かこうは 1/2
曹爽殿が自身の経歴を持ち上げるために、興勢山に攻め込むことに決めたらしい。
それは別に構わないのだが、それに何故か子元様たちまで行かなくてはならない状態なのが理解できない。
苛々としながらも無表情に子元様の隣に侍る。
張春華様、司馬昭様に元姫、賈充殿と気を配りたい面々もいるのだ。
はあ、と一つため息を吐く。
ふ、と視界に夏侯覇殿と妹が入った。
ちらりと見やれば、仲が良さそうに笑い合ってる。
どうやら、妹のような扱いをされているようだが、それでも、良かったと胸をなでおろす。
「氷雨、どうかしたか?」
「子元様。いえ、妹が見えたので、少し気になってしまいまして」
「ああ、夏侯覇の護衛武将となったのだったな」
「はい、どうやら大切にしていただいているようで…一安心です」
子元様に小さく笑ってみせる。
武器を確認しながら、今回は撤退戦になりそうだと眉を寄せた。
「おお!氷雨殿!」
「…曹爽殿」
面倒な相手に話しかけられたな、と視線を泳がせる。
とりあえず、子元様とやりあう前にこの場から追いやってしまおうと、今回の布陣について聞く。
彼は自信満々に曹魏の戦は覇道であり、正面から真っ向勝負だ、と言い始めた。
…これでは、勝てる戦も勝てるはずはない。
お考え直しください、と口にすれば、彼はにたり、と笑う。
「氷雨殿が私の護衛武将となってくれるのであれば、進言も聞き入れよう」
「では、お考え直しいただけない、ということですね」
無表情に答える。
子元様がそっと私の腕を引いた。
「氷雨、母上が呼んでいるぞ、行ってきたらどうだ?」
「…え?あ、はい、失礼いたします」
おいでおいでと手招きをしている張春華様の元へ向かう。
彼女はニコリと笑ったまま、冷たい目を曹爽殿へ向けていた。
怖…。
何て思っていれば、私を呼んだのにも理由があったらしい。
張春華様の後ろには、夏侯覇殿と妹がいた。
静かに頭を下げる。
「氷雨、って呼んでもいいか?」
「構いません。夏侯覇殿のお好きなように」
「…あー、氷雨ってさ、此奴の…鈴蘭の姉さんなんだよな…?」
「ええ、生家は同じです」
笑って答えれば、夏侯覇殿はきょとんと首を傾げる。
妹は小さく吹き出している。
鈴蘭、なんて、綺麗な名前をつけてもらって、良かったと思う。