「なぁ、王子さん。」

「なに?」


王子さんの部屋で、二人でまったりしている時だった。
それまでずっと他愛のない話をしてたんだけど、今日は勇気を出して聞いてみることにした。


「キス、していい?」

「え……?」


付き合ってそろそろ1ヶ月。
普通のカップルなら、キスの1つや2つ位かましているところだが、王子さんの(というかリオンの)ガードが固く、未だに手を繋ぐのがやっとだ。
はっきり言って、もう限界。


「え、えぇ?!ロイ、あの、えーっと…」

「嫌なのかよ?」

「い、嫌じゃないよ?嫌じゃないけど…。」


あぁ、これ、これだよ。
今みたいに、真っ赤な顔して狼狽えて、心底困ったって目で見つめられると、無理強いなんか出来なくなる。
が、今日は絶対、折れてやらねぇからな。


「……ダメか?」

「〜〜っ!」


王子さんを真似て、下から覗き込むように見つめてみる。
俺がやっても気持ち悪いだけだろうと内心思ったが、意外にそうではなかったらしく。


「ちょっ…とだけ、なら……。」


顔を更に紅くして、小さな声で承諾の言葉。
それを聞いて、善は急げとばかりに王子さんの腰を掴んで引き寄せる。


「わっ!」


が、


「……何だよ、この手。」


俺から距離を取るように、王子さんの手が、俺の胸に置かれている。


「だ、だって、恥ずかしい……。」


真っ赤になってうつ向く姿は死ぬ程可愛いが、ここでがっついて怖がらせては元も子もない。


「大丈夫だって。目ぇつぶってりゃ、すぐ終わるから。」

「う、うん。分かった…。」


俺がそう言って宥めれば、神妙に頷いた後、ぎゅっと音がしそうな程、固く目を閉じる。


(…睫毛も銀色なんだな。)


そんなことを考えながら、王子さんの顎に手を添え、少し上向かせる。


「あー…じゃ、するぜ?」

「う、うん。」


急に緊張してきて、思わず声を掛けると、王子さんからも緊張で固くなった声が返る。
それに何となく安心して、王子さんに顔を近付けていく。


「ま、まだ?」

「…もーちょい。」


答えた吐息が触れ合い、王子さんの身体がビクリと震えた。
唇が触れる直前に、自分も目を閉じる。


「!……ん、」


触れた瞬間、再び王子さんの身体がビクリと震え、次いで鼻にかかった声が漏れる。


どうしようもなく、色っぽい。


段々と興奮してきた俺は、角度を変え、今度は先程より強めに唇を押し付ける。


「んっ!……んんぅ…!」


驚いた王子さんが少し腕を突っ張るが、すぐにすがるように俺の服を握る。


(あー、もう、マジ可愛い!)


そろそろ歯止めが利かなくなってきた俺は、


「んんっ……んはぁっ……」


王子さんが、多分息継ぎの為に口を開けたのを幸いに、舌を滑り込ませた。
その瞬間、


「―――っっ!!?」


一瞬何が起きたのか解らなかった。

王子さんに強く胸を押されたと思った直後、横から、衝撃が。
わずかに顔を上げれば、先程まで座っていた筈のベッドが見える。


「な、な、な、何するの!」


王子さんが何時になく声を荒らげている。
が、はっきり言って、それ処ではない。


(死ぬ程痛ぇ……!)


脇腹に走る痛みは、お世辞にも鈍痛とは呼べない程に、未だ鋭く、


(……肋骨イッたんじゃねぇ?)


そう思わされる程、強烈だった。


「信じらんない……!しし、舌、入れる、なんて……!」


反論しようにも、呼吸するだけで激痛が走る。

その内にベッドの軋む音が聞こえ、王子さんが立ち上がったのがわかった。


「ロイ最低!大っ嫌い!!」


そう一言叫んで、王子さんは部屋から出ていってしまった。


確かに。

最初の『ちょっとだけ』の約束を破ったのは俺だし。

王子さんがディープキスを知らないかもしれないっていう予測はあったし。

なのに、前置きもなくベロキスかまそうとしたのは悪かったと思う。


でもよ、


だからって、


(三節棍で殴ることねぇだろ!!)






やさしいキスをして






それでも、


(柔らかかったな……。)


しばらく唇は洗わないと決めたロイだった。







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