正義・番外編 | ナノ



星矢の初恋
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星矢の初恋

「氷雨さん!」
「ん?どした、星矢君?」

キョトンと振り返る彼女は、昔から変わらない笑顔を浮かべた。
まっすぐに見つめてくれる瞳は何時だって俺を見つけてくれる。
一時期、彼女には何だって見えているのだと考えたこともあるくらいに。

「星矢君、見つけた!」

邪武と喧嘩した日だったか、姉さんがいなくていじけた日か。
とにかく、俺は泣き顔を見られたくなくて、隠れたんだ。
なのに、隠れたら隠れたで、自分がいなくなったような感覚に陥った。
どうしようもなく辛くなったとき響いた彼女の声。

「氷雨姉ちゃん…?」
「うん、そうだよ」

にっこり綺麗に笑って、彼女は両手を広げた。
その腕の中に飛び込む。
ぎゅぅ、と抱き締めてくれたときに優しい香りがして、すごく安心したのを覚えている。

「星矢君、みんなも心配してたよ、帰ろう?」
「うん、」

そっと髪を撫でられて、少し離れた。
差し出された手をぎゅと掴んだときに柔らかな手が握り返してくれて、ドキドキする。
隣に並んで、歩き始めた。
二人の影が嬉しくて、俺が一人じゃないと気がついた。

「氷雨姉ちゃん、」
「なぁに?」
「将来、お嫁さんにしてあげる!」

に、と笑うと彼女は驚いたようにしてから嬉しそうに笑った。
それから、しゃがみこんで、俺の頬にちゅと口付ける。

「ありがとう」

その笑顔は今まで見たどんなそれより綺麗だった。
勿論、今でもそう思う。

「氷雨さん、」
「なぁに、星矢君」

氷雨さんの綺麗な笑顔は曇ることがない。
それが、彼女自身が注意して見せないようにしていると気がついたのは、何時だっただろうか。
多分、聖戦を経験して、色んな思いを知って、体験したそのあとだったと思う。
そのとき、彼女への想いが高まると同時に、昇華されないものだと気がついた。
彼女が俺を見ることはないと思い知らされたとされたと言ってもいい。
その想いは年を重ねる毎に変化し、今は家族としてのものになった。
勿論、未だにドキリとすることはあるが、それでも、彼女を独り占めしたいという気持ちはなく、むしろ俺以外の誰かの隣で幸せになるのを見届けたい。

だから、俺は、

「姉さん、て思ってていいか?」
「ん?勿論」

幸せそうに俺を見つめる彼女を渡せる相手を選ぶのが、役目だと思っている。

「恋人ができたら教えてくれよ!」
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