旦那 | ナノ




しおりを挟む


「試合前の…足をくじいていたのか」
「知り合いか?」
「いや、言っただろ。海南のマネージャーとぶつかったって」

なるほどな、と頷いた目の前の青年は作ったような顔でニッコリ笑って、私に手を差し出した。
3度目のお礼を告げてその手を取ると、軽い掛け声とともに肩を組んだ状態になる。
肩を貸してくれる、ということなのだろうか?
それはありがたいけれど、正直なところ身長差辛いんですが。
私のそんな微妙な顔に気がついたのか、花形と呼ばれた私がぶつかった青年が眉を寄せて手を伸ばす。
ぐい、と軽々と…と言っていいのだろうか、持ち上げられた私はお姫様抱っことも言えるだろうその体勢になっていた。
視界が、高い…!

「なんだ、俺への当てつけか」
「…そう言うつもりはない」

はあ、とため息をついてはいるものの、下ろしてくれそうにない。

「あの、」
「俺にぶつかった時だろう?なら、俺が連れていく」

責任感強いんですね、なんてどっか遠いところで思いながら、そのままの体勢でみんなのところへと連れて行かれた。
私に気がついた瞬間の、氷雨ちゃんどうしたの?!から、大丈夫か?の心配コンボは結構きつかった。
ごめんなさい、大丈夫です。と笑えば、花形さんがそっと私を降ろしてくれた。
ありがとうございます、と頭をさげると、元はと言えば俺のせいだろう?と眉を寄せて返される。
そんなこと、と言葉を続けようとしたのだが、生憎とテーピングしてくれた方の人が遮る。

「氷雨って言うのか、お前」
「え、ええ、まあ」
「ふぅん?」

楽しそうに私を見つめるその顔に愉快と書かれているような気がしてならない。
ひくり、と引きつりそうな頬を押さえきって、視線だけ伺っていれば、牧さんの手が伸びてくる。

「藤真、俺の後輩に何か?」
「わ、っと」

ぐい、と引っ張られると、足首をかばっていることもあって転びそうになる。
牧さんに頭突きをするような体勢になったのだが、特にお咎めはないらしい。
というか、むしろそのまま庇われるように抱き寄せられてる…?抱きしめられてる?のだが、一体どういった理由なのか。

「あの…?」
「黙ってろ」
「酷いな、俺とは話させないって?」

やめてこの状態で争わないでこわい!
なんて私の感情を受け止めてくれるわけもなく、二人は暫く牽制しあっていた。
閉会式の放送がなかったら、きっとまだ暫くにらみ合っていたのだろう、レイナ先輩にあんたも大概ねぇとしみじみ呟かれたのが辛い。


それから、会場で花形さんを見かけてお礼を言おうと近寄ると藤真さんに見つかり確保され。
気がついた牧さんが藤真さんといつもの膠着状態に陥って、放送とか時間とかでやっと解放されることが何回あったことか。
練習試合でさえその状態なのだから、私の花形さんと話したいという欲求が溜まっていくのも仕方のないことだろう。
2年生になって、花形さんの弟である光くんが仲介してくれるまで、その願いは叶わないなんて、思いもしなかったけれど。

[前へ]

[ back to menu ][back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -