正義・番外編 | ナノ



氷河の自覚
しおりを挟む


氷河の自覚

「氷雨さん、」

最初に感じていたのはマーマへの想いに似たものだった。
だから、最初は母として、姉として、慕い関わっていた。
彼女はそれを優しく包み込むように相手をしてくれた。
だから、気が付くのが遅れてしまった…いや、言い訳はクールじゃないな。
だがとにかく俺は、家族愛の一種で彼女を慕っていると思い込んでいた。

それが間違いだったと気がついたのは、一輝といる彼女を見たときだった。
一輝の目は優しくて、瞬にだって見せないような優しい顔をしていて。
彼女も俺たちに見せるような姉の顔ではなく、安心した一人の女性だった。
後から考えれば、それは一輝に焦がれたからではなく、対等な存在として頼りにしていたからだったのだが。
そのとき、一輝への激しい焦りと自身への憤りを感じた。
彼女に対しても、どうして、と責めるような気持ちを抱いたのだ。

「氷雨さん、」
「なぁに、氷河君、」
「俺と、一輝…どっちが頼りになりますか」

キョトンとした彼女は少し首を傾げてから、場合によるかな、と告げた。
その言葉に眉を寄せて、どういうことですか、と続ければ、苦笑したまま彼女は告げた。

「一輝君と氷河君は違うでしょう、得意なことも、苦手なことも」

だから、内容によって変わっちゃうんだ。
それに私は、十分に氷河君を頼っているよ、と照れたように笑う。
純粋に嬉しいと思ったが、それ以上に、もっと頼って欲しいと願った。
一輝や弟のようにしている星矢に頼むくらいなら、俺に、と。
嫉妬なんてクールじゃない、と冷静に考えてみるものの、どうしてもその心はぬぐい去ることが出来ない。
どうすれば、もっと余裕が持てるだろうか。
そんな思いから思わず彼女を呼んでしまう。

「氷雨さん、」
「なぁに?」

首を傾げながら、笑う。
愛おしいと、この腕に閉じ込めてしまいたいと、そう思った。
閉じ込める…そうか。
名案を思い付いた、と氷雨さんに笑顔を向ける。
俺の笑顔に更に笑みを深めた彼女に嬉しくなりながら、一歩近づいた。
不思議そうにしている彼女と、扉の向こうに感じる、背中を預けた仲間たちの小宇宙。
そっと、彼女の左手を取る。
キョトンとしているのをいいことに、そのまま薬指の付け根に口付けた。
そのまま、軽く食んでから放し、驚いて笑みが消えた彼女に目線をあわせる。

「氷雨さん、貴女の薬指は俺の…この、氷河のためだけに、あけておいて下さい」
[ back to menu ][ back to main ]
[ 本編に戻る ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -