ナマモノ | ナノ



59
しおりを挟む


次に、目が覚めたのは、真っ白な空間だった。
天井が白くて、カーテンがあって、布団も白い。
カーテンは少し暖かみがある色だけれど、白には変わりない。
点滴がぽたり、ぽたりと、落ちている。
ここは、病院?

ピンポンダッシュは、自分の家でやりました

手元にあったそれを押す。
数十秒後、驚いたような、信じられないものを見ているような顔で白衣の天使と医者が現れた。
よく回復しましたねとか、全治9か月ですとか、どこか体調に異常は?とか。
そのどれもに答えようとして、どれにも答えられなかった。
声が、出ないのだ。
一ヶ月寝ていたからだろう、と医者は言った。
つまり、あの数日間から、今日は既に1ヶ月経った、ある日ということだ。
医者たちは、では、ご家族に連絡しておきます、と最後に告げて、いなくなった。
一ヶ月経ったのに。
一ヶ月も前のことなのに、未だに恐怖が無くなっていないのは何故なのだろうか。
彼らに会っていないからなのか、それとも、ただただ、臆病だからなのか。
わからない、だが、辛い。
眠気が襲ってこないのは、さっきまで一ヶ月も寝ていたからじゃない。
寝てはいけないのではないかと思うから。
寝てしまっては、対処ができないと思ってしまうから。
どこか落ち着かないのは、此処がなれない病院だからじゃない。
刀が、銃がない。
身を守るための道具が、此処には何一つないのだ。
怖い。
私は、本当に、人間なのか。
アンブレラは本当に消えたのか。
自爆したアレは、本当に無くなったのか。
杞憂かもしれない、そうじゃないかもしれない。
…恐い。
ぎゅう、と自身を抱きしめる。
私の体は、こんなに、細かっただろうか。
手足を見れば、筋力が落ちてしまったのだろう、細いそれ。
鏡を見るのがいやで、でも、見なければ始まらないとも思ってしまう訳で。
意を決して、見てみれば、少し痩けた、私がいる。
目の色も黒いまま、髪の色も真っ白なまま。
少しだけ安心するが、近くで物音がしただけでびくついてしまう。
恐い、怖い、こわい。
だれか、助けて。
涙が、溢れた。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -