君のこと
君のこと
「スナフキン、何してるの?」
氷雨は不思議そうにスナフキンの手元を覗き込んだ。
彼は、ん?と首を傾げて、見やすいように体を動かすだけで、答えは教えてくれない。
「氷雨は何だと思う?」
「んー…なんだろう。」
問い返されて彼女は考えるそぶりを見せる。
だが、わからないからこそ聞いたのだろう、少し考えたあとの答えはそのままだった。
その反応に楽しそうにくすくすと笑ったスナフキンは、おいで、と自分の隣を示す。
ぺこり、と一度お辞儀してからそこに座る彼女。
「そういえば、今日はムーミンたちはいないんだね。」
「ああ、氷雨が来るってわかってたからね。」
今日は遠慮してもらったんだ、と小さく微笑んだ彼。
氷雨はキョトンとしてから、照れくさそうに笑った。
スナフキンはそっと、彼女の手を握って、目を見つめる。
「提案があるんだけど、聞いてくれるかい?」
「うん、勿論。」
「もうすぐ、冬になるだろう?」
「そうだね、風も冷たくなってきた。」
「ボクと一緒に旅に出ないか?」
にこり、いつもと同じように笑う彼に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
それから、頷くかに見えたが、少し不安そうな顔をして、首を傾げた。
「私、邪魔にならない?」
スナフキンは、自分の好きなように好きな場所を巡って、自分の心の中で素敵なものを溜めていくのが好きでしょう?
氷雨はそう言って、何とも言えない笑みを浮かべる。
「氷雨がいた方が素敵な景色になるんだ。」
ボク一人で見ていた景色が、とても素敵なものだったはずの景色が、決して最上でも至上でもなくなってしまった。
それは、いつだって、君が隣にいてボクと同じ景色を見ていたからなんだ。
穏やかに笑いながら、氷雨の髪を撫でる。
「一緒に来てくれるかい?」
「…そんな風に言われたら、行くしかないよ。」
嬉しそうに笑った氷雨に、同じく嬉しそうに微笑むスナフキン。
「ねえ、スナフキン。」
「わかってるよ、ハーモニカだろ?」
「うん、聞かせて欲しいな。」
スナフキンはそっと唇にハーモニカを当て、優しい音を鳴らす。
そのうちに氷雨が寄りかかって、穏やかに寝息を立てた。
「まったく、無防備だな。」
テラ子安