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殺して


ねえ、私を殺してくれる?

突然声をかけられた。
その少女は少し前から同じ場所で何か考え込むように立っていて。
気にしないでいたら面倒な絡まれ方をした。

「要人になったらな」

その返答を聞いて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ありがとう、と礼を告げ、何処へとも知らず消えた。
それが、数年前の話だ。


だからといって、その女のことを覚えていたとかはなく。
だが、ある仕事のとき潜入した先にあの女はいた。
しかも、重要人物と言われ、彼女は暗殺対象に入っていた。
他のメンバーも同行していたので、奴に任せることも出来たが、俺は自ら彼女の元へ向かった。

「やっと、来てくれたのね。」

いつ殺してくれるかと思って、ずっとドキドキしてたのよ。
彼女は恋人との逢瀬のように喜んだ。
興が削がれたが、仕事は仕事である。
目を伏せて、今か今かと死を待つ彼女に、1つだけ聞いた。

「何故だ、」

一言だけだったが、彼女は全てを理解したらしい。
にこり、微笑んで言った。

「この世界で初めて出会った人間だからよ。」

謎を残して死のうとする女に、ふざけるなと理不尽な怒りがわき上がってくるのを感じた。
彼女は、ああそうそう、これも必要でしょ。
と重要な書類も渡してくる。

「死にたいのか?」
「だって、こんな死に近い世界、私は知らないもの。」

だから、逃げるのよ。
そう笑って
さぁ、早く私を殺して
と腕を広げた。
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