鬼神 | ナノ



ないたあかおに 1/2


責は問わぬ、といった兄上は言葉通り、俺にも諸葛誕にも罰を与えなかった。
だが、その分の働きは要求されたし、それには答えたつもりだ。
そして、氷雨はいつも通り…いつも以上の働きで、鬼神呂布の生まれ変わりだと一気に広がった。
それは魏で、ではなく、呉蜀でといえる。
魏ではどちらかといえば、兄上の外堀を埋める作業での方が有名だからな…。
司馬懿の嫡子は自身の護衛に懸念している。
その護衛に手を出せば、ただでは済まないだろう、なんて。
ま、宴会の様子とか普段の生活とか、そんなの見てたら当たり前のように感じることだし。
本当にあとは氷雨が頷くだけの状態になっていて、むしろ恐ろしいくらいだ。
母上はその時が早く来て欲しいと言いたげだし、父上も兄上を早くしろとせっついている。
でも、父上も母上も氷雨に対して何も言わないのは、彼女がいろいろ背負っているからなのだろう。
護衛として育ってきた自分も、弟を斬らなくてはならなかったこと、それから、その当主を継いだこと。
それなのに、兄上や俺の精神的な支えにもなってくれていて。
いつだって柔らかく微笑んでいるような人だ。

「子上様…?」

彼女もきっと、兄上のことが好きなのだと、見ていればわかる。
だから兄上は氷雨が受け入れるのを待っていられるんだろう。
そうじゃなかったら、もっとひどいことになっていたに違いない…兄上が手を抜くはずもないし。

「他の話をしてくれよ、いいだろ?」
「ええ、構いませんよ」

にこり、と笑った彼女は丁寧な動きでお茶を淹れて、俺の前と彼女の前に置いた。
それから、先に氷雨は口をつけて、悩むように首をかしげる。
彼女の何気ないこの動作も俺たちを守るためなのだと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

「では…こんなお話はどうでしょうか」

そう告げた彼女に意識を集中させる。
軽く伏し目がちにして、思い出すように口元をゆるゆると緩ませて、“母”のような顔をする。

「昔、山奥に鬼が二人、住んでおりました。青い鬼と、赤い鬼です。二人は仲のいい友人でしたが、赤鬼は山の麓にある村の人間たちとも仲良くなりたいと、いつも思っていたのです」

無言で氷雨の様子を見つめた。

「赤鬼は一人で考え、行動しましたが、なかなかうまくいきません。そしてあるとき、赤鬼は青鬼に相談しました。『俺は、村の人間と仲良くなりたいんだ』と。青鬼は少し考えたようにしてから、笑います。『僕にいい考えがあるよ』そう言った青鬼の計画はこうです。村で青鬼が暴れ、それを赤鬼が止める。とても単純で簡単な計画でした。ですから、失敗するべくもありません」

湯飲みに視線を落としたまま、彼女は静かに語る。

「その計画は成功し、赤鬼は村の人間たちに好かれ、仲良くなりました。感謝された赤鬼は、ここまで仲良くなれたのは青鬼のおかげだ、と彼に感謝を告げるために一度山に帰ります。自分の家へ到着すると、扉のところに紙が一枚貼ってありました。一体なんだろう?赤鬼は不思議に思って近寄ります。それは青鬼からの手紙でした。『僕の友達の赤鬼へ、君が村の人間と仲良くなれてよかった。でも、折角仲良くなれたのに、君が僕と仲良くしていれば、きっと君も僕と同じように嫌われ者になってしまう。だから、僕はこの山を離れることにするよ。さようなら。君の友達の青鬼より』。それを読んだ赤鬼は、自分のためにそこまでしてくれた大切な友達の青鬼がいなくなってしまったことを悲しみ、泣いてしまいましたとさ」

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