正義 | ナノ



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「逃げないで、頑張ったな」

一瞬、いや、一瞬ではない。
わたしはその言葉の理解を拒否した。
わたしの根本をほとんど理解したと考えていいのだろうが、それを見透かしたように言われるのは非常に腹に据えかねる。
唇から笑いが零れ落ちた。
頭上の手首を掴んで、外側に落とすように引きながら椅子から立ち上がる。
がたん、とわたしの座っていた椅子が大きく揺れる。
空いている手を射手座の肩に置いて、簡単にキスできる距離まで一気に近づく。

「だったら、慰めてくれんの?」

手首から掌へと指を滑らせて、指を絡ませる。
その太ももに軽く乗り上がって、肩に置いた手を滑らせながら首へと回す。
無言で固まっている射手座は喉を鳴らした。
首へと回した手を少しだけ動かして、喉仏を指でなぞり、そのまま射手座の顎へと指を添える。
そのまま顔を近づけ、軌道をずらす。
唇の横を通り過ぎ、耳へと唇を寄せた。

「不用意に女に踏み込むとこうなる…二度としないことだ」

耳元で低く告げてから、その耳たぶに噛み付く。
わたしにされるがまま固まっていた射手座から離れ、音を立てただけで倒れていなかった先程の椅子に座りなおすか悩む。
が、いいか、とそのまま踵を返して外に出る。
一つ上がれば磨羯宮だ、申し訳ないが、山羊座の所に行けばなんとかなるだろう。
今日の夕食会の迎えは山羊座だから、きっとわたしの小宇宙でわたしを探してくれるはずだ。
他力本願だが仕方ない。
そう決めて、サクサクと出口へ向かう。
わたしは“私”と違って懇切丁寧に説明してやるタイプではないのだ。
が、扉に手をかけたあたりで後ろから射手座の声がかけられる。

「…慰める、と言ったら?」
「あいにくと、もう間に合ってる」

踵だけでくるりと体ごと反転して、笑いながら肩をすくめる。
以前のわたしならわからないが、今のわたしに慰めは必要ない。

「私には…彼らがいるもので」
「そこまで星矢たちが大切かい?」
「愚問だね」

彼らが大切でないのであれば、私にとって大切なものなどありはしない。
ふふ、とわたしに似合わないだろう少女のような無垢な笑顔を向けて、サガ好みのフレアスカートをひらりと翻す。
黙り込んでいる獅子座はそのうち答えにたどり着くだろう。
外に出ればまだ昼少し過ぎくらいで、眩しいほどの太陽の光が目に刺さる。
人馬宮のあたりは、聖戦で戦闘がなかったからか、他に比べて歩きやすい。
山羊座がちゃぁんと迎えに来てくれたら、嬉しいんだけど…期待するのはやめておこう。
久しぶりに運動することになるなぁと、聳え立つような階段を見上げる。
最初の一歩を踏み出す前、覚悟を決めるために一度大きく深呼吸をした。

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