと…はぁ…誰かにとられてしまうんじゃないか、って……はぁ、くっ…」
「カミュ、あっ、カミュっ…んっ…あっ…!」
「もっと俺の、色に…あっ…染まって……乱れて、くっ…壊れてしまえばいいっ、んっ……俺だけを、見て、はぁ……いろ…!」
「あっ、あっ、あ、あ、あっ、やっ、」
「くっ…うっ…!」
名の頭が真っ白になった瞬間、カミュも己の欲望を吐き出した。



名が目覚めるとまだ明け方の4時だった。
起き上がろうと思ったが、身体にまわされた2本の腕をほどけそうになかったのであきらめる。
「ん…」
長いまつげが震え、名をとらえる。
「名……起きてたのか?」
「ううん、いま起きたところ」
「そうか…まだ早い。…休め」
「ドレス……汚しちゃったね」
「心配するな…新しい物を手配してある。朝までに届くだろう」
「……気に入ってたのにな」
「ならばウエディングドレスは同じ者に仕立てさせよう」
「……え?」
「……あ」
「えっ、いまなんて……」
「寝言だ。忘れろ」
「ねえっ、いまなんて…」
「……プロポーズくらい、もっとちゃんとやらせろ」
「……ふふっ、わかった」
名は微笑んで、隣にいる彼の胸に顔を埋める。
裸のそこはまだ熱くて。

いまの彼自身の発言で心なしか鼓動が速まっている気もした。

「カミュ、可愛い」
「……可愛いのはお前だ」
「!!」
「だから、心配になるのだ。……おやすみ」
それだけ言うと、規則的な寝息が聞こえてくる。


昨晩、彼女をここに連れてきたときとは全く別人のような穏やかな表情。

名は微笑んで彼に寄り添うと、再び目を閉じた。


*END*

2013.3.9



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