ひとり | ナノ



別れの日


私の手に自分が使っていた髪ゴムを通したセフィロス。
泣きそうな顔をしながら、ぎゅう、と私の手を握った。
切ない程に寄せられた眉をどうにかしたいと思うが、どうにもできないこともわかっていた。
それでも、彼なら、大丈夫だという想いもある。
セフィロスなら、何があってもきっと、乗り越えられる。
悲しそうな表情を見ていられなくて、目を伏せた。

別れの日

疲れていたのか、気がつけば、明るい光が差し込んでいる。
隣に居るセフィロスの髪をゆっくりと撫でた。
さらさらと指から逃げていく銀色に目を細めて、そっと額に口付ける。
軽く身じろぎをする様子に微笑んでから、時計を見た。
思っていたよりも、少し、早い。

「セフィロス、起きて、」
「…ん、氷雨?」
「そう、私は着替えて来るから、先にキッチン行ってて?」

こくん、と頷いた彼の頭をもう一度撫でて、部屋に向かう。
この間買った、成人用の黒い手袋を机において、カードも置いておく。
本当はもっと色々書きたかった。
伝えたいことは、山のようにあったのだ。
それでも、どうしてもペンが進まなくて、一言だけ。
すぐに着替えてキッチンに向かう。
その前に一度振り返り、部屋を見回した。
机とベッドと、空っぽのクローゼットに、私の今までのものが入った、ゴミ袋。

「奴らが来る前に、これに気がついてくれたらいいけど。」

端っこに寄せたゴミ袋は、研究者たちが回収しにくることになっている。
その前に、この手袋をセフィロスが手にしてくれれば。
キッチンに向かえば、少しだけ寂しそうにしながらも、笑顔を浮かべたセフィロス。
そんな顔をさせてしまって申し訳ないと思うも、同時に嬉しく思う。
きっと、彼は、泣かないことを選択してくれたのだ。
私は過去であり、決して、未来ではない。

「セフィロス、元気でね。」

どこか吹っ切れた気持ちで、笑う。
これからのセフィロスを思って、それでも、やはり不安が起こることはなくて。
彼は、大丈夫だ。
そのまま閉まった扉を背に、1度だけ目を伏せた。

「早くしろ、」
「…わかっています。」

白衣の後ろについて、足を進める。
流れそうになる涙は無理矢理に、押しとどめた。



あとがき
前サイトで、みきさまに捧げたものです。

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