正義・番外編 | ナノ



瞬の選択
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瞬の選択

「氷雨さん!」

目の前にいる華奢な背中に声をかける。
くるり、振り返ったのは僕が一番好きな笑顔。
駆け寄って、抱きしめた。
戯れ付いている、と思っているのだろう彼女に少し悔しく思いながらも、それでも拒否されないことを嬉しく思う。

「瞬君も、大きくなったよね、」

しみじみといったように氷雨さんは呟いた。
確かに、出会ったのは、僕が4歳か5歳の時だったから、当たり前のように彼女より小さかった。
女の子に間違えられることが今よりも格段に多かった時期。
むしろ、女顔だからとからかわれることもあった、あの頃に彼女は笑顔で、僕を認めてくれたんだ。


どういう状態だったかは覚えていないけれど、女顔をからかわれ、兄さんと血が繋がってない、といわれた。
目を見開いて、そんなはずない、と叫んだが、それでも、どこか不安な気持ちはなくならなくて。
そんなとき、わざわざしゃがみ込んで目を合わせてくれたのは、一人。

「瞬君、どうしたの?」
「氷雨姉さん、…あのね、」

ゆっくり僕の髪を撫でながら、うん、うん、と頷きながら聞いてくれる彼女に不安を全てぶつけた。
聞き終えた氷雨さんは、少し怒ったような顔をして、僕の名前を呼んだ。

「不安に思うのは、違うよ、瞬君」
「っ」
「君は間違いなく一輝君の弟だ。それは、血もそうだけど、それ以上に二人には絆があるでしょう?」

絆?と首を傾げれば、二人は他の人とは違う特別な絆を持っているでしょ?と悪戯っぽく笑った。
それからそっと頭を撫でてくれて、私も兄さんとは全然似てないの、と苦笑する。

「でも、兄さんを大切に思う気持ちはあるし、兄さんの妹でよかったと思ってるんだ」

瞬君はどうかな?
首を傾げながら問う氷雨さんに頷く。

「あとね、瞬君は可愛らしいけど、成長したら、きっと格好良くなるよ」

ちっちゃい頃は可愛いものなんだって。
とニコニコ笑いながらいう彼女にうん、と頷いた。
それからも、彼女はいつも笑いながら、時に怒って僕を励ましてくれる。

あの時の励まし方は、正直、小さな僕には決して理解できるようなものではなかった。
でも、年を重ねるにつれて、そういうことか、と納得したし、そんな氷雨さんの隣にいたいと思った。
いつでも彼女の言葉はまるで、魔法のように僕を励ましてくれた。
兄さんが氷雨さんを好きなのは知っている。
でも、尊敬する兄さんだからと言って、彼女を譲ることなんて出来ない。

「貴女を守れるくらいに、大きくなれたよね?」
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