鬼神 | ナノ



せんりこう 1/2


司馬懿様から家督を譲られた子元様が夏侯玄を処断した。
そのせいなのだろうが、夏侯覇殿が出奔を企てている。
漢中で、夏侯覇殿の亡命を阻止するため、郭淮殿、子上様、元姫がそちらへ向かっているらしい。
無言で、方天画戟を手に取る。

「氷雨、私は夏侯覇の杞憂を認める。だから、それは持っていかずとも良い」
「子元様…、」
「行ってこい、氷雨。私の代わりに奴を止めてこい」
「…御意に」

頭を下げて、止めることを重視した、破城槍とヒョウを持っていく。
同じ武器であれば、得手不得手もわかっているのだから。
私は一人、子上様や元姫とも郭淮殿とも違う道から…、正確に言うのであれば、夏侯覇殿と同じ道から進む。
目の前にある木の扉を破城槍で破壊し、その後を追う。
途中郭淮殿が工作しているため、すぐにでも追いつけそうだ。
くつり、と笑みをこぼして、伝令兵へ伝言を頼む。

「郭淮殿と司馬昭様へ、私が二人を止めると伝えてくれ」

走り去る伝令兵を見つめ、眼前に迫った二人へ一気に距離を詰めた。
彼らの脇をすり抜けて、進行方向に立ちふさがり、後ずさる二人に視線を向ける。

「どこへ行かれるおつもりか」
「っ、氷雨?!」
「蜀へと亡命されるのであれば、この私を殺してからにしていただこう」

にこり、口元に笑みを浮かべ、破城槍を構えた。
夏侯覇殿を守るように妹が前に出る。
その様子を心の中だけで満足に思い、武器を変えてみせる。
ヒョウを見せて、私の持ち運んでいる武器を全て理解させる。
さて、ここからが本番だ。
地力だけでいえば、私の方が強い。
妹には負けるべくもないし、夏侯覇殿の精神に余裕がない状況であれば、明らかに私が勝てるのだ。
だが、逆にいえば私は二人に怪我をさせないよう極力努力するべきであり、手加減が必要となる。

「そこまで、俺を殺したいのか!曹爽殿を追い出して、次は、俺か?」
「いえ…ですが、貴方が蜀へと向かうのであれば、私は後顧の憂いを絶つために、妹だけは先に殺します」
「っ、非道だな」
「ええ、非道でしょうとも。ですが、私は弟をも斬った身、今更もう一人肉親を斬ったところで何が変わりましょうか」

小さく笑い告げる。
司馬昭様へ、子上様へ…覚悟をしろと告げたのだ。
それならば私も覚悟をしなくては、申し訳が立たない。
ぐ、とヒョウを握り、眼を細める。

「仲権様、お逃げください」
「鈴蘭?!」
「生きてください、仲権様」

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