08
触れた所に宿る熱次の日、俺たちはカジノにいた。
大人っぽくしたマネージャーとは反対に、氷雨さんは可愛らしくしている。
膝丈のピンク色のドレスに白い上着を羽織っている。
本人に聞いたら、Aラインドレスで、可愛らしい化粧してみたんです、と言っていた。
いつもより幼く見える彼女は、じゃぁ、色々みてきますね、と一人何処かへ向かう。
それを見送って、俺たちはスロットを回しに向かった。
「あれ?氷雨姐は?」
「いねぇのか?」
ブラックジャック分を換金し終わったのだが、未だに氷雨さんがいない。
とりあえず離れるのもなんだと、全員揃って移動した。
スロットにはおらず、ルーレットにもいない。
蛭魔の顔がだんだん険しくなってきたその時だった。
「おおお、またレッドドッグ!!」
「なんつー強運だ」
ひときわ騒がしいテーブルが視界の先にある。
そこで囲まれているのは、見覚えのあるピンク色のドレスで。
「氷雨さん!」
「…あれ?一輝さん。『迎えがきたので、この辺で失礼します』」
笑顔で立ち上がった彼女の後ろには、何故か黒服が二人箱を抱えている。
恐る恐る、それを覗き込んだ。
「妖一さん、換金してきてもいいですか?」
「…いくら勝ちやがった」
「わからないです、『いくらあります?』」
『…一生暮らせる程度じゃないでしょうか』
その返答を聞いて、氷雨さんはぱちりと瞬いた。
それから、蛭魔を見つめて、首を傾げる。
「口座一つお借りしても?」
「お前にやったヤツがあるだろ?」
「あんな金額もらえませんよ…でも、使わせてもらいます」
眉を下げて大人の表情で笑って、彼女はキャッシャーの元へ歩いていった。
それから数分後、帰ってきた氷雨さんは、空笑いをしていて。
「氷雨姐、どうしたの?」
「あー、うん、なんか…億単位でした」
全員の動きが止まった。
彼女は、でもこれで、妖一さんにばかりお世話にならずに済むってことですね、と続ける。
その表情は何処かほっとしていて、少し寂しそうだ。
さて、じゃぁ帰りましょうか、と微笑んで荷物を手に持った。
大きな荷物を氷雨さんの手から蛭魔が奪うように受け取り、一緒に担いでいる。
一度カジノを出て、着替えた。
黒木と戸叶と話をしていると、蛭魔から自分の荷物を隠すように持っている氷雨さんが目に入る。
二人から離れて、彼女の後ろに回って、荷物を預かった。
バッと弾かれたようにこちらを見て、手を伸ばされる。
が、簡単に避けることができて、そのまま二人の元に戻った。
「一輝さん、荷物自分で持ちます!」
「昨日、チェックインのときに運んでくれただろ?」
その礼だ、と笑ってみせる。
ぷくり、と頬を膨らませた氷雨さんは、暫く黙って考え込み始めた。
今のうちに、と歩き始めていると、後ろからとん、と軽い衝撃。
振り返ると照れたように笑った氷雨さんが、俺の肩に手を置いていた。
じっと見つめると、逡巡した様子を見せてから、俺の顔を見てくる。
「えと、ありがとうございます」