正義 | ナノ


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黒髪、ではない。
どのタイミングでサガさんに戻ったのかはわからないが、黒になりきる前の状態だった。

「大丈夫です、サガさん、私は此処にいますよ」
「…違う、んだ。氷雨」
「え?」
「氷雨まで、居なくなってしまったら、私は…」

サガさんがそう告げたかと思えば、私にかかる体重が増える。
倒れる、とサガさんが頭を打たないようにぎゅう、と抱きしめた。
痛みを覚悟して目をつぶれば、私の背中を誰かが抑えてくれている。
ふ、と目を開けて視線を上げれば、そこにいたのはカノンさんで。

「氷雨、大丈夫か?」
「カノンさん…サガさん、気を失っていらっしゃるようなのですが」
「…マジか?」
「マジです、大マジです」

カノンさんがサガさんを私から離そうとした…のだが。

「………サガ」

沈黙の末のカノンさんの呆れたような声。
私のシャツをぎゅうと握って、堅く拳を作ったままのサガさんにどうすれば良いのか、と眉を下げる。
うーん…と考えて、まだ時間もあるし、と一人頷く。

「カノンさん、サガさんを仮眠室に運んでもらってもいいですか?」
「わかった」
「ディーテ、申し訳ないのですが、私の書類の入ったファイル…猫さんのやつ取ってもらってもいいですか?」
「これだね、どうぞ」

私の机から該当のファイルと筆記用具も取ってくれたディーテさんにありがとうございますと頭を下げて。
それからサガさんとカノンさんと仮眠室で仕事をした。
ベッドに座ってサガさんを膝枕しながら書類に向かっていれば、どこか不満そうなカノンさんがこちらを見てきている。
とはいえ、膝枕はすでにサガさんでいっぱいな訳で…というか仮眠室にあるシングルベッドはすでにサガさんでいっぱいいっぱいだ。
私の動きもほとんど制限されている。
…この状態で一体どう甘やかせと?

「…そんな困った表情をするな、左手だけ、貸してくれ」
「わかりました」

表情を表に出していたつもりはないのだが…気が緩んでいるのだろうか。
なんて思いながら、左手を差し出した。
するり、と指が絡められて繋がれた手にびっくりして、思わず自身の手を引き寄せた。

「だめか?」

子供か…!と言いたいところなのだが、この間遠回しに素直に甘えろボケが(意訳)と伝えた私が拒否するのはアリなのか?
素直に言えなんて告げたのはその場の勢いだと勘違いされかねないのではないか。
もしくは、その場をなんとかするためだけに言った言葉のように説得力なんて皆無の響きを作り上げてしまうかもしれない。

「…………今回だけですよ」

そう言って繋がれた手に、膝…太ももに頭を置いて横たわる男。
そんな状態で仕事をしていたのをディーテに目撃されて、見逃されるはずもなかった。
…知ってた。
知ってたよ、そうだよね、知ってる、しかもつい昨日謝ったばっかりだもんね。
なんて現実逃避を始めたところで冒頭に戻る訳だ。

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