正義・番外編 | ナノ



揃いの眼鏡に三十路の双子
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揃いの眼鏡に三十路の双子

「あれ?サガさんとカノンさんは?」

きょとん、と首を傾げた氷雨。
それもそうだろう、普段は確実に執務室にいるサガと、昨日海界から帰って来て、報告にいるはずであろうカノンがいないのだ。
彼女は執務室内見渡して、何度か瞬いた。

「ムウがいる時点で珍しいけど…サガさんがいないってもっと珍しいよね」
「そうですね。私はあまり此処まで来ませんから」

苦笑がちに告げるムウに、氷雨がにこり、と笑う。
でも、久しぶりに会えて嬉しい、と本当に嬉しそうに告げた。
その反応に、何度か瞬いてから、私もですよ、とムウも笑んだ。

「う〜ん、でもどうしよう。二人に頼まれた仕事が終わったのよね」

氷雨がふぅ、とため息を吐く。
彼女の足では未だに十二宮を降りることはできない。
双魚宮、宝瓶宮、磨羯宮くらいまでは、ある程度行けるようになってはいるのだ。
だが、磨羯宮まで降りるのには普通でも3時間かかる彼女にとって、今日中に双児宮まで赴くのは不可能に等しい。
下から、三つ目…と指折り数えた彼女は肩を竦めて、首を振った。

「…明日でいいかなぁ」
「氷雨、よければ、俺が連れて行くぞ?」

ムウと彼女の会話を聞いていたのだろう、アルデバランが笑いながら、告げる。
驚いた彼女は、それから、嬉しそうに笑う。

「久しぶり、アルも全然会えないから、寂しかったよ」

にこにこと、笑顔をたたえたままの氷雨は、少し不満そうな感情を同時に表に出した。
そんな表情の動きを器用だと誰かが呟いたとしても、咎められないだろう。
また、その場にいたムウやシオン、ミロ、カミュらが、彼女には彼を誘惑するつもりなど欠片もないと知っていても、思わず、眉を寄せる程度には不快らしい。

「…俺も、会えて嬉しい」

少しだけ頬を染めたアルデバランに氷雨は、やはり友人はいいものだ、なんて無責任にも考えている事実を、彼らは身を以て理解している。
彼女はすぐに書類を用意して、お願いしていい?と首を傾げた。
勿論、と頼もしく笑ったアルデバランはそのまま片手で彼女を抱き上げる。
アルデバランの片手の上に座る氷雨は滅多にない高さだからか、どこか楽しそうに見えた。
様々な黄金聖闘士に抱き上げられることのある彼女だが、そのいつよりも笑顔が輝いている。

「流石、アル」
「何がだ?」
「安定感が半端ない」

普通に立っているときでは確実に隣に来られないだろう、笑顔を正面から受けて、アルデバランは瞠目した。
それから、誤摩化すように笑って、慣れているからな、と告げる。
それに対して、少し眉を下げた氷雨、私此処に座ってて平気かしら、と頬に手を当てて首を傾げた。
その発言で、アルデバランは勘違いされそうな言葉であったと気がついて、慌てて弁解した。
本当に?と疑うような声色で、じっと、彼の目を見つめる氷雨。

「俺に、そんな相手がいる訳ないだろう?」
「なんで?アルは優しいし頼もしいし、普通にモテると思うけど」

首を傾げる彼女は本心からそう思っているのだろう。
アルデバランは困ったように視線を彷徨わせてから、行くぞとだけ告げた。
双児宮についたアルデバランは、俺は用があるから、と更に下の金牛宮へ向かう。
ありがとう、と笑いながら手を振った氷雨は双児宮の内部に声をかけた。

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