N loves! | ナノ
終らねーよ

Novel

「プリン」

「今出すね」

「スプーンがない」

「ちょっと待って」

「暑い」

「今ドライ入れたから」



チョコレートプリンとアイスティ



オヒメサマどうぞ、そう言ってプリンカップとスプーン、受け取ったら追撃でアイスティ。
王子様というよりは執事みたいな、尽くす事に慣れた動作の夏野に反論する気も起きなかったから、ひと睨みしてから素直にお礼を言ってスプーンを構えた。

ひとさじ掬って咀嚼。
口に入れた瞬間に広がるカカオの風味で思わず笑顔が零れる、そんな完璧なチョコレートプリン。

おいしい、呟いたら、ひどく嬉しそうに夏野も笑う。
今まで不味かった試しなんざ無いのに、毎回毎回こんなガキの評価を捨てられた子犬みたいに不安げな顔して待ってるこいつは、実力に対して圧倒的に自信が足りないんだろうなぁ。
でも。

「少し、生クリームが多いのと、チョコソースがくどい、かも。」

ほんとうに強いて言えばの話。
ぽそりちっちゃく付けたした。
いや、ほぼ完璧なんだけど、試食係として美味い美味いだけじゃ役に立ちやしないだろうし…。

俺がぐちゃぐちゃと言いつつ半分ほど食べ終わったところでやっと、夏野は何故か俺にお礼を言ってから自分の分のチョコレートプリンに手を付ける。

「うん、裕貴の言うとおりだ」

もう少しだけレシピを変えてみるね、ありがとう。
笑いながらくしゃり頭を撫でてくる手にまた胸がときめいた。
アイスティのストローをくるくるしながら、髪の毛が乱れる、なんて言ってみたり。

あーあー、俺は女子か。
でも確かにこの前借りた陳腐な少女漫画、馬鹿にしてたはずの脇役さんの気持ちなら痛いほど分かる。
主人公が好きだから、同じ舞台に立とうと努力していた彼。
でもあの漫画と違って、俺は店頭に出る前にお菓子を試食する、それくらいしか出来ない。

「……そこだけ変えたら、父さんも納得だと思うよ」

毎回毎回言いそうになる下らない告白を、チョコレートプリンと一緒に舌の上で混ぜた。
代わりに出たのは可愛げのない下らない言葉。口の中はこんなに甘ったるいのに。

父さんはおっきなスイーツ店を経営していて、夏野は24歳にして筆頭シェフで、俺はただの高校生、オーナーの息子なんていう下らない付属品。
なんの勝算があって想いを伝えられようか。
足掛け10年、7歳の時から積み上がった重ったい想いは、はずみでポンと出せるほど楽なものでもなく。
会うたび会うたび重なるのに、出口が無いから苦しいだけだ。

咥内のプリンと一緒に、ひと欠片でもいいから溶けてくれればもう少し自由に息が出来るだろうになぁ。
混ざったイロイロを、こくんと鳴らして飲み込んだ。
カロンとアイスティの氷が鳴る。

「…寒い」

「はいはい」

かたん。
ぴっ。
かちゃん。
ぎぃい。
あと少ししか無いプリンに目を落としたまま、音だけで夏野の動きを感じる。冷たい風が止んで、ずっと鳴いていたエアコンが大人しくなった。
エアコンのリモコンは、俺だって届く位置。暑いって最初に言ったのは俺。
それでもなんだか、無性に甘えたくなるから、いつもいつも夏野に小さなわがままを言ってしまう。

自覚はある。わがままだってのも、迷惑だっていうのも。
それでも笑顔できいてくれてしまうから、治らない。

弟みたいなもんなんだから、いいんだよ。
そう言ってくれはするものの、いつ愛想を尽かされることやら。いや、いっそ嫌われた方が楽でいいかもなぁ。だって弟なんて、そんなの嬉しくないよ。
3桁には届くくらいいつも考える被虐的思考にため息小さく吐いてから、そんなわけないだろうって、セルフ突っ込み。

誤魔化し混じりで最後の一口放り込んで、ご馳走様。
お粗末さまでした、返ってきた返事は主婦みたいだ。

「チョコレートプリン、好き?」

「んー、好き」

あぁ、アイスティの冷たさが気持ち良い。グラスの周りは汗だらけだ。

「今のところ、何番目?」

「にばんめ。」

毎回どれを食べても二番目以上は答えたことがない。
えー、悔しいなぁ、でも久々の二番だー、なんて。全然悔しがってないくせに。

まだ7歳の時、夏野は14歳。初めてこいつのお菓子を食べた時。
こっぱずかしいガキもガキ、今とは打って変わってアホみたいに正直だった俺は、一世一代の告白をしたのだ。
お菓子はにばんめ、夏野がいちばん好き、だなんて。マセガキか。
あの時つけていた好きなモノらんきんぐ帳は、素直さと一緒にきっとどこかへ行ってしまったんだろう。

「そろそろ、1番がなにか聞きたいなぁ」

何度も請われはするけれど、言えるはずが無い。
せめて、せめてこいつが思い出して、この関係が壊れてしまうような、もうわがまま言えなくなって、積んだ想いを捨てなきゃならなくなる、その寸前までは、内緒。

「やっぱり、暑い。」

アイスティの氷は、まだ溶けない。




甘さ控えめアイスティ
(まだ無くならないぼくのいちばん)

(思い出してよ)
(うそ、やっぱりいい)
(分かってるんだ、覚えてるはずないって)









*********
はる様への捧げ物でしたーキャーこんなんですみませんー
暗喩やわがままを入れようとしたら予想以上に上手くいかずにお姉さんはほとほと自分に失望しております
それにしたってチョコレートプリン食いてぇな

気が乗ったら続きます




20110922





     

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