Bloody Moon(蘭丸)
-Side 蘭丸-
”どんな人と恋したとか、気にすればキリがないよ”
お前はそう言って微笑んだ。
まるで小説に出てくるようなクールな言葉。
その言葉だけを見れば、恋愛に慣れた大人の女だと思うだろう。
でも、俺は知ってる。
その言葉はお前が必死に自分自身に言い聞かせていることを。
つまり、
”俺がどんな人と恋したとか、気にすればキリがない”
そういうことだ。
誰の耳元で愛を囁いて、
誰の唇に吐息降らせて、
誰の身体に赤いシルシつけて、
誰と熱を分け合ったのか。
あいつが訊いてくることはないが、
それなりに気にしていることには気付いていた。
どうしたら信じて貰えるんだろう。
今の俺にはお前以外ないということを。
お前は先程の台詞を小さく繰り返して、
窓へと近づく。
眼下に広がる幾千の光。
家の灯かりの数は、生活の数。
一方、俺たちがいるこの場所は真っ暗。
灯かりなんていらないだろう。
眩し過ぎるくらいの、赤い月のせい。
漆黒の闇の中、燦然と輝くその姿は、
ひとりで見たら不気味に見えるかもしれないが、
お前と見れば最高にエキゾチックでたまらなくて。
”特別”って感じだ。
その妖しげな光に包まれたお前の背中に欲情しちまったから、
静かに近づいて、背中から不意に抱きすくめると、小さく漏れる吐息。
「お前は?」
「……?」
「男がいたのか?」
「…………」
答えない。
魅力的な女だ。
男がいなかったとは考えにくいが、魅力的すぎて手が出せなかった男をひとり、知っている。
―――俺だ。
窓の外には赤い月。
神様がくれた夜だから。
淀みない気持ちを伝よう。
だから代わりに、お前の全てをくれないか。
闇に浮かび上がる白い首筋が眩しくて、舌を這わせると、息を呑む音がした。
「そいつのキスなんて忘れさせてやる」
瞼の裏に浮かぶ、姿のない嫉妬の対象をぬぐうかのように、夢中でそこを貪る。
抱きしめていた手で、柔らかな膨らみを探り当て、確かめるように掴むと、可愛い声が聞こえる。
「…やわらけぇ」
「蘭…丸さんっ…」
「……全部、俺に任せろ…」
「んっ…」
のけぞらせた首元をまた月光が照らしだす。
あまりにも美味しそうで喉が鳴った。
抱きしめていた腕を少し緩めて、身体ごとこっちを向かせる。
赤い月がお前の後ろで妖しく笑っているように見えた。
「出来過ぎなシチュエーションだろ」
「?」
呟いて、
今度は既に甘く濡れた唇に、自分のそれを重ねた。
130319
Theme BGM / 「赤い月」
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