正義・番外編 | ナノ



一輝の想い
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一輝の想い

「氷雨、」

俺が呼び捨てても怒ることのない彼女。
そう呼び始めたのは、俺がこの気持ちを自覚したからだった。
綺麗に微笑む氷雨は、何時だって一歩引いていた。

「なぁに、一輝君」

キョトンと首を傾げた彼女を守りたいと、そう思ったのは何時だっただろう。
出会ったのはまだ幼い頃で。
パンドラと会い、施設に連れてこられて、まだ馴染んでいない時期。

星矢に腕を引かれていた彼女が俺たちの前で足を止める。

「初めまして、お名前は?私は氷雨っていうんだけど」
「…」

無言で視線すらあわせずにいたが、彼女はにこり、笑った。
それから、優しげな声色で続ける。

「その子は、妹さん?弟くん?」
「…弟」
「そう、優しそうな顔してる」

楽しそうに笑う彼女は、星矢に早く行こうよ、と手を引かれ、立ち上がった。
次に会ったときに名前教えてね、と告げて。

それからと言うもの、彼女は毎回毎回、『次に会ったら』と告げる。
だからなのか、俺は聖戦のほんの合間でも、氷雨には会いにいった。
次はないかもしれないから最後に、と。
だが、その度彼女はまるで、俺がそう思っているのを知っているかのように微笑んで、次の約束をする。
気が付けば俺は、約束を守ることに、執着し始めていた。

「一輝君は優しいね」
「俺がしたいからしているだけだ」
「うん、でも、優しいよ」

困ったように眉を寄せて、それから、少しだけ辛そうに笑った。
その笑顔にドクリ、と鼓動が強く打つ。
辛そうに笑む氷雨が優しい姉ではなく、女に見えた。
触れたら折れてしまいそうな、そんな彼女に思ったのは、今まで感じたことのない、守りたい、という思いだった。
愛しくて、弱い笑顔は初めて見た。

「氷雨…?」
「…ごめんね、一輝君。何もできなくて、何も力になれなくて」

泣きそうな表情に捕まった、と思った。
もう、この気持ちから目を逸らすことは出来ないのだろう。
約束を守りたかったのは、彼女を悲しませたくなかったことと、俺が、彼女に会いたかったから。
俺は氷雨を誰にも渡したくない、姉や母としてでなく、ただ一人の女性として。

「氷雨、覚悟しておけ、」
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