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にっこり、笑顔でサガさんの席に座っている双子の弟を見る。
驚いたように目を見開いて、恥ずかしそうに片手で口元を隠そうとする成人男性(三十路)。
カノンさんのフリをして座っている双子の兄は耳まで赤く染めて俯いている。
アイオロスさんとリア、ミロさんが不思議そうにしていた。
…多分、皆さんが気がつかなくて、私が気がつくってことは、小宇宙は完璧にお互いに似せられるんだろう。
小宇宙で外に室内にいるかいないか判断できるということは、その小宇宙が誰のものかも判断できるのだ。
ここで働くことになったときに、カノンさんに双子はそもそも似ているっていう話を聞いたし。
仮眠室に向かって、紅茶を3人分淹れる。
終わったら他の3人分も淹れておこう。
サガさんとカノンさんの分にはクッキーでもつけておけば、差別化が図れるよね。
何て思っていたら、コンコン、と仮眠室がノックされた。
誰だろう?と思いながら扉を開ければ、カノンさんのフリをしたサガさんと、サガさんのフリをしたカノンさんだった。
「…なんでわかった?」
服装がサガさんなのに、口調がカノンさんだと面白い。
「私は小宇宙がわからないですから」
「…つまり?」
「外見です。あとは、雰囲気でしょうか?」
カノンさんっぽく振る舞うサガさんも面白かったけれど、やっぱりサガさんはサガさんがいいな。
小さく笑いながら、二人がソファーに座るのを見てその前に紅茶を置く。
自分の分の紅茶を用意してから、執務室の3人分を淹れて、執務室に一回出る。
それぞれの机に置いて、もう一度仮眠室の扉に手をかけた。
と、後ろから声をかけられる。
「氷雨」
この部屋で私をこう呼ぶのはリアだけだ。
一体どうしたのだろうか、と振り返る。
と、まっすぐとこちらを見ていたリアが少しだけ視線を泳がせて、それからまっすぐ視線を戻した。
「…今抱えていることが解決したら、相談に乗ってほしいことがある」
「わかりました。もちろん構いませんよ」
頷いて返したが、アイオロスさんからの視線が痛い。
くわっと見開いた目も怖い。
アイオロスさんから逃げるように、仮眠室に入る。
執務室から、ミロさんの悲鳴が聞こえた気がした…きっと気のせいに違いない。
…あの兄弟もなかなかに複雑よね。
「おかえり、氷雨」
「…ただいま戻りました」
にこり、柔らかな笑みを浮かべるサガさん、服装がカノンさんのせいで、すごく面白いです。
ゆっくりと椅子に座って、ちらりと二人の方へ視線を向ける。
ぱっと見は本当にわからない。
二人をじっと見つめて、ふと首をかしげる。
どうして、カノンさんのフリをしているサガさんに感じたのは“サガさん”で、サガさんのフリをしているカノンさんに感じたのが“彼”だったのだろうか?
そう考えると、カノンさんはサガさんよりも、彼と似ている、ということになるのでは…?
「氷雨?どうした?」
「…いえ。ところで、今日はどうして入れ替わっていたんですか?」
問いかければ、カノンさんがサガさんを見つめる。
サガさんは苦笑して、首を左右に振った。
カノンさんは目を伏せて、排他的な雰囲気を見せて、笑う。