Treasure | ナノ



少女は男のモノへと…


少女は男のモノへと…

目下、シュラは眉間にしわを刻み辟易していた。
原因は背中にしがみつき服を濡らす少女。先程からそのままの姿勢で動かない。時折必死に押し殺そうとする嗚咽が聞こえるだけ。
このままでは流石にまずい。小さく溜め息を吐き妹分に向き直った。
「サガと喧嘩でもしたか?」
そう言うと氷雨は涙を目一杯溜めてシュラを見上げた。
「どうした?」
正直泣いている子供をあやすのは苦手だ。氷雨も分かっている筈なのに何故自分の所に来たのか。自分ではろくな事が出来ない。と思考が至った所で気付く。
いつもなら真っ先に頼るアフロディーテ達が任務で出ている事に。それも今回は珍しくカミュも同行していた。
つまりシュラの所に来たのでは無く、シュラしか居なかったのだ。
今度は盛大に息を吐きシュラは氷雨の頭をくしゃりと撫でた。
「話したくないなら話さなくて良い。だが泣きたい時は思いっきり泣け。」
そう言ってやると流れない様に留められていた水が重力に従って伝わり落ちる。大声で泣きながら、氷雨はその場に崩れた。
咄嗟に手が伸びるが、どうしたものかと宙を彷徨う。確かに泣けとは言った。しかしここまで号泣されると誰が予想する?
頭を抱えつつ、シュラはその場で胡座をかいた。
抱き締めるでも無く、慰めるでも無く。
ただ文字通り隣に居た。
それこそ、サガやアイオロスなら……他の黄金なら涙を拭ってやる位するのだろうが。
生憎シュラにそんな器用な事が出来る訳が無い。
分かっていて傍に居るのは、居るのと居ないのとでは随分違うと知っているからだ。

暫くそうしていたが、嗚咽の収まってきた氷雨はそろりとシュラに擦り寄った。
ぽんぽんと頭を撫でると首に腕を回して強く抱き着いて来る。
何処にも行くなと言っている様でいじらしく可愛いのだが、如何せん後が恐過ぎる。こんな所をサガに見られた日にはその時限りで人生が終末を迎えるだろう。
氷雨にこんな風に抱き着かれて許されるのはそれこそ――衛は論外として――カミュかアフロディーテ位。まさに役得…もとい愛弟子の特権といった所か。
「…シュラ、にぃ…。」
しゃくりあげながら呼んだ声は掠れていたが酷く甘い。自覚があるのか無いのか。この腕の中に居るのは本当に妹かと疑いたくなる。

…サガには、いつもその様な声を聞かせているのだろうか。
甘い声で囁き、微笑んで魅せるのか。


女であるのだと、サガだけが、まだ幼い彼女を女にするのだと思い知らされた気がした。


心に湧くゾクリとした悪寒を打ち払い、シュラは氷雨に顔を上げさせた。
「氷雨。」
潤んだ瞳にはしかとシュラが写り込んでいた。引き込まれそうになる、翠玉。
ごくりと喉が鳴るのを誰が咎められよう。
いっその事喰い付いてやろうか。
そう思ったが焦った様に近付いて来る小宇宙と足音。
口角を上げたシュラに氷雨はきょとんと首を傾げる。その表情に思わず吹き出したシュラは氷雨の髪をわしゃわしゃかき乱した。
ぷうっと膨れる頬にどこか安心し身体を離す。
部屋の入り口に目をやると困り顔の男が立っていた。
「王子の到着だな。」
「シュラ…。」
やれやれ世話の掛かる。大袈裟に肩を竦めて見せたシュラは彼の背を叩き部屋を後にした。

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -