正義・番外編 | ナノ



リアの誕生日
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仕事人間と堅物

その日、アイオリアは酷く困った様子で仕事をしていた。
執務室はいつもより人が多く、サガ、氷雨の常にいる二人以外にもアイオリア、カノン、デスマスク、ミロがいた。
デスマスクにはサガが仕事をさぼらないよう、目の前で教えている。
ミロはよくわからないところをカノンに教えてもらって、なんとか進めていた。
アイオリアは自分一人の手には負えないと考えて執務室に来たのに、ほとんど手を借りられない状態に陥っているのだった。
ちなみに、氷雨は女性であり、仕事が常に忙しそうだという理由で彼の選択肢に入っていない。

「アイオリアさん、珈琲か紅茶、飲みますか?」
「あ、ああ、紅茶を頼む」
「ミルクとお砂糖はどうします?」

その問いにはいらない、と首を振ってから、もう一度視線を書類に向けた。
どうするべきか。
数分後、4人にも飲み物を提供した彼女はアイオリアの元に向かってきた。
どうぞ、と紅茶とともに差し出したのは、美味しそうな香りがするクッキー。
美味しそうだ、と喉が鳴った。


「何かお困りごとですか?」

首を傾げる彼女は、全員分の皿とカップを片付けた後、アイオリアにそう聞いた。
アイオリアは、いや、その、と歯切れの悪い言葉を発することしか出来ず、氷雨は更に不思議そうにする。
それから気がついたように告げた。

「サガさんかカノンさんの方がよければ、交換してきますけど…」

どうしますか?と首を傾げた彼女に驚きながらも、ならば、と彼女に助けを請う。
少しだけ嬉しそうな顔をした氷雨は頷いて、アイオリアに寄り添うようにして、書類を覗き込んだ。
ピシリ、と音を立てたのではないかという程あからさまに固まった。
だが、既に書類に集中している彼女が気がつくはずもなく、じっと、その書類を見つめる。
そして、数回瞬いて、中々近距離にあるアイオリアの顔を見上げて告げた。

「アイオリアさん、これ、此処が間違ってるんですよ、」

普段はよく見えない眼鏡の奥の気の強そうな瞳だとか。
近くだからこそ感じる、石鹸のような、でも、甘い独特の香りだとか。
簡単に折れてしまいそうな首に、柔らかそうな桜色のぷくりとした唇だとか。
硬派であり、免疫のないアイオリアをショートさせるには十分なほどのそれに、すぐに顔が赤くなっていく。
真っ赤になった彼に対し、大丈夫ですか?と首を傾げながら、自身とアイオリアの額に手を当てる氷雨。

「熱はなさそうですけど…疲れが出てるのかもしれませんね」

近距離で心配そうな顔をして、書類は私がやっておくので今日は休んで下さい、と続ける。
衝撃的過ぎて反論することも出来ないまま、執務室を出たアイオリアは自宮に帰った瞬間、どうしようもない衝動に駆られ、叫んだ。
俺はなんてことを考えたんだ!

(アイオリアさん、大丈夫でしょうか?)
(あー、問題ねぇだろ)
(ああ、氷雨が心配することないよ!)
(でも、獅子の咆哮が…、)
(大丈夫だって、そんなに心配なら仕事が終わったら見に行って来いよ)
(それもそうですけど…カノンさん、私が獅子宮まで降りるのにどれだけかかると思ってるんです?)
(私が連れて行こう。ノルマが終わったら言っておくれ)
 
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