正義 | ナノ



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「マスク、でいいぜ?」

にやり、と悪どい顔で笑う。
“私”と同じように呼びたくない、ということまでバレているらしい。
あだ名としてであれば、なんとかなるだろうか?

「…わかった、マスク」
「それでいい」
「お前はまたそうやって一人で抜け駆けするのか?」

山羊座の声が響く。
硬質な声だが、その表情は柔らかくて、予想外に近い位置にいた。
全てを切り裂くその腕を伸ばして、手を重ねられる。

「“シュラ”…だと、どうしてもダメだな…」

思わず眉を寄せると、重なった手はそのままに、反対の手が緩やかに目元を撫ぜる。
その顔を見れば、少しだけ細められた目がまっすぐにわたしを見ている。

「そんな泣きそうな顔をしなくていい。…そうだな、氷雨が俺だとわかるならどんな呼び方でもいい」
「なら…」

言いながら考えを巡らせる。
山羊座のことがわかる、名前以外の…ああ、どうしたものか。
名前をローマ字変換してからアナグラム的に入れ替えてみるか?
そうするとマシなのはシャルくらいだろうか…シャルってキャラじゃないだろ。
となると…エクスカリバーの印象が強いから、そこから抜き出すか?
それとも、阿修羅からとって、アッシュだとか、アシュラだとかそういうものにしたほうがいいのだろうか。

「少しだけ、時間をもらってもいいか?」
「時間?」
「君が君であると、わたしが知るためにいい名前を探したいから」

告げれば、彼はああ、と柔らかく頷いた。
ありがとう、とその顔を見て少しだけ無防備に笑ってみせる。
最後に、魚座のほうへと顔を向けた。

「それで…私に何をお願いしてくれるんだい?」

楽しそうに含み笑いをしてみせるその美しい顔にああ、と思い出す。
そもそも、甘やかされるから、甘えようと思ったのだった。
とはいえ、わたしも私だ…そういったことを自分から行動するのはあまり得意ではない。
だが、彼らには与えられるだけ同じものを返したい、とそう思う。

「映画を見ている間、隣にいてもらってもいいかな…ロディー?」
「…もちろん」

嬉しそうに破顔する彼は、ぴたり、と横に寄り添ってくれた。
うん、パーソナルスペースの違いなめてたわ。
これでも一応他の国にもいたことはあったけど、聖域はそうか、閉鎖空間だと距離感はまた違ってもおかしくないな。
まあいいか、と思っていれば、反対隣と後ろからも圧を感じた。
…あっはい。

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