ドア越しの欲望(翔&那)
「翔っ…ちゃんっ…ぁっ……あ…」
あいつの声がする。
甘くてエロくて脳が溶けそう。
でもその声を出させてるのは、俺じゃなくて。
ギシギシと揺れるベッドの音とあいつの声の狭間に響くもう1つの声。
不協和音であれと願うのに、
意外にも馴染んでいる気がして嫌気が差す。
俺は両手で顔を覆って、見ないふり。
「しょ、ちゃ……んっ、やぁっ!!」
「名っ…だめ…僕の名前を呼んで?っ……ね?…はっ…」
「やだっ、こんなの……んっ…」
断続的に聞こえていたあいつの声が途切れる。
くぐもった声がするのは、那月があいつの口を塞いだからか?
それともあいつがベッドに顔を埋めたからか?
ここからじゃ見えない。
見たくない。
……見たくない?
なら、さっさとここから消えればいい。
それができないのは、
あいつの声を聞いていたいから。
きっと那月は、俺がここにいるのを知っている。
でも何も言わない。
そう、俺は、少し前から那月がこういうことしているのを知っている。
でも何も言わない。
怖いから?
……何が?
那月が?
それとも名を完全に奪われることが?
「助けてっ…!助けて翔ちゃんっ……やだっ!離して!!!」
「いたっ……ふふ…悪い子。悪いお手々はこうしちゃう」
「あっ!!」
「ねぇ、僕を見て?ね?今だけは僕を感じてよ…」
那月の声も泣きそうで、ぐっと心臓を掴まれる感覚。
程なくしてあいつのすすり泣きが聞こえ、またベッドの軋む音がし始まる。
その合間に漏れる熟れた声に、身体が熱くなる。
俺は、どうすればいい?
「ねぇ…こういうこと、翔ちゃんとはしないの?…名ちゃんの身体がこんなに甘いことを、翔ちゃんは知らないの?」
「っ……ふぁ…ぁ…」
「あなたのここが、もっともっと、って僕を誘ってるよ?」
「そんな、ちがっ…」
「うそつき…」
「あっ……んっ、ぁ…」
………。
俺はあいつとしたことがない。
したいと思ったことは勿論ある。
付き合い始めたばっかだし、そういうことはもう少し先だと思ってた。
……あいつを、大切にしたかったから。
でも那月は違った。
過度なスキンシップから暴走した熱を抑えきれなかった那月は、
拒めないあいつを無理矢理……。
それからたびたびこういうことがあって、
もうどうしたらいいかわからなかった。
聞いたことないあいつの声を聞いて、
もう女なんだなと認識したら、どう誘ったらいいかわからなかった。
身体が大きくて、
スキンシップに慣れてる那月以上にあいつを気持ち良くする自信がなかった。
「ねぇ、どうする?…翔ちゃんが、そのドアの向こうにいたとしたら?」
「っ!?」
!?
「例えば、だよ。僕の動きに合わせて、腰を揺らすあなたの姿を見たらどう思うかな?」
「や…やだ……言わないで……翔ちゃんには…知られたくない…の…」
「じゃあお願い。今だけは僕のことを見て。名前を呼んで。翔ちゃんを忘れて?」
「…………」
「秘密にしてあげるから……ね?」
「だって……那月くんが無理矢理……」
「拒否できなかったのは名ちゃんですよ?」
「……………」
「ふふ。いい子。泣かないで?」
「ふっ……ぁ……」
「でも、泣き顔も超可愛いです。ふふっ、だぁいすきっ」
「……っ……」
押し殺した喘ぎ声。
楽しそうな那月の声。
こんなこと絶対よくないってわかってるんだ。
わかってるのに…行き場のない欲望を吐きだすのに、
俺は手を伸ばす。触れたそこはどうしようもなく熱い。
ドア越しに聞こえる音に溺れて、
今日も自分を慰めた。
20131003