ver. 神宮寺レン
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「用事があるからもう行くね。じゃあ、また連絡するから」
ついさっきまで、
ここの彼女がいたのに。
最後の言葉を頭で反芻する。
「…………」
響く秒針の音。
日付が変わったばかりだった。
「…………」
彼女の言葉を繰り返すたびにその記憶が褪せていくようで怖くなってやめた。
まだ熱を持っているベッドのシーツをぎゅっと握りしめる。
生まれたシルクの波。
少し前までその波の中、彼女が俺にしがみついていたのに。
背中に立てられた爪の跡が、ずきりと痛んだ気がした。
場所なんて鮮明に覚えてる。
彼女が唇でなぞってくれた場所も、
優しく撫でてくれた場所も。
俺だって覚えてる。
彼女の肌の柔らかさも、白さも、
囁いた言葉も、願いも。
ーここに触れて?
ーもう少しだけ、我慢してごらん?
ーそう、もう少し開いて。
快楽を分け合う為の願いなら、いくらだって聴き入れてくれる。
でも、
俺だけを好きになって欲しい。
俺だけのものでいて欲しい。
そんな願いを口にすることは、
彼女がさせなかった。
……あっけなく、彼女が俺の元を去ってしまうのが怖かった。
いまあの男に電話してすぐ出るならば、
彼女と一緒にいないと確認できる。
脱力しきった身体をなんとか動かし、
ケータイに手を伸ばす。
几帳面なあいつは、
いつもならすぐに電話に出るから。
こんな時間だって…
かければすぐに出るさ。
震える手で画面を見つめる。
秒針の音はいつの間にか雨の音にかき消され、
部屋は降りしきるその音と、重い闇に包まれていた。
ー俺が触れた身体はいま誰に抱かれてるの?
ー俺に触れた唇をいま誰に押し付けてるの?
疑問の言葉だけが、ふつふつと心にわき上がる。
ー用事ってなに?こんな時間から?
ーどうして俺からの電話にはでてくれない?
確かめれば、ラクになるのに、
確かめたら、絶望する気がして。
それは確信に近く。
「……っ!!」
ベッドへとケータイを放り投げる。
雨はどんどん強くなっていく…
俺の心の闇を抉るように、強く、強く。
BGM / 欲望のレイン
2014.6.18
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