鬼神 | ナノ



がっぴしんじょう 1/2


夏侯覇殿のあれやこれから半年後。
東関の戦いで司馬昭様が負け、合肥新城まで退いたという知らせが子元様の元へ届いた。
ため息一つ吐いて、私に視線を向ける。
こくり、と一つ頷いて、方天画戟と迅雷剣を手にする。
小さく笑った子元様は迅雷剣とヒョウを手にして、行くぞ、と声をかけた。
御意に、と答え、馬を引く。
子元様の白馬と私の青毛が並ぶ。
すぐに出発し、彼らの元へと向かう。
だが、合肥新城は呉兵に囲まれており、小さく眉を寄せる。
武器を迅雷剣から方天画戟へと持ち替え、子元様より前に出る。
こちらに気がついた武将たちに対し、吠えた。

「我は、五丈原の呂布なり!立ち塞がれば、容赦なく狩る!」

叫び、方天画戟を振るう。
腰が引けた彼らを方天画戟で討ち取りながら、城の中に声が聞こえるくらいまでに叫ぶ。

「死にたいものから私の道を遮ることだ!」
「ひ、ひぃっ」
「りょ、呂布だぁあああ!」
「鬼神だ!鬼神が来たぞ!」

討ち取れば賞金を、と叫んだ武将もいる。
だが、兵卒たちは逃げ出そうとしているものが多い。
表情を引き締めたまま、後ろの子元様にも気を配る。
案の定、後ろを狙おうとした兵を感じ、後ろ足で立たせその勢いで、馬首を真後ろへと向けた。
すぐにその兵を飛ばし、その指示を出しただろう武将を睨みつける。
子元様の近くを離れるわけにはいかないが、あの顔は、覚えておこう。
それからすぐに進路を切り開く役に戻り、そのまま合肥新城へと入った。
歓声で迎えられて、思わず一歩下がる。
とん、と背中に当たったのは子元様で、はっとして顔を上げれば、甘やかに微笑むその顔。
目を見開いてから、失礼だとわかっていても顔ごと目をそらす。

「兄上!氷雨!」
「っ…司馬昭様、ご無事でなによりです」
「城の中にまで氷雨の声が聞こえて、兵の士気も大分上がってるぜ」
「…それなら、良かった」

へらり、と笑ってすぐに子元様に場所を譲る。
子元様は司馬昭様と元姫、賈充殿、さらには諸葛誕殿から話を聞き、自信に満ちた笑みを見せた。

「氷雨、此度の戦、私と共に来い」
「はい」

笑みが眩しい。
とても美しい人で、それなのに彼はひどく潔癖で。
普通の女中さえ、自身の側に侍らせることはない。
勿論、私が護衛女中に近いことをある程度しているということもあるだろうし、張春華様の教育方針で出来うる限りは自分自身で行う癖がついているというのもあるだろう。
だが、それでも食事は私の作った肉まんか張春華様の作られた料理、司馬家の料理人が作り、毒味もされたそれしか食さない、というのは些か潔癖が過ぎるのではないかと思うこともある。
私が彼の護衛になってから、町で子元様が買い食いをしているのを見たことがない。

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