「ラン、これやる」

 そういって、目の前に某ハッピーな魔法の粉の付いたスナック菓子が差し出される。
 差出人はマリくん。
 
「?どうしたの」
「真野にもらった。俺食わないから」

 確かマリくんお菓子好きだったかと思ったけど。
 そう聞き返せば、

「甘いもんはな。」

 となんともかわいらしい(?)返事をいただきました。昼ごはん食べた直後でも、これくらい全然余裕です。おいしい。
 ちなみに真野とは餌付けしてくることで有名な数学の先生です。

 疑問も解けたので、それをもらって、もらったそばからいただきます。

「菓子ならなんでもいいのか」
「おせんべいとかポテチとかも好きだよ。もちろん嫌いなのもあるけど」
「ふうん」
「ん、ありがと。おいしかったっす」
「そうか。」

 無言で包み紙のごみを取られる。
 え、というも、そんな私のことはスルーでごみを捨ててきてくれました。
 え、なにやさしい。

「え、え、ありがとうよかったのに」
「いや、俺立ってたし。」

 いや、そりゃまあ私座ってたけども。ごみ箱まですら行けないと思われてるの私。

「あ、ありがとう」
「おう」

 そのままマリくんは去って行きました。
 なに?紳士なの?紳士したい年頃なの?

 さて、そんな様子を見ていたらしいサクはほかの席の近いこと話していたのをやめてこっちによってきました。
 オミもにやにやしながらサクに便乗します。

「なに、ランってあの人と付き合ってるの?」
「なんかやけに仲いいよね」

 そんな、おおよそ私たちの身うちじゃあまり出てこないようないかにも女子高生、って感じの話題。
 あたかも女子高生のようだ。
 …この間の話の通りなら、実年齢自体はオミはもう高校生ではないかもしれないけど。
 どうみてもただの変哲もない女子高生だよなあ…イケメンの。

「そういうんじゃないよー」
「えーほんとにー?」
「サクの女子力が高すぎて私は今戦慄している」
「なによそれ」

 あはは、とサクが笑う。

「そうだ、そんなこと言うならサクはどうなの?」

 とりあえずこういう話題からはなんとなく自分をそらしたくなる人種なんです。どっちだったとしてもあまり人には言いたくないというか。

「あたし?」
「ああ、あの人だ。質名くん」

 オミが名前を口にする。
 そうそう、質名君。べ、別にランって名前とかアイくん、の愛称が印象に残りすぎて苗字怪しかったとかそういうことじゃない…ん…だからね…!

「アイのこと?」
「そうそう。帰りも一緒なんでしょう」
「まあ、帰りは確かに一緒よ?だってあたしアイの内にイソウロウ、してるんだもの」
「え、そうなの?」
「ええ。アイは一人暮らしで寂しいんですって」

 …高校生で一人暮らしな時点でだいぶ「おお?」ってなるのに、寂しいから女連れ込むとか質名くんやべえな…

「ちょっとサク?」

 聞こえていたのだろうか、通りすがりの質名くんが困ったように、咎めるようにサクを呼ぶ。

「アイ。なによ?」
「その言い方は誤解を生むからやめてよ。俺すっごいアレな人みたいになるじゃない!
 違うからね?弥蜂さんたちお願いだから勘違いしないで?
 ちゃんとまっとうな理由があるから…!」
「うん、大丈夫わかったよ、」

 必死な質名くんに、苦笑いながらもそう返す。
 びっくりした。確かにまじめそうだしそういうタイプではなさそうに見えるし、質名くん。

「ただの召使いなんだよ俺は」
「召使いって。それじゃあサクは女王様か何かなのかい?」

 至極おかしそうにオミが笑う。
 対する質名くんは至ってまじめな顔で

「ううん。今はお姫様」

 といった。

「キザだねえ」

 口笛でも吹かんばかりにオミが肩をすくめて見せる。完全にからかってるよこの人。

「ち、ちがうよ。ただこう…人を意識して命令して使役する感じがあるじゃない。女王様って。そうじゃなくて、ほんと、生まれたときからそんな立場だったから、気づかずに人をこき使ってるタイプなの。

 "なんであなたは私のために働いてくれないの?"みたいな感じなの」
「ああ、ちょっとわかる」

 いるよね、そういうひと。私の周りに実際にはいないけど。

「わかってくれる?さすがマリが贔屓!とか言ってるだけあるねえ」

 ちょっとまって、ものすごい爆弾が投下された。
 あの人よその人にもそんなん言ってんの?なにそれ恥ずかしい。
 すごくまじめなトーンで「嫌なんですけど」と言いたい。

「え、ランそんなこと言われてるの?」
「うん、なんかすごい気に入ってるみたいだねえ」
「知らなかったなあー。」
「あたしも初耳だわ。それもっと詳しく」
「え、口止めされてたことだったのかなあ…?
 …たあ、そういえば確かに俺以外の前で言ってることは少ないかも…

 …あの、これ俺が言ったってこと内緒にしといてね」
「うん、わかった。だから早く詳しく」
「ふ、ふたりとも、いいじゃないそんなことは」

 なぜそんな興味を持つ。やめて。
 止めに入るもいいじゃないいいじゃないと聞く耳を持ってもらえない。

「詳しいっていっても別に…
 やはちさんが誰かにぶつかられたりしたときとか結構な確立で舌打ちしてるよ。」
「兄かよ…」

 おっといけない口調が荒くなってしまった。今のはなしでお願いしたい。

「愛されてるねえ!」
「やめて!そういうんじゃないってあの人!!」

 恋愛感情と"うちの子可愛い"愛くらいちがうから!!たぶん!!

「あ、あと山見君が気に食わないみたいだねえ。」
「男の嫉妬は見苦しいのよ」
「そうだねえ」

 …質名くん、恐ろしい子…!
 なんでそんないしまきくんレベルのほのぼのしたトーンでそこまで爆弾落とせるの…!

「なんだお前らこっち見てこそこそして」

 マリくんも眉間にしわを寄せながらやってきました。
 
「マリくん。贔屓だなんだのって私関係ない人にも言ってたの?」
 
 まず聞きたいことはそれですよ。ええ、そこです。

「いや、"仕事"関係のこと言える相手そもそもいないし、いってない。こいつは例外。」

 マリくんが質名くんを指さす。

「質名くんだけ?」
「おう。アイはほら、糸由と仲いいし糸由はランと仲いいし」
「わかった。身内と質名君だけだね、じゃあよし。」
「おう。つかお前そういうの嫌がるだろ」
「そうだよ嫌だから今こうして問い詰めている」
「そうか」

 まあなんせ思ったより被害は少なそうでよかった。
 しばらく怒らんといけなくなるとこでしたよ全く。

「なんかすでに普段はおしとやかに一歩引いてついてくけど起こると怖い嫁みたいな貫録がるよね、弥蜂さん」
「質名くんもやめようそれ」

「っていうかアイは身内に入っていないのね?」
「まだ名前しってる程度だったから」
「えー。マリも入ってるんだよね?俺も入れてよ」
「え、う、うん?」

 別に登録制とか宣言制とかじゃないけど…
 まあいいか。サクと仲良しってことは何かあったら頼れるだろうし。

「わあうれしい。」
「質名くんも結構癒し系だよね」
「元ヤンだけどな」
「マリ?」

 男子2人結構仲良いらしい。冗談めかして笑っている。



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